スティーブン・キングの大作「ザ・スタンド」の感想。変異型インフルエンザウィルスで99%の人類が死滅。その後に待ち受けるのはどストレートな善と悪の対決でした。

2019年2月追記:CBS ALL Accessで再映像化が決まりました。全10話のドラマ。監督はジョシュ・ブーン。

昔、翻訳が出たときに、買おうかな、どうしようかなと迷って、その時はお金がなくて買わなかったのがスティーブン・キングの「ザ・スタンド」。

その頃はキングをあまり熱心には読んでいなかったと思うけどやっぱりキングの超有名作だし、超弩級の大作でもあるし、いつかは読もう、と思っているうちに書店から消え、やがて出た文庫版は同じキングの大作「イット」全4巻を超える全5巻で、そろそろ読んでみるか・・・と思っているうちにやはり書店から消え、最近になってようやく読みたいなと思ったときには、田舎だからか本屋はおろかブックオフにも並んでおらず、まだまだ衰えないキングの発表する新作なんかを見ているうちに読みたさは増していき悶々としていたところでペーパーバック版が手に入った。

ペーパーバックは1,400ページを超える分厚いな本で、よかったのは比較的安かったこと。スタンドは最初に刊行されたあと、削除された部分を追加したりして大幅な加筆修正を加えた完全版がでていて、このペーパーバックもそうだった。日本語版も完全版だったと思う。

ちまちま読み進めてなんとか読み終えたので、感想を書きます。

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スティーブン・キング「ザ・スタンド」の感想。

スタンドは今度アメリカで映画化されるらしい・・・という企画があがってからしばらく音沙汰がないので心配だが、以前にもアメリカのミニドラマシリーズになっていて、昔NHKのBSで放送されていた。

原作を読んで、ドラマ版は原作と比べると随分変更された部分があるんだなというのが分かった。

ドラマシリーズはオープニングがかっこいい。世界の99%以上の人を死滅させることになるウィルスが軍の研究所内で漏れちゃって、職員はほぼ全滅。その、ほぼ即死状態の職員が点在する研究所の様子が Blue Oyster Cultの”Don’t Fear the Reaper”という曲にのせて映されていくのがかっこよく、たぶんドラマ版で一番有名なシーンかも知れない。よく考えるとインフルエンザ改変ウィルスに罹患したわりには、食事のお皿に頭を突っ込んだりしている職員の豪快な即死っぷりがなんかおかしいのだけど、曲とノリがかっこいいしあまり気にならない。

原作では、一陣の風が吹きぬけるようにウィルスが研究所を抜ける様が最初のプロローグでとても鮮やかに、軽やかに描写されていて、俄然読む気をそそられる。

初期のキングらしいあっさりとした書きぶりが多く、長い割に読みやすい。

キングの小説はよく描写がねちっこいとかしつこいとか言われているけれど、それと同時に軽さ、読みやすさも備えていて、むしろあっさりしていると思える部分も多々あるんじゃないか。いまたまたまストラウブの小説を読んでいるのでそれと比べてみると、ストラウブのこの小説ももちろん冒頭にフックをもってきてはいると思うんだけど、それがはっきり言ってまどろっこしいというか、ややぎこちないというか、人によってはそこで読むのを止めてしまう恐ろしい可能性を秘めている。読み進めると、面白いんだけど。それに比べるとキングの小説の多くは文章につっかえてしまうことがほとんどない。

キング=重厚、というそこはかとないイメージがある気がするが、それは「IT」とか「トミーノッカーズ」とかに顕著で、この「ザ・スタンド」では文章の粘り気自体はそこまではないのではないか、と思う。お話自体も、たくさんの登場人物が出てくることからある程度で場面が切り替わるので、それも読みやすさにつながっているのかもしれない。例えばラリーが真っ暗なトンネルを抜ける場面とか、トラッシュカン・マンとザ・キッドの旅路とか、それ単体で読みどころになるような濃いシーンもたくさんある割には結構さくさく読める。

ストーリーはストレートな善vs悪の戦い。

研究所の封鎖を逃れた職員を載せた車が主人公のいる田舎町にやってくる。ガソリンスタンドに突っ込んできた車の中には、いずれもひどい有様で死んでいる職員と妻子が。

そこを発生源に、数日のうちに町中で感染者が発生し、感染はやがて国中に広がっていく。

この序盤あたりから、ドラマ版とはかなり違ってきている。ドラマ版は全4話だったと思うけど、それでも全然尺が足りなくて原作のダイジェスト版みたいになっている感じです。

原作では感染者が続出して国が機能しなくなっていく様子を、視点を切り替えながら淡々と描写していきます。そこら中で人がどんどん死んでいって、警察も軍もなにもかも機能しなくなっていく状況なんですが、割と落ち着いた、さらりとした描写です。ただ、個人的な視点と集団の描写を織り交ぜて、ものごとのスケール感は伝わってきます。

確かに、戦争じゃないし、宇宙人がせめて来たわけでもないし、あっけなく始まる世界の崩壊を描写すると、こんな風にあっさりとしたものになるのかも知れない。

しばらくすると登場人物が出そろって、この物語の行く末が見えてくる訳ですが、簡単に言うと善と悪の戦いの物語になります。下の、初版本の表紙を見てください。

スタンドの表紙

スタンドの表紙

これが海外版スタンドの表紙で、この二人の人?は実際に本にでてくる人物じゃなくて、善と悪を具象化したものだそうです。

小説でもほんとにはっきりと善と悪が分かれます。善人は、100歳を超える黒人のおばあちゃんに従ってコロラド州ボールダーに。悪人どもは、ラスヴェガスに集います。わかりやすいですね。この辺、ときどき直球のわかりやすさが入ってくるところがキングの好きなところです。

この小説では沢山の登場人物ができてますが、それぞれのあしらい方も印象的で、その辺も好きです。ページ数は僅かでも印象的なキャラがけっこういる。悪役側も主人公側もみなキャラが立ってます。

一番かわいそうなのは、ハロルドですね。不格好な根暗なオタクで、幼なじみのヒロインに淡い恋心を抱くものの主人公にあっさり横取り?され、やがて悪の力に負け暗黒面に引きずり込まれ、用事が終わったら即ポイ捨てされる。なんて悲惨なんだろう。

主人公もひどいね。ハロルドとトラブることはわかっているのに、ヒロインと知り合った瞬間、やがてただならぬ関係になるだろうことを直観してしまうのだから。

この三角関係にも意外な分量を費やされていて、キングの純愛小説家っぷりがよくわかります。

宿命とか運命を感じさせる物語の展開。

やがて、善と悪の対決が訪れるんですが・・・それにいたる経緯も、その結末も、はっきり言ってまったく予想していない物でした。さらにいえばその後のエピローグも。

主人公たちが運命に身を任せて、自分たちも半信半疑のまま旅立つシーンから、敵陣での悪との対面まで、まるでなにか見えない力に導かれているかのような雰囲気がにじみでています。そしてそこで起きる出来事。骨折して身動きのとれない主人公と、そこに登場する者。

抗いようのない運命、というものをひしひしと感じる。

この小説がいかに変わっているかは、同じような破滅後のアメリカを舞台にした「スワン・ソング」と比べるとよく分かる。「スワン・ソング」も同じように善と悪の対決する王道エンターテイメントで、ハリウッド式のベストセラーアクション小説、面白いです。

同じ題材でもまったく雰囲気が違って、見ている方向がまったくちがうんだなというのがよくわかる。ヒーローが活躍してヒロインが力を発揮して、迫りくる滅亡の危機を回避する…という「スワン・ソング」と比べると、「スタンド」の主人公たちはなにもしていないに等しい。なにもしないというか、ただただ夢で呼ぶ声に従ってコロラド州に向かい、そこで生活しようとする。自分たちがヒーローだとか微塵も考えていないし、普通に生活しようとするだけ。

主人公の一人は英雄的な行為をするわけでもなく、ハロルドの仕掛けた爆弾であっさり爆死する。暗黒面に落ちたハロルドも、前述の通り本当にあっさりと消え去る。

かといってキャラが薄いということはなく、全員存在感がある。

主人公たち数名が最終的に悪の本拠地に向かうのも、なにか作戦があるとか秘密兵器を持っていくとかいうことではなく、ただただ、おばあさんに言われたからそうするだけ。

わかりやすい典型に頼っていない展開で、さらにキャラも立っている。

そこが「ザ・スタンド」のいいところなんでしょうね。

なお「スタンド」のパクリという不当な汚名を着せられた「スワン・ソング」ですが、パクリではないし面白いので一読の価値アリです。

まとめの感想。

これはホラーでもあるし、サスペンスもあるけれど、アクション小説ではない。不思議な物語でした。

読んだ印象は「ダーク・タワー」に似ている。どちらも、同じ「指輪物語」をモチーフにしているので必然的にそうなるのかも。小説中でも、主人公たちが自分たちの旅を「指輪物語」になぞらえる場面がありました。他に小説中に出てきたのは「善とオートバイ修理技術」と「ウォーターシップダウンのうさぎたち」。

メモがどっかに消えてしまって、とりとめもない感想になってしまった。

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