清水潔「殺人犯はそこにいる」の感想

本屋さんで、表紙に手書きの文字でびっしり「申し訳ありません。僕はこの本をどう薦めればいいのか分かりませんでした・・・」みたいな宣伝がかいていある文庫があって、ずいぶん自身のあるミステリーだな、すごいトリックとかがあるのかな?と思って手に取ってみたら、ノンフィクション・・・北関東・・・あれ? なんか見覚えあるな、と思ってぱらぱら見てみたら、「殺人犯はそこにいる」by清水潔の文庫版だったのでした。

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真犯人を突き止めちゃうすごい本。

これは単行本がでたときに読みました。冤罪事件として有名な足利事件ですが、それまで17年間収監されていた菅家さんが釈放され、2010年に無罪となったきっかけにもなったのがこの著者の取材、調査だということです。

冤罪だとして、じゃあほんとの犯人は?というのがこの本の一つのテーマで、著者は取材をすすめ、なんと真犯人(と思われる人物)を特定し、接触に成功します。

そして、もう一つのテーマは警察の杜撰な捜査。これは著者の評判を高めた前作「遺言:桶川ストーカー事件の深層」でも主題として取り扱われていましたが、不正を暴き、隠蔽された闇に光をあてるというジャーナリストの役割がいかんなく発揮されていると思います。

なぜ、真犯人についての情報を提供しているのに警察が動かないのか。

警察が情報に基づいて再捜査をすると、足利事件の誤認逮捕につながったDNA鑑定が誤りであったことを認めることになる。それが誤りであったとすると、同時期、それ以前のすべてのDNA鑑定が誤りである可能性がある。かりにそうであるとすると、ほかにも沢山の冤罪が隠されている可能性がある。

警察の事なかれ主義、官僚主義に対する批判の本でもある。

それが引き起こす可能性のある混乱をおそれて、警察は動かないのだろうと著者は推測しています。警察とはいえお役所仕事だから、そうかもしれないなあと思ってしまいます。警察とのバトルについては桶川ストーカー事件のほうがより詳しく書かれていて、被害届を受理しない、捜査もずさん、尾行調査だというのにあからさまに無線イヤホンつけて刑事丸出しの格好で相手にばれる、など警察のまずいところが赤裸々に描写されていました。

このへんの警察の事なかれ主義は、警察だけでなく他のお役所全て、だけでなくどの組織にも共通するところで、しかし隠せば隠すほど臭い物は腐って手に負えなくなるので、時々こうした本でそれが暴かれます。ただ、警察としては菅家さん無罪判決でこの件は終わりにしたいようで、この本の出版後も真犯人検挙にかんする動きがまったくないのが気になります。

未解決事件、だれが犯人家知っている人は絶対いる。

それから、真犯人の特定について。警察に捕まるかどうかは別として、殺人を犯したことは本人が知っているし、おそらくその周囲の人も知っていることが多いのでは、と思います。そこに警察が接触しないだけで。

桶川ストーカーでも、著者が犯人にいたる最初のきっかけは、カラオケボックスでの被害者の友人へのインタビューでした。そこでいとも簡単に風俗店店長がつきまとっていたことがわかります。さらに本の中では真偽はともかく、被害者を刺殺した実行犯がキャバクラで「さっき人を殺してきた、やばい」などと発言していた、といった情報も紹介されています。

だから数多ある未解決殺人事件の中で、犯人を知っている、疑わしい人を知っているという人は沢山いるはずです。噂レベルの話ならもっと広がっているでしょう。ただ、それが明るみに出るまでは警察では捜査しようがないので、結局はこの本の著者のように、個人で調査していくしかないでしょうね。またそれがヤクザがらみだったりすると、人は絶対に口外しないという選択もできるので完全に闇に葬られることもあるでしょうね。

清水潔の本はつっこんだ取材で面白い記事をたくさんかいているジャーナリストです。