小林泰三のおとぎの国シリーズ?「ドロシイ殺し」です。
アリス殺し、クララ殺しに続いておとぎの国シリーズになるんでしょうか。こんかいはドロシイ殺しということで、有名どころのオズの魔法使いがネタ元になりました。
独特の世界が魅力のシリーズ。
主人公である井森の活躍しているのかしていないのかわからないキャラクターは相変わらず魅力的です。このシリーズは世界の名作をモチーフにしているわけですが、肝心なのは地球と夢の中の別世界がリンクしているという世界観。
しかも夢の中だと思っていたおとぎの世界が実は地球よりも上位に位置する世界なのかもしれない、という世界の構造がひっくり返りそうな雰囲気もあったりして、物語が展開される空間自体が非常に魅力的に感じられます。
肝心の推理小説としての出来でいうと、地球と夢の世界のリンクを利用した鮮やかな仕掛けは最初の「アリス殺し」が一番きれいに決まっていたと思います。「アリス殺し」は不思議の国のアリスという題材も、女王が支配するいびつな世界での探偵調査も、推理小説としてのトリックも、どれも良くできていたと思います。
その後の「クララ殺し」はトリックという点ではちょっと劣ると思いますが、シリーズが続くことでキャラクターの魅力がより出てくるようになり、他作品のキャラが登場するという新たな楽しみが出てきました。
それがさらに推し進められたのがこの「ドロシイ殺し」だと思います。
推理小説としてみた場合、個人的には好きなタイプの話でした。夢の中の世界という、現実での理屈が通用しないむちゃくちゃな世界での謎解きが楽しみなんですが、今回もトリック云々がどうでもよくなる、魔法が支配する世界が面白い。
そして、それ以上に興味深いのがオズの世界の住人が、地球上のだれのアバターなのかということ。
玩具修理者、酔歩する男の主人公たちが登場。
先に言ってしまうと、この小説の登場人物は、「玩具修理者」「酔歩する男」の登場人物なのです。
しかも両者の登場人物がゲスト的に出てくるだけではなく、主要な登場人物として登場し、「玩具修理者」「酔歩する男」と直接つながっている物語としてこの本が設定されている。ほとんど「酔歩する男」の変奏といってもいいようなお話になっています。「酔歩する男」で一人の娘を巡って争った二人の大学生は「ドロシイ殺し」でも同じことをやっているし、同一空間上で玩具修理者の登場人物たちのドラマが展開されている。
もちろんそれを読んでいなくても楽しめますが、「玩具修理者」「酔歩する男」を読んでいる人ならより楽しめること間違いないとおもいます。オズの魔法使いって、どう考えてもあのキャラのアバターですよね…。
このシリーズは元ネタのアリス、くるみ割り人形、オズの魔法使いを読んでいるか少なくともあらすじくらいを知っているとより楽しめるんですが、巻末に「オズの魔法使い」ガイドがついてるのでそれを見れば大体わかります。むしろ、この本を読むならついでに「玩具修理者」「酔歩する男」も読んでみるといいかもしれません。
ちなみにそういう前提知識を全く無視しても、不条理でむちゃな世界観、混ぜっ返すような会話、シュールなグロ描写といったお決まりの要素はふんだんに入っているので好みが合う人なら楽しめると思います。グロ描写に関しては、なにしろ玩具修理者がいるくらいなので、前2作よりもパワーアップしてます。ただ、おとぎ話の世界で起きる出来事なのでグリム童話のあっさりした残酷性みたいなもので、むしろコミカルに感じられるかも。
まとめ
小林泰三ファンなら必読でしょうね。シリーズが好きな人にももちろんおすすめできます。超限探偵Σとか、ああいうノリが好きな人も楽しめるでしょう。
カカシとかブリキ人形とか継ぎ接ぎ人形が生きてたり、魔法で人が生き返ったりという理屈を無視した世界ならではの殺人事件と、そこでの危機を乗り切ろうとする人々。相変わらず面白かった。