ケン・リュウ短編集「もののあはれ」の感想。

もののあはれ

過ぎ去った日々の追想、遠い未来からの郷愁、失われていくものへの思いに彩られた短編集。単行本では1冊の短編集だったものが「紙の動物園」「もののあはれ」と2冊に分けて文庫化された。

「もののあはれ」には8つの短編が収録されている。どれもSFとして読みやすく、一般にも響く内容になっていると思う。個人的にもかなり好みの話がおおい。

極めてSF的、結構新し目のネタもあるんだけど、グレッグ・イーガンとかと同じネタ、技術を使いながらもより一般的なわかりやすい話に落とし込んでいるというか。

人がすでに人の形をしていない遠い未来の話などもある。どの話も、消えゆく現在とかすかに希望の見える未来を想起させる話になっている。途方も無いな時間軸の中で、ちっぽけに見える人類がつかのまの輝きを放つ。そういうのが好きな人にはおすすめ。

ネタはわかりやすく、文章も読みやすく、なおかつ独自のトーンで統一している。

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良い狩りを

作風で典型的なのは「良い狩りを」という短編。最初は昔の中国が舞台で、妖狐とか妖怪退治師が出てくる。かと思ったら、スチームパンクになりサイボーグが登場する。意外なひねり方、見せ方が面白い。そして情緒が感じられる。他の短編にも共通する過去/未来の対比もしっかり描かれている。

この「良い狩りを」は作者にとってもお気に入りの短編だそうで、ネットフリックスオリジナルのSFアニメアンソロジー「ラブ、デス&ロボット」の1話としてアニメ化されてます。

グレッグ・イーガンに比べ、SFでしか味わえないという点では一歩劣る気がする。しかし読みやすく、面白い。

個人的には「1ビットのエラー」が印象に残った。テッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」を想起させる話だ、と思ったら、この短編の着想の源の一つがその短編だった。科学と神との折り合いはこれからもずっと書かれ続けるテーマだと思う。そこをあっさり超えてる作家もいるし、ピーター・ワッツみたいに科学的に神と関わる人もいる。神と科学の問題で一番有名になっているのは映画にもなった「コンタクト」かな。

まとめ

ゴリゴリのハードSFでもなく、ファンタジーっぽい話もありつつ、根底はしっかりSFで万人受けしやすそう。「紙の動物園」とあわせておすすめです。

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