スティーブン・キングの小説「アウトサイダー」の感想。テンポよい快作。ミスター・メルセデスっぽいけどイットにも関連してる。

”The Outsider”というキングの小説を読みました。この本、2019年12月現在まだ翻訳出てないみたいだけどもうアメリカでドラマ化されてる。最近のキングブームぶりはすごいものがあります。

結論から言うととてもおもしろいお話でした。そんなに長くないし、テンポもよくてさっくり読みやすい最近のキングらしい小説。それでいて過去のキング作に通じるものがあり、大きなキングの世界の一部をなす物語になっています。

まだ翻訳が出ていないので、とりあえず最初にネタバレしない程度に感想を書きます。

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ネタバレ無しの感想、まず序盤のあらすじ

とはいってもちょっとあらすじを書いておく。

フリントシティという町で、惨たらしく殺害されたフランクという少年の遺体が発見される。主人公の警官ラルフ・アンダーソンは何人もの目撃者、指紋といった証拠からテリー・メイトランドという男を逮捕する。かれは高校教師で、野球のリトルリーグのコーチもしていて、妻と二人の娘をもつ良き夫でもある。いたって善良な市民だし、ラルフ自身も家族ぐるみで良好な関係をもっていた。それだけにこの凶行をゆるせなかったラルフはリトルリーグの試合中に公衆の面前でテリーを逮捕する。ラルフの息子も、テリーに指導を受けていたので、この感情はわかります。

目撃者、指紋、さらに現場に残されたDNA鑑定も控え、テリーが犯人であることは間違いないように思われた。

ところが。テリーには鉄壁のアリバイがあった。少年が殺された日、彼はフリントシティをでて別のキャップシティという町にでかけていた。それも一人ではなく、高校の同僚3人と一緒に。その日はキャップシティで、英語教師の集会が開かれていたのだった。

さらに、集会のゲストスピーカーに呼ばれた作家の講演会では、テリーは質疑応答で作家に質問をしていた。そして、その様子がばっちりカメラに記録されているのでした…。

こんなふうに始まるお話です。

矛盾するアリバイを崩すミステリー小説?

相変わらずベテランらしい、情景、心境が手にとるようにわかる読みやすい文章です。今回の物語は主人公が警官で、殺人事件の捜査から始まるので、どことなくミスターメルセデス三部作に通じるものがあるような気がします。また実際、あの三部作とおなじ世界の物語になっています。

少年の殺され方はひどいもので、犯人に対するラルフの怒りは最もです。しかしテリーの描写をみると、とてもひどい殺しをするとは思えない善良な人間のように思えます。高校の教師ってキングの小説にほんとによく出てきますね。

公衆の面前でテリーが逮捕されたことで妻と娘もマスコミの標的になり、平穏な生活が一瞬で崩れ去る様子もよくわかります。

そして、テリーにアリバイがあることを知ったラルフ。確実な証拠に基づいて逮捕したのは間違いないのに、それと矛盾するアリバイが出てきた。証拠とアリバイの板挟みで苦しむラルフの様子もよくわかります。

ラルフは果たして自分の逮捕が間違いだったのか妻と話し合い、テリーの妻は弁護士のハウイーと協力して家族を守り、テリーの潔白を証明しようとする。どちらの側にも十分感情移入できるのでこの先がかなり気になります。はたして少年を殺したのはテリーなのか。それとも、なにか裏があるのか。

その後、ちょっとネタバレ有りのあらすじ。

さて、この先はちょびっとだけその後どうなるのかを書きます。

まあ、ラルフもテリーもどちらも比重をおいて描かれているし、どちらも悪人には思えない。だからどこかに真犯人がいて、テリーははめられたんだろうな。そして二人が協力して真犯人を捕まえるのかな。

そんなふうにおもって読んでいたらあらびっくり。なんと、テリーは留置所から裁判所に向かう際、裁判所の入り口で暴徒に撃たれてあっけなく死んでしまう。

テリーが捕まったことは大きなニュースになっていて、犯行の凶悪さから裁判所の前にはテリーに死刑を!とか喚く人たちやテレビ局の人たちで人だかりができていた。そこに紛れていたのがオリー・ピーターソン。かれは殺されたフランク少年の兄だった。新聞配達のかばんからピストルを取り出すとテリーに向けて発射し、テリーを殺し、自分はラルフに射殺された。

オリーの母はフランクの葬儀後に心臓発作を起こして死んでいたのだった。弟と母を一気に失ったオリー。そしてオリーも撃ち殺され、残った父も自死を選ぶ。ピーターソン一家はあっというまに断絶…。

このあとどういう展開になるのか、このへんが読んでて一番前のめりになったところかな。

そしてこのあとは、これまでの犯罪小説、ミステリー小説のような雰囲気からまた違った小説に変化していきます。このあとはさらなるネタバレになるかもしれないんで見たくない人は見ないでね。

ホリー登場。

ラルフは職務上人を殺したことによる休職となる。フランクの死、その家族の死、テリーの死すべてに責任を負いながらも、テリーの犯行の証拠を突き止めようとする。テリー側も、弁護士のハウイーと彼が雇った元刑事のアレックが協力して、テリーの無実の証拠を更に集めようとする。

ここでホリー登場。やったぜ。

ホリーはミスターメルセデス三部作に登場する女性で、人付き合いの面や精神的な面で大きな問題を抱えながらも鋭い洞察力と土壇場での真の強さで危機を切り抜けてきた。最近の登場人物の中では、もっともよくかけてる人物といっていいんじゃないかと思います。なんていうか、「キャリー」の主人公キャリーの進化系というか。

そしてホリーが調査に乗り出し、ほかのだれもが気づかなかった別の事件があったことを突き止め、今回の事件と深く関わっていることを直感します。同じ人物が同時に2箇所にいるなんて常識ではありえない。でも、現にその証拠があるのだから、常識では考えられなくてもそれが事実。それがホリーの考え方。ホリーはブレイディーとの一件で世の中には常識を超えた何かがあると知っている。

感想。

ミスター・メルセデス3部作はどちらかというと普通の犯罪小説で、最後に突然オカルト小説の様相を帯びた。それに対しアウトサイダーは、最初からオカルト小説なんだけどずっと普通の犯罪小説のふりをしている感じ。

中盤になるまでオカルト要素を明かさず、2つの矛盾する証拠をめぐる逡巡が長いこと続く。それが悪いかというとそんなことはなく、訴訟やらピーターソン一家の死やらで大きなストレスを抱えながらも逃げずに立ち向かうラルフの姿は見ていてハラハラするし、ハウイーやテリーの妻が無実と断ずるのもすかっとする。矛盾による劇的対立が面白いので、それが解消されるとむしろ拍子抜けするかもしれない。

実際、ホリーが現れて魔法のように物事が進行し始めると、あ、つまりそういう話なわけね。となる。そして、後半がややあっさりしているかな。

とはいえ、面白い。その後の展開はほんの少し中だるみする気がするけど、最後らへんは緊迫感があるし。目の前に危険があること、読者は知っているけど登場人物は知らない。この手法を露骨に使っててかなりドキドキさせられる。

ラストもいい感じだった。凶悪犯罪が発端の、邪悪な力と対峙する物語なんだけど、同時に家族の物語でもある。何かに対峙するのに必要な力を与えてくれるのが家族だったり、愛情だったりするのかな、と思わせてくれる話でした。

イットや他のキング作品との関連。

これはもう明白なんですけど、この物語の悪はイットの化け物やダークタワーのシェイプシフターと同じ存在なのではないでしょうか。この小説中でも、itって呼ばれてるし。この本では最初el cucoと呼ばれるメキシコの悪霊として理解されるけど、それはホリーがみんなにわかりやすく説明するための方便であって、最終的な描写はシェイプシフターになっていると思います。

それから、ホリーが説明に使うルチャリブレ映画”Mexican Wrestling Women Meet the Monster”の主人公はRosita Munoz。まったく同じ名前の女性が、ダークタワーの何巻かで登場して疲れたローランドを癒やしてくれてました。

また、ダークタワーのキーワードの一つでもある「カ」という言葉もそのまま出てきます。

そしてもちろん、登場人物を共有するミスター・メルセデス3部作とは地続きの関係。ということは、ミスター・メルセデス3部作も含めてダークタワーの世界に取り込まれてしまうことになりますね。正確には、ダークタワーの世界につながっている、ということかな。

まとめ

ここ最近のキングらしい、素直に面白い小説です。ちょっと型にはまってる感じはするものの、それでもこれだけ楽しめれば文句はありません。

キングは初期の傑作があって、その後の低迷期(セルとか)を過ぎて、いままたいきなり面白くなったような気がする。近頃はちょっと濃度はさがってさらに読みやすく大衆小説っぽくなっている気がするけど、でも十分面白い。今回のアウトサイダーは、最初から最後までの構成も巧み。前編とおしていくつかのキーフレーズがちょっとくどいかな、というくらいに使われているせいでもあるかな。

個人的にはドクター・スリープよりもこっちのほうが面白い。

ドラマ化について。

2020年1月にアメリカでドラマ化、すでに予告編が流れていました。

キングによれば、自作の映像化の中ではそうとう上手く行っているらしい。もちろん、悪口を云うはずはないので実際のところは見てみるまでわかりませんが。でも予告編見る限りなかなか良さそうな感じです。ただ、ホリーは出てこないみたいですね。ホリーらしき役割が別の女性になっているようでした。

これも、日本で見られるようになったらぜひ見てみたいものです。

そういえばミスター・メルセデスもまだ見ていないんだった。これはもうシーズン3まで放映されてる。アウトサイダーを読んだら見てみたくなったので、見てみます。

 

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