「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」(アメリカン・スナイパー原作)の感想。

クリス・カイルという、イラク戦争で公式に150人以上を狙撃して殺害し、悪魔と恐れられた伝説のスナイパーの自伝。というより、映画「アメリカン・スナイパー」の原作といったほうがわかりがいいですね。早川書房で文庫化された際には「アメリカン・スナイパー」というタイトルに変更されています。

これ、たまたま映画の前に原作を先に読んでた。「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」というタイトルで、原書房からでているやつ。いかにも軍事マニア、銃器マニア向けといった感じのタイトルで、湾岸戦争で活躍した伝説のスナイパーがいかにすごいのか、詳らかにしてくれる本なのかなという印象をうけた。なんで買ったのかよく覚えていない。

内容は、思っていたほど面白い物ではなかった。基本的には自伝で、ネイビー・シールズに入隊し、訓練し、戦争で活躍し、同時に家族を愛し、戦争と家族の間で苦悩する様子が描かれている。そして、どれもがどこかで読んだような二番煎じの感じをうけた。ネイビー・シールズの訓練や組織の様子については、おそらくマニア向けにはもっと詳しい本があるだろう。戦地に赴きながらも家族を気にかけ、しかし戦闘体験がもとで家族とのすれ違いが生まれる、といったことがらは、ほかの多くの戦争映画、戦争小説で描かれている。この本は実話で、語られているのは当事者本人の言葉なんだけど、その割にはどうも紋切り型の描写で、メロドラマみたいに思えて仕方がなかった。ところどころ奥さんからの聞き書きが挿入されたりするのもいかにもって感じ。イラク戦争での活躍ぶりについても、本人の謙遜もあり、また実際の戦闘はそんなものなのだろうけれど、記録的な殺害数を誇れたのは任務を沢山こなしたからということで、よくある戦争映画のような劇的な戦闘シーンなどなかった。

この自伝でもっとも印象に残ったのは、この人の戦闘での態度。基本的に相手=敵=悪という単純な図式にしたがって行動していて、ぶれがない。相手が女性や子供でも、武器を持っていれば敵、という考え方で、子供だからためらうとかいうことがない。そして倒せば倒すほど自軍のためになるという信念で、戦争とはいえ殺人を犯していることで思い悩む、とかそういった様子がない。とはいえ、疲弊してきて家族ともうまくいかなくなったりするのでやっぱり非常に強いストレスがあったんだろうけれど。そして、印象には残るけれど、やはり単純に割り切りすぎていて、読んでいてわりと退屈してしまう。

おそらくこの愛国的でためらいのない著者の姿が、アメリカでベストセラーになった要因なんだろうか。非常に優秀な兵士であることは間違いないし、つまらなくはないけれど、期待していたような葛藤、戦争の地獄、軍隊の実態、といったものがだいぶ薄まった、すでに見たことのある形で採録されてるような印象を受けた。まあ、戦争映画は沢山あるし元軍人が書いた軍隊や戦争にまつわる本もたくさんでてるし、仕方ない面もあると思う。

ようするに、エンタメ小説のような劇的な面白さはないし、ドキュメンタリーのような緻密な取材、構成もない。あくまでも「忠実」な兵士の、個人が知りうる限りの回想録で、そのぶれない態度がこの本の一番の特徴。とくにアメリカ人にとっては英雄だし、その姿に感銘を受ける人が多いのも理解できる。忠実なのはアメリカ側の正義なので、それもとことん忠実なので、人によっては一方的に感じるかも知れない。

これが映画化、しかもイーストウッドと聞いたときはなんで?って感じだった。そしてアカデミー賞候補になったと知ってすごくびっくりした。わたしの中ではそんなたいした本じゃないっていう評価だったもので。本のことはすっかり忘れていたけれど俄然興味がわいた。(その後、だいぶ間が空いて見ることができた)

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