ケータイの料金プランではなく、スコット・スミスが1993年に発表した小説。
舞台はアメリカ北部の雪の多い田舎町。町外れの森に小型飛行機が墜落する。その飛行機には大量の現金が積まれていた。偶然それを発見した主人公は、それを兄、妻、友人だけの秘密にし現金を自分たちのものにしようとする。
というお話で、当然そう簡単にはいかず、様々なトラブル、裏切り、疑心暗鬼が発生して主人公の計画が崩れていきます。
発表当時、サスペンス小説の傑作としてスティーブン・キングに激賞されました。これは信じてもいいスティーブン・キングで、たしかにこの小説は面白かった。主人公が計画した、お金を手に入れるための単純な計画(シンプル・プラン)がうまく運ぶのかというスリルと、少数の登場人物のやりとり、心理描写、その微妙な人間関係の変化の面白さでわりと夢中になって読めます。
しかしもうひとつこの小説の特徴はその閉塞感にあると思います。
変わり映えのない生活からくる閉塞感。
人生の楽しみを見いだすのではなく、生涯に稼げる賃金を全部計算して、あれも買えないこれも買えない、あれもできないこれもできないと、人生の制約にだけ目を向けため息をつくような。自分はこの先も同じような日々を送り、ここで死んでいくんだろうなという主人公の思いが聞えてきます。雪深い山奥の街という舞台設定も、その印象を強めている。
なまじ街ではうまくやっている主人公だけになおさら代わり映えしないだろう未来への不満がたかまっているのではと想像できます。
そこに思わぬ大金が転がり込んでくるのだから、物語が始まる前の設定としてはとてもよくできていると思いました。
映画もいい出来だった。
映画化され、それもよくできていた。サム・ライミの久々の監督作ということでちょっと話題になっていたような覚えがある。アクション演出が得意なサム・ライミがどっちかというと心理的な要素の多いこの映画の監督ということでもおやっと思ったような気がする。
出演者は主人公にビル・パクストン、その妻にブリジット・フォンダ、主人公のちょっと頭の弱い兄にビリー・ボブ・ソーントンと、けっこう豪華。ブリジット・フォンダは今はなにをしているんだろうか。あとゲイリー・コールという俳優が出演しているが、これはサム・ライミ製作総指揮のテレビドラマ「アメリカンゴシック」の保安官役でずっと出ていた人。その昔、日本でも放送されていた。
映画と小説は基本的には同じように進行するが、途中、主人公の兄の扱いを境に大きく変わる。映画はその後まもなくエピローグとなり、暗い余韻を残して終わる。映画を観ると、ドキドキハラハラもするし面白いんだけど、最後はもやっとした、暗い、絶望感が残る。生きるって空しい・・・とか思ってしまうような、いやな感じです。
原作は映画よりも最悪な事態に陥り、なぜか笑えてきます。
小説では、結末に至るまでが映画よりももう少し引き延ばされている。映画でもかなりのトラブルの果てにどうしようもない結末に陥ってしまった主人公だが、小説ではさらに自体がどんどん悪い方向に進んでいって、ここまでくるとむしろ思わず笑ってしまうくらいだった。
いまでさえ非正規雇用などでなんだかぱっとしないのに、これから先は少子化が進んで地方都市の多くがゴーストタウンになることがほぼ決定的で、破綻しそうな日本。そんな現在の日本で読むのにぴったりの小説ではないでしょうか。映画版はなんだか見終わった後暗くなるけど、なぜか主人公の悲惨度のより高い小説は、読後もそれほど暗い気分にはなりません。
なお著者のスコット・スミスは今のところ一発屋で、この小説の後長いスランプに陥り、ようやくそれを脱して2008年に「ルインズ 廃墟の奥へ」という小説を書きました。その後は2017年現在新作無し。
「ルインズ」もスティーブン・キングに激賞されていますが、これは信用できないスティーブン・キング激賞です。テレビ映画化もされていますが、この小説は駄作だと思います。