「完全・犯罪」の感想。

小林泰三の短編集です。

タイトルからするとミステリ小説っぽいわけですが、そうではありません。不条理ネタあり、SFありでいろいろですが、意外なことにミステリはありません。あれ、でも裏表紙とかオビとかではミステリ短編集って書いてあるな。じゃあ、これもミステリなんでしょう。でも、いわゆる推理小説ではありません。

5篇しか入っていないのでちょっと物足りないように感じるかもしれませんが、それぞれに狙いの違ったお話なので結構満足感はあります。ただ、ちょっと荒い話もあるかな、という気はします。

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まず第1話、「完全・犯罪」。

これはSFです。タイムマシンがネタのタイムパラドックスものに小林泰三ならではのひねくれた会話が楽しめる話で、ネジ曲がった会話の方向性をだれも修正しないまま物事が積み重なっていく。全体にギャグっぽい話で、オチのバカバカしさも含めて楽しめます。この短編集のなかでは一番好き。

「ロイス殺し」

これは外国が舞台。語り手が自分の犯した復讐殺人を聞かせるという体裁になっています。貧しい村の少年時代、そこにすむ美しい少女。その少女が殺され、語り手は犯人に復讐すべく真冬に出立するという始まりなんですが、主人公の狙う相手のクズっぷりもなかなかだし、主人公もそれに合わせてクズに成り下がっているというピカレスク小説です。そこにちょっとしたミステリ風トリック、魔女、さらにクトゥルーをちょっと加えたなかなか盛り沢山なお話でした。

「双生児」

日本が舞台だと思いますが、これもクトゥルーの支配下にある世界での出来事ですね。なにしろ舞台が「雅宙摂津(まさちゅうせっつ)県嗚呼嚙無(ああかむ)市の御簾過渡肉(みすかとにっく)駅」ですから。お話としては、他の短編などでもちょくちょくでてくる、自分とは何か、自分のアイデンティティーはどこにあるのかというネタです。真帆と嘉穂という双子の女子高生のうち、真帆が主人公。子供の頃に周囲に混同され、自分は真帆でありかつ嘉穂であると思っていたという。やがて長じるに連れ自分が真帆であるという自覚はできたものの、果たして生まれた瞬間から自分が真帆であったのかどうか確信が持てなくなる…。この人の悩みはわたしにはよく理解できないわけですが、その後、姉妹が同じ男性を好きになることで自我の問題がさらに深刻に。さらに、二人の人格にまつわる秘密も明かされ、なかなか興味深い面白い話でした。

「隠れ鬼」

奇妙な味というか、不条理な話。どっちかというと論理的に進行する話が多いので異色に感じます。気づいたら突然見知らぬ世界に立っていたかのような取り残され感が味わえ、短編集のなかではもっともホラーっぽい。

「ドッキリチューブ」

筒井康隆の短編みたいな話。ネタ的には「世にも奇妙な物語」にピッタリ。と思ったら、実際に世にも奇妙な物語で映像化されてるんですね。「ドッキリ」の看板を免罪符にどこまでもエスカレートする番組制作者の暴走を描いていて、暴力描写のテンポはちょっとギャグっぽくもありますが、最後は現実的にまとめてくれます。

まとめ

5篇とも趣向が違うのが面白い。それがいや、という人もいるかもしれないけど、多彩な作風だなあと感心します。個人的には完全・犯罪、双生児、ロイス殺しが面白かった。