貴志祐介「ダークゾーン」の感想。ひたすらエンターテイメント。将棋小説の傑作だと思う。

貴志祐介の小説はどういうわけかほとんど読んでいる気がする。寡作だけど、一作ごとにリーダビリティが向上している気がする。もともとエンターテイメント性の強い作家だけどほんとに読みやすく、「新世界より」「悪の教典」なんかはそこそこ分量あるのに一気読みしてしまえそう。

「ダークゾーン」。貴志祐介のなかでもこれがかなり好きというのはちょっと変わっているかも知れませんが。でも、面白いんです。

まず、設定の妙。

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唐突に夢とも現実ともつかない奇妙な世界に放り込まれる設定。

この話は、前置き無しでいきなり佳境から始まる。舞台の背景説明があって物語の展開があってそこから一つめの山場を迎えて、というふつうの流れがない。そういうところは「クリムゾンの迷宮」に似ている。

いきなりテンション高めの状況からはじまって、最後までテンションを維持して終わってしまう。テレビドラマの最後の引きの場面だけ繋げたというか、ひたすらアクションシーンだけを詰め込んだというか。

それも当然で、これは雑に言うと人間将棋の小説なんです。主人公たちが、気付いたら謎の異世界で、異形の者に姿を変えられ、将棋の駒となって相手側と戦わされる、という話。なので、延々と戦闘に次ぐ戦闘が続くのも当然で、物語的に無理はなく自然とそうなるわけです。

そして、その将棋的ゲームの面白さ。

将棋の7番勝負と同じ、先に4勝したほうが勝ちというゲームに参加されられている主人公たち。

最初は訳が分からないが、試合を進めるにつれ徐々にルールが分かってくる。やがて、相手の動きを読み、戦略を立て、裏をかく争いが始まる。

戦闘自体は、きちんとルールがあってどの駒がどの駒を倒せるかは状況、場面によって決められているので、むしろ肉弾戦より頭脳戦が重要になってくる。徐々に加熱していく知的なバトルがたまらない。それに1局中の戦い方だけでなく、肝心なのは先に4勝することなので試合をまたいだ駆け引きもあり、知的なパズルゲームに近い面白さが溢れている。

この辺の試合運び、駆け引き、さらにはゲームルールを考案してきっちりその裏の裏を使った展開まで考えるあたりが貴志祐介の真骨頂と言えるのではないかと思います。この人が推理小説を書くのは必然だったのではないか。

ちなみに、主人公は奨励会に入ってプロの棋士を目指していた若者なので、当然こうした頭脳戦も得意なのです。

そこでわき上がるさまざまな疑問。

というより小説の1ページ目からすでにおかしいのですが、そもそも、主人公たちはなぜこんな状況に陥っているのか。そもそもここはどこなのか。

徐々に明かされていく「現実」の物語も、なかなかいい。

こうした謎を徐々に明かしてくれるのが、幕間で語られる「現実世界」での物語になります。これがまた、いい。ここだけ青春小説になります。この辺は「青い炎」的な青春物語ですね。

また、ここでは主人公がいた奨励会のこともたっぷり描かれます。奨励会というのはプロ棋士を目指す人たちが日夜将棋の修行をしているところで、この本ではまさに修行といえるような厳しい生活の様子が描写されています。

主人公は大学の将棋部レベルの相手なら、三人同時相手にしても(三面指し)かるく圧勝できるほどの棋力があるのにそれでもプロ棋士になれていない。

どの辺まで事実に基づいているのかわからないけれど、ここで描かれる奨励会の厳しさは事実でしょう。そういう意味でも将棋小説といっていいと思う。

そして、幕間のせつない物語が徐々に「異世界」の物語とリンクしていく。このダブルプロットは読んでいて快感。

あとは、異世界の試合の舞台が軍艦島というのもいい。軍艦島を舞台に、二手に分かれて争う。試合に勝つと勝利を祝うかのように突如一面に百合の花が咲き乱れる。そのビジュアルがすごくいい。怪物と化した駒の描写も含め、読んでいて視覚的にも楽しい。

唯一不満があるとすれば、ラストかな。物語の構造はすきなんだけど、結局、なぜそうなったのか、といった点がすっかり明かされるわけではないので。もっとSF的な装置が出てきてずばっと説明してほしかったような気もする。そして、主人公には幸せになってもらいたかった。

まとめと感想。棋士の厳しさ、凄さがよく分かる本でした。

突然、読者も登場人物も訳が分からないまま「試合」に参加させられ、延々と試合が続くので、苦手な人はダメかも知れない。でも、まどろっこしい前振りはぬきにしてただただアクションを楽しみたい、という人にはぴったり。個人的には好き。

実写化は不可能だろうけど、アニメ化すれば面白いだろうな、と思っていたのですが、まさか「新世界より」がアニメ化されるとは思いませんでした。それも、わたしの想像していたビジュアルとは大きく異なる感じで。Netflixにあったようなので今度見てみる。  ←20170330現在、ありませんでした。