好きな作家、ピーター・ストラウブとおすすめ作品の紹介。

好きな作家の一人、ピーター・ストラウブ。日本ではあまり馴染みがないけれどアメリカではベストセラー作家、らしい。スティーブン・キングと「タリスマン」「ブラックハウス」を共作していて、アンソロジーを編んだりもしているので、それなりに評価されているはず。

ストラウブが日本で紹介されはじめたのは、角川ホラー文庫で「ココ」が出版されたあたりからでしょうか。「扉のない家」という短編集がでて、その後、「ゴースト・ストーリー」「ミステリー」「スロート」と順調に翻訳されたあたりがピークだったようです。その後は創元推理文庫で何冊か翻訳されましたが、今はもう翻訳される気配がありません。売れなかったのでしょうか・・・。まあ、それほど作品は多くはありませんが。

個人的には、ココ、ミステリー、スロートの三部作が無事に翻訳されただけでもありがたいと思います。この三部作がベストといっても過言ではないので、とりあえずストラウブらしさを楽しむにはまずこの三冊を読んでみればいいと思います。

ストラウブの特徴は、ちょっと気取った文体と、スノビッシュなところですね。もともとホラーではなく純文学を指向していたとかいうことで、文学っぽさがあるんですかね。おばけとか化け物がでてきて悪さをするというよくあるお話でも、その語り方がちょっとストレートなホラー小説とは違います。「ココ」を初めて読んだときも、ココはストレートなホラーではないと思いますが、これがベストセラーってほんとかな・・・と思ったものでした。その特徴の一部ははゴースト・ストーリーの後書きで訳者の若島正氏が説明していますが、この解説をよむとちょっとめんどくさい本だなぁと思ってしまうきらいがあると思います。特に若島正氏が英文学者でもあるので解説中でも技巧的な面や文学的な面が強調されている感じがして、自然に敷居が高くなってしまっているような気がします。

他に、恐らく日本で最初に広く出回ることになったと思われる角川ホラー文庫の「ココ」でも、風間賢二氏がストラウブの略歴を詳しく紹介していて参考になります。やはり元々は純文学、といった紹介。メタホラーであるとか。ストラウブというと、どうも純文学寄りの比較的(キングとかと比べると)小難しい作家だという印象があるようです。しかし、ストラウブの小説が面倒とか難しいということはなく、特に最近の本は読みやすいものも多いです。ただ雰囲気を醸し出すための努力が、ちょっとまどろっこしさにつながっている面はあるかも知れません。まあ、実際に読んでみても導入からすらすら入れるというより、最初は乗れないまましばらく読んでいて、徐々に引き込まれていくタイプの話が多いと感じます。

そこで必読なのが、創元推理文庫の「シャドウランド」についている訳者の大瀧啓裕氏の解説です。ふつう解説とか後書きでは宣伝もかねてその本を褒め称える物だと思うのですが、これ小説の欠点にも言及している結構珍しい解説でした。しかしこの上から目線の解説こそ、それまでの解説とはまったく別の視点から作品を紹介してくれる、私としては思わず膝を打つ内容の論評でした。「シャドウランド」の解説としてももちろん読み応えがありますが、ストラウブの作家性についてもおもしろい見解がみられます。若島氏が絶賛する「ゴースト・ストーリー」に失望したというのは、大瀧氏は前著の”If you could see me now”も読んだ上での印象であるということを考慮する必要がありますが、他の作品の寸評にも、なるほどと思う点があります。さらにストラウブは読書狂とは言えず、文学は読んでいるが通俗小説を読みあさったりはしていないのでは、との指摘。ジャンル作家に必要とされる雑学を欠落させていると。この解説中でそこはかとなく感じるストラウブに対する厳しさは、ラヴクラフトをこよなく愛する大瀧啓裕氏ゆえに半分以上、ストラウブの「ミスターX」という小説中でのラヴクラフト作品のぞんざいな扱いに由来するのではないかと思いますが、ここで指摘されているストラウブがにわかホラー作家である点など、他でも指摘はされていますが心にとどめておいて損はないですね。

ストラウブもかなりの読書家だと思いますが、キングとかと比べると確かに読書狂とは言えないかも知れませんね。なにかにつけて、ストラウブとキングは対比的で比べたくなるんです。

ところで最近のストラウブの近影やツイッターの写真をみると随分やせてすっきりしたな、と思っていましたが、公式ページのバイオグラフィーみたら週3でヨガをやってるんですね。もうすっかり引退したおじいちゃんの近況報告みたいになってる。最近は、といってももう6年前の2010年に”A Dark Matter”という本が出たきりで、それも微妙な評価のようですが、一応買ってみたので今度読んでみます。もともと寡作な人ですが、まだまだ新刊をたくさんだして欲しいものです。

ざっと、読んだ印象を。

「ゴースト・ストーリー」・・・主人公が老人たち。老人なのにもてる。老女なのにもてる。まあ、主人公の作家は若いけれど。取っつきづらい。最後は正々堂々と悪に立ち向かう、「呪われた町」みたいな話です。

「シャドウランド」・・・寄宿制学校を舞台にしたお話で、ホラーではなくファンタジーで、青春小説。ほんものの魔術師と、魔法ででてくる。とても気に入りました。

“Floating Dragon”・・・ジェームズ・ハーバートの「霧」+キングの「IT」みたいなやつ。28年周期で現われる悪と、漏洩した政府の化学薬品で、一つの町が崩壊する。すさまじい崩壊っぷりに圧倒されます。そして主人公たちが終盤までなにもしない。これも面白いです。

「ココ」・・・ベトナム戦争がらみの小説。4人のベトナム帰還兵が、戦争時代の亡霊を探す。超自然のものは出てこないし、具体的に説明するのが難しい。でも緊張感はあるし、終盤の雰囲気は独特なものがある。ぞうのババールとチャーリー・パーカーのココ。

「ミステリー」・・・ホラーではないミステリー。これが一番好きかも。青春小説っぽい趣があります。少年探偵が謎の老探偵と組んで昔の殺人事件の謎を探る。ストラウブ得意の、過去と現在の呼応。

「ブルー・ローズ」・・・ココに関連がある。短編。早川文庫「カッティング・エッジ」に入ってます。

「スロート」・・・これはもう一度読みます。図書館で借りて、一気読みした。ブルーローズ三部作の結末としてはちょっとインパクトに欠ける気が。

「ヘルファイア・クラブ」・・・疾走感のある話で、パワフル。悪役の造形が魅力的。エピグラフはエミリ・ディキンソンだったかな?

「ミスターX」・・・クトゥルフもの、なんですよね。二度読んだ記憶が。結構面白かったんだけど、無駄に複雑な感じ。ただ読み口は美味しい。

“Lost Boy Lost Girl”・・・軽く読みやすい感じ。途中、肉屋の不気味な家を探索する・・・初代のバイオハザードみたいな、おばけ屋敷みたいだった。送信元不明のEメールって、急に胡散臭くなりませんか?超自然ホラーとは似つかわしくない気が。

“In the night room”・・・家にあったが、読んだ形跡がない。読んだ記憶もない。こんど読んでみます。

ベストは、「ミステリー」かな。もう新たに翻訳されることもないかもしれないけど、アメリカでは「ジュリアの館」とか未だに新装版が出ているようだし、未翻訳の物もいろいろ読んでみたいと思っています。

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