ハヤカワ文庫「物質のすべては光」の感想。はっきりいって難しい。しかし簡単であると嘘をついていないだけ良心的。

ハヤカワ文庫の<数理を楽しむ>シリーズ、「物質のすべては光」の感想。

ノーベル物理学賞を受賞したフランク・ウィルチェック作の、量子力学についての啓蒙書。ただし、内容は難しく理解不可能である。うっすらと理解できたように思わせて、わからない。それはこの著者が本当の物理学者だからだと思う。これがサイエンス・ライターとかの本だったら、よくわからないけどなんとなく分かったように感じる本になっていたはず。

「物質のすべては光(The Lightness of Being)」というタイトルからミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」を連想して、前書きを読んでまさにそういう人向きかも、と思って読んだわたしのような人は、きっと撃沈するだろう。

それくらいに理解しづらい本。物質と光が出てくれば、あたりまえだけどe=mc2がでてきて、相対性理論も出てくる。

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入門書としては結構難しい内容です。

同じような内容を扱った啓蒙書はたくさんあるし、それらのなかにはなんとなく内容が理解できたと感じられるものもある。そういう本との違いは、この本で書かれている内容にはけっこう真面目な、専門的な事柄も含まれていると言うことだと思う。単純化したたとえ話では伝わらないようなニュアンスが具体的にちりばめられているというか。つまり、難しい。

あるいは、わたしの頭がついて行っていない。おかしいな、しらふで読んだ筈なんだけど。

あとは、具体的な事柄と抽象的な数式の行き来がしづらい点。これについては、わたしのアルコールで犯された文系の脳がいけないのだと思います。本書では世界を記述するためのくつかの数式が出てくるんだけど、その数式を操作する時、これまで世界の事象と結びついていた記号が突然変化してしまい、わたしの文系の頭では理解できませんでした。

ただ、それ以外にこの本が分かりづらい理由は、一冊を通じての一貫した目的がいまいち不明なところにあるかもしれない。なんというか、質量の起源を説明したいのか、統一理論を追求したいのか、よく分からない。ま、究極的にはどっちも同じところに行き着くんだとおもうけど、この本ではいま何を説明しているのか、そして目的はどこなのかという、大本の方針をしっかり説明してくれれば、まだついて行きやすかったと思う。

といっても、宇宙の起源とか宇宙の果てのその先になにがあるのか、とかを説明した本はどれもこれも満足のいく説明をできたためしがない。

「宇宙が始まる前には何があったのか?」という刺激的なタイトルの本も、結局はその答えは教えてくれない。ホーキング博士の「the Grand design」という本も、宇宙の成り立ちを説明してくれるけれどその目的は頑迷な原理主義者を啓蒙することで、根本的な知りたいことを教えてはくれない。どちらも面白い本だったが。

(なお、そういう関係の本でいまのところ初心者むけで一番面白かったのは、チャールズ・サイフェの「宇宙をデコードする」という本。これは本当に面白かった。)

わかりやすいとか誰にでもわかるとか、嘘をついていないところは美点

「物質のすべては光」はそもそもそういうことを解き明かします、と宣言していない点で良心的。わかりやすいと謳っていない点がなによりよかった。

難しいからダメなのではなく、もともとややこしい事柄をごまかさずにややこしいまま説明してくれるのはいいところだと思う。たとえば村山斉の「宇宙は何でできているのか」という新書は、同じように難しい内容。それなのに宣伝文句でわかりやすいとか言い過ぎているのがいらいらした。ボゾンとかクォークの向きとかが出てくる辺りで、わからなければそこはおいといて、みたいに難しいところを飛ばしてしまうのも気になった。そこがわからないから、みんなもやもやしてるの。そこを飛ばしたら、その後ずっとわからんままやん。わからんのに分かった風に進められたら、余計分からん感が強まるのに。

まあ、あの本も悪い本では無いと思うけど、わかりやすいとか煽りすぎだったと思う。オビに「どえらく面白い。わかりやすい。・・・」と書いてた勝谷誠彦も、本当に読んでこのオビを書いたのか疑問である。

ともかく、物質のすべては光。二重スリット実験とかは飛ばして、さらにつっこんだ統一理論について知りたいひとにはおすすめ。量子グリッドとか、情報圧縮についての話題もある。興味深い。

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