西畠清順がクリスマスツリーの件で批難を浴びているのを聞いて、この本を思い出した。
西畠清順の件については、どこが悪いのかさっぱりわからない。
氷見の木を神戸に持ってきて、神戸の復興を祈念して世界一のクリスマスツリーとして飾るという行為。それが偽善だとか自然破壊だといってけっこうな批判を受けているらしい。
別に木を盗んできたわけでもないだろうし、氷見の許可を取り、神戸市の依頼を受けてやっていることだろうし。自然破壊だと言われても、木もこういうふうに利用されるのは悪いことではない。爪楊枝や割り箸やパルプの原料になるのとなんら変わらない。
プラントハンター=商売
偽善だ、といわれても、当たり前ながら西畠さんは商売でやっているので当然利益を得る前提でこの植樹をやっているはず。
そのほか批判されている内容も、西畠が請け負ったイベントを盛り上げるために使った表現があら捜しの対象になって、揚げ足をとられているようなものが多く、そこまで目くじら立てなくても…と思ってしまう。
神戸市としても西畠としても、批難を浴びるのは想定外の事態だったろうけど、残念ながらこういうイベントはつつがなく進めることが大切で、ここまで批判が巻き起こったという時点でイベントとしては手放しの成功とは言えないかもしれない。
批判の背景にはプラントハンターに対する誤解があるような気もする。プラントハンターとは、植物(特に珍しい植物)を採取して金にしている山師のことで、べつに環境保護とか自然保護をしている人じゃない。どちらかといえばその逆だろう。
昔のように大金持ちや女王様のようなパトロンがついていれば別だが、そうでなければ植物を探しに渡航する費用も、渡航先での滞在費も全部自腹。それをどうやって工面するかというと、当然見つけた植物を売って金にするに決まっている。それがプラントハンターで、金にならないのにわざわざジャングルの奥地まで植物を探しに行くわけがない。というより、出来ない。かれらは学者や研究者じゃなくて、あくまでも商売人。
西畠清順がやっていることも植物を利用した生業で、それを偽善とか環境破壊とか言われても、困ってしまうのではないか。
「蘭に魅せられた男」の感想。
それはともかく「蘭に魅せられた男」。映画化されてアカデミー助演男優賞もとった「アダプテーション」のほうが有名かもしれない。
紀伊国屋書店の内容説明には、
「幻の幽霊蘭」と呼ばれ、愛好家垂涎の的となっている花がある。その花の名はポリリザ・リンデニイ。見る者の目を一瞬にして奪い、どんな手段を用いても獲得せずにはいられない幻の蘭だ。そしていまだかつて、その繁殖に成功した者はいないという。そんな幽霊蘭の虜となり、果敢にもこの野望に挑んだ男がいた。園芸コンサルタントで奇矯なコレクターのジョン・ラロシュ。彼は、綿密な計画のもと、フロリダ州保護区から、幽霊蘭を盗みだすことに成功する。ラロシュはブラックマーケットでのみ売買される高価な植物を、最新のクローン技術を駆使して大量増殖し、富と名声を手に入れようと目論んでいたのだが…。栽培にまつわる薀蓄やコレクターたちの面妖な世界を巧みに織り混ぜながら、蘭をめぐる類い稀なる犯罪事件を描き、全米で大反響を呼んだ話題のノンフィクション、ついに刊行。
と書かれている。これを読むと、ランを手に入れる冒険譚、ラン業界やコレクター界の業界話や裏話を織り交ぜ、犯罪事件とその犯人を追ったドキュメンタリーのように思える。しかし、ぜんぜん違うんです。
この説明文にかかれた内容を期待して読んだ人は、たぶん当てが外れてがっかりすると思う。たしかにそういう箇所もあるにはあるけどそれは時々出てくるだけで、本書の大半で描かれているのはラロシュという変人に振り回され、引きずり回される著者の姿。
読み始めて半分もすれば、あ、これは植物とかプラントハント関係の本じゃない、とうすうす感じてきて、もう少し読み進めるとぼんやりと見えてくるものがあるはず。
それは何かというと、大袈裟に言うと人生とは何か。
このラロシュという男、結局はプラントハンターを辞めて、本書の最後らへんではWebサイト構築みたいな仕事をやっている。それで結構満足している。かれのわけのわからない生き方を見つめることで、いったい仕事とはなんだろう、ひいては人生の意味ってなんだろうということまで考えさせるようになっている。
人生とは、と大上段にかまえている本ではなく、著者が何か特殊な洞察を得るわけでもない。著者がラン業界をさまよい、どうにも理解できないラロシュという人物をなんとか推し量ろうとする様子を通じて、読んでいる側が自然とこれ、なんなんだろうなぁと人生についての思いを馳せるようになっているんです。
おそらく著者もそういうのを意図して書いたわけではないと思う。最初はそれこそプラントハンターが幽霊ランをゲットしたけど、それが犯罪行為で捕まったとか、大量増殖して一攫千金を狙う面白い業界話みたいなのを書くつもりだったのでは。それがどういうわけか不思議な本になってしまった。
この本が面白い理由は、一つにはラロシュという人物の奇矯な性格にある。もうひとつは、浅いところで放り出さず、ラロシュを結構丁寧に取材し、その周辺を受け止めた著者の能力にあるとおもう。
「アダプテーション」も、本を映画化するまでのドタバタを映画化したもので、原作とはまったく違うけれど原作のある面を映像化できていたと思う。
一番罪深いのは「驚くべき蘭コレクターの世界」という副題かな。これで間違った方向に読者を導いてしまう。読めば気づく、とはいっても、あくまでも蘭が、植物が主体の本だと思って読んだ人はがっかりするかもしれない。