小林泰三「人外サーカス」の感想。なんと、ネフィリムの続編。

帯を見ると、サーカス団が森で吸血鬼と戦う話。なにか秘密もあるらしい。

吸血鬼?吸血鬼というと、同作者では「ネフィリム 超吸血幻想譚」というヴァンパイアものがすでにあるんですが、まさかあれの続編なんでしょうか。タイトルからして全然雰囲気ちがうけど。

そんなことを思いながら読み始めてみると、なんと思いっきり「ネフィリム」と同じ世界のお話でした。

冒頭、サーカス団員のランディという男が、ナンパした女をサーカスのテントに連れ込みます。実は女は吸血鬼で、男が隙をみせた瞬間牙を向いて男に襲いかかります。が、男もそれを予期していて、吸血鬼の口に鉄パイプを叩き込みます。

実は男はコンソーシアムという対吸血鬼に特化した特殊部隊の一員で、かれらはあちこちに出没する吸血鬼たちを隠密に退治するため、サーカス団に偽装してアメリカ各地を回っていたのでした。

というプロローグから始まるこの話、コンソーシアムという設定や吸血鬼関連の世界観、設定はネフィリムと共通していますがそれ以外はとくに関係ないので、独立して読んでも面白い小説でした。ネフィリムは話がかなり大げさになっていて、マッドサイエンティストがいたり、吸血鬼よりも強大な化物がいたり、強化「内」骨格などの超兵器も出てきて世界が終わりそうな雰囲気があったんですが、今回はそういう細かい設定はひきずらずに悪役としての吸血鬼だけ用意されています。

吸血鬼は何人か出てきて、美少女のキリフィッシュがやな性格でサーカス団を苦しめます。やっぱり吸血鬼同士でも序列というか力の差がはっきりしていて、ボスと雑魚にわかれます。雑魚といえどもふつうの人間など文字通り秒殺できる力をもっているのですが。

大テント周辺で繰り広げられるサーカス団vs吸血鬼の、比較的こじんまりとしたアクション小説になっていますが、アクションに集中できました。ひねくれていると同時にちょっと間抜けな吸血鬼たちや団員の性格もきちんと機能していて、団員たちの間のドラマをはさみながら、能力で人間を遥かに凌駕する吸血鬼たちにどのように立ち向かうのか、楽しく読めました。

ただ、ひとつ思ったのは、吸血鬼がちょっと弱くなってる?ということ。この小説でも冒頭はそうなんですが、ネフィリムだと吸血鬼はかなり強力なモンスターとして描かれています。四方八方からマシンガンを打ち込まれても四肢がちぎれても死なず、十分な栄養(人の血液)があればすぐに再生し、空中浮遊し、狼などの姿に化け、筋力も桁違い。

吸血鬼は、並の人間をちょっと突き飛ばしただけで全身骨折させるレベルのパワーの持ち主だと思うんですが、今回は脳みそと心臓という弱点が強調されていて、そこを攻撃されると比較的あっさりと退散してしまう印象を受けました。

サーカス団員だからふつうの人よりも強かった?たしかに、そういう側面もかなりあるし、サーカス団の特技をうまく利用して対処してはいるんですが、それにしてもどうして吸血鬼がここまで手こずるんだろう。

と思ってよくみたら、ようするにここに登場する吸血鬼たちがちょっと相手を見くびっている抜けてるやつらなんだということに気づきました。主人公たちの読みと、吸血鬼たちの読みがうまくはまって、その結果思わぬ失点を重ねたというところでしょうか。そして、もちろん団員たちがいきなり皆殺しにされず能力を発揮できたそもそもの理由が、最初の大きな勘違いにあることは間違いありません。

それから岡崎徳三郎が突然登場するので驚きました。小林泰三の小説によく出てくるキャラクターです。長編だと「密室・殺人」「記憶破断者」、短編にもちょくちょく登場します。日本が舞台のミステリーとかならわかるんだけど、アメリカが舞台のアクション小説にこの老人が登場するとは思いもしませんでした。しかも活躍するので困る。

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まとめ

おもしろいアクション小説でした。グロっぽい描写はそれなりにある。トリックというか後半で明かされる秘密もある。短いので読みやすい。

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