キングの”Mr. Mercedes”の感想。とても面白い。(ビル・ホッジズ三部作)

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相変わらず結構な頻度で書き続けているスティーブン・キングの2014年の新作”Mr. Mercedes”を読みました。 キングは一般的にはホラー小説家と思われていると思いますが、実際には幅広いジャンルの小説をたくさん書いていてふつうの大衆作家なんではなかろうかと思います。 今回読んだ「ミスター・メルセデス」は超常現象などは一切なし、元警官vs大量殺人犯というストレートなサスペンス小説になっています。キングにしては結構珍しいのではないでしょうか。

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Mr. Mercedesはホラーではないサスペンス小説で、かなり面白い

で、読んだ感想ですが一言で言うと面白い。ホラー作家のキングがサスペンス小説に挑戦してみたら当たり前のように面白くてあっさりエドガー賞を受賞しちゃった、という感じです。話はシンプル、大量殺人鬼vs元刑事の、追いつ追われつの追跡劇です。

2008年のリーマンショック後、不況のアメリカ。ある街で大規模な就職フェアが開催される。不景気で失業者も多く、参加者は深夜から列を作って開場を待っていた。そろそろ開場という朝方、一台のベンツが会場に近づいてくる。ベンツはスピードを緩めず、逆に加速して列に突っ込み人々をなぎ倒す。ベンツはそのまま逃走。多数の死傷者を出した犯人はMercedes Killerと呼ばれ、事件は未解決のまま。

その後、事件を担当していた刑事のビルは引退し、テレビを眺めるだけの無為な生活を送っている。体重も増え、常に銃を手にし無意味な人生に終止符を打つタイミングを待っている。そんなビルの元に1通の手紙が届く。ビルを刑事と名指しするその手紙は、Mercedes Killerからのものだった。 手紙はビルを挑発し、事件を解決できなかったことでなじり、自殺に追い込もうという意図で書かれていた。事件を担当していたビルはこの手紙が本当に犯人が書いたものであるとわかる。ビルは警察に任せるのではなく、自ら犯人を見つけ出そうとする。

こんなふうに始まるのですが、だいたいプロローグで4分の1くらいでしょうか。ビルが犯人をプロファイルしていく様子がもう面白いです。手紙の文章の癖や言葉遣い、書かれた内容から犯人像に迫っていくのですが、ちょっとした文字遣いや書き間違いに注目して手紙を解析していくところが臨場感があり、いかにも読書好きなキングならではって気がします。

ビルのもとにジャニーという女性が現れます。ジェシーは犯行に使われたベンツの持ち主の妹で、事件後に自殺しています。ジャニーはその自殺についてビルに調査を依頼するのですが、その過程でビルの刑事時代の捜査に手抜かりがあったことに気づき、またそこにも犯人の関わっていることを突き止めます。

ビルは犯人の挑発に乗り、ネットのツーショットチャットみたいなサイトでコンタクトをとります。元々は犯人はビルをなじり自殺に追い込もうという意図で手紙を送ったのですが、このチャットを利用してビルは逆に犯人を挑発します。ビルのメッセージが爽快で、犯人もいらつくだろうな。しかし、逆上した犯人はより大胆になり・・・。

ここから先はテンポよくどんどん話が進んでいき、途中大きな出来事を挟んでクライマックスまでまっしぐら、とくに最後はハラハラどきどきさせられます。よくできたサスペンス小説です。

ちなみに犯人探しがメインではないので、犯人の正体はすぐにわかります。地元のパソコンショップ的なところにつとめている、オタクっぽい青年ブラディ君29歳(たしか)です。パソコン修理とかが得意で必要があれば自宅訪問サービスもしてて、副業でアイスクリームの移動販売をやってて子供たちにも大人気。という表の顔を持つ一方、重度のマザコンで、母親との異常な関係があり、性根はねじくれています。かれのいじけた根性はなかなか見応えがあります。

ビルを手助けするのはジェローム、大学進学を控えた高校生で、長身で頭がよく、進学希望はハーバード、滑り止めでプリンストンかというとやな感じですが、キングの小説の定番の善良な黒人で、家族思いで一片の曇りもない好青年です。

もう一人のサポーターは中盤ころに登場するホリーという女性。ジャニーの従姉妹で、40代後半ですが親の影響か自閉症っぽい感じでふつうに人と接することができない。このホリーのキャラクターがかなり面白く、最初は脇役かと思っていたのですが徐々に重要な存在になってきます。最後の最後にとても重要な行動をするのですが、その際のホリーの意識の描き方なんかがとても印象に残っています。「キャリー」の主人公みたいなタイプになるのでしょうか。

この三人がブラデイに迫るのですが、ブラディも様々なトラブルを抱え爆発寸前、ついにとんでもなく危険な計画を実行に移します・・・。

文章はテンポよく、たぶんキングにしてはめずらしく全て現在形で書かれていて臨場感があります。それほど長くもないので読みやすいのではないでしょうか。 それから思ったのは、ネットのチャットやらパソコン関係の知識やら、そういったところのアップデートがきちんとしていること。キングもいい年ですが、自分でもタブレットなんか使ってるんでしょうか。もちろんパソコンやネットは日常的に使っているのでしょうが、その辺の知識をサポートする編集者や周りの人の手助けもけっこう重要なんだろうなと思いました。それから冒頭の就職フェアとか、経済的に停滞している様子が描かれているようにも感じました。この辺も、直接的に物語には関わってこないのかもしれませんが、時代の雰囲気を感じます。

この”Mr. Mercedes”は三部作になることが決まったそうです。残りの2作も楽しみ。