ピーター・ストラウブ「フローティング・ドラゴン」その1

「フローティング・ドラゴン」”Floating Dragon”はピーター・ストラウブが1982年に発表したホラー小説。

海岸沿いのハムステッドという町を襲う災厄を描いたホラー小説で、表面的には怪異の原因が三層になっていて、

  1. まず連続殺人鬼が野放しになっていて何人もの犠牲者が出ているという問題があり、
  2. それから政府の秘密研究所みたいなところから漏れたDRGという秘密の化学兵器が漏れ出て町の人がおかしくなってしまい、
  3. さらに30年にいっぺんくらいの割合で姿を現す町に巣くう悪=ドラゴンが町をめちゃくちゃにする

という3本立で構成されている。実際には全ての元凶はドラゴンなんじゃないか、と考えられるようになっているけれど。殺人鬼も不気味な感じだし、化学兵器もたちが悪く、広範囲に広がるこれに触れるとある物は即死し、ある者は一時的な脱力状態みたいになって動けなくなったり、幻覚を見たり、またある者は発疹のようなものから始まってやがては全身粉を吹いたようになって死んでしまうと言うやっかいな状態になる。ドラゴンはさらにひどく、このドラゴンというのはあくまでも象徴的な呼び方で、実際には悪そのものが人の形をとって現われ、そいつの存在自体が原因なのか、なんとなく町全体がおかしくなり、いろんな災害が発生する。ドラゴンの正体は1600年代にいたハムステッドの地主、ギデオン・ウィンターという人物で、こいつがその後もちょくちょく、他人の姿を借りては町に現われ、災いを撒き散らしているらしい。なお象徴的な存在と思っていたら、ラストで思いっきりドラゴンが登場して驚いた。

この災厄に立ち向かう主人公は4人。物語の語り手であるウィリアム・グレアムという70過ぎの老作家。この町に越してきた30代の元子役のリチャード・アルビー。飲んだくれの親父と暮らしている少年、トビー・スミスフィールド。暴力夫に虐げられているパッツィ。全員、過去を見たり、未来を予見したりできる超能力をわずかに持っていて、とくにトビーとパッツィの能力はずば抜けている。爺の能力はすでに衰えていて、ほぼない。みなハムステッドの黎明期からにここにいた一族の子孫で、数百年前からギデオン・ウィンターと因縁がある。そんな4人が時を同じくして町に集まったのは偶然なのか、必然なのか・・・。

で、面白いと思ったのは序盤でこの4人が集まって、こうして集まったのは偶然じゃない、何かがあるぞ、と確認してから、何もしないこと。町は壊滅に向かってまっしぐらに突き進み、その間主人公たちはそれぞれの生活を送り、やはり様々な災難に見舞われる。で、最後にようやく再開する。これはちょっと面白かった。

町の崩壊の様子は、一人一人の死と全体の崩壊、DRGの影響とドラゴンの力が入り乱れるいくつかのエピソードが挿話的に語られ一、結構印象的。一番つらかったのは主人公○○の○○の死ですね。あと印象的なのは、パッツィの旦那、ゴルフ場で子供の声の幻聴を聴き、その後交通事故死。子供がなぜか海に泳ぎに行き次々とおぼれ死ぬ。警官たちが映画館で暴動状態になり乱射事件。町で火災がおき消防署員全員焼死。ほかにもDRGの影響か新聞記者にまともな記事が書けなくなったり、最終的に町の存在自体が周りから黙殺され、なかったことにされそうになる。こうしたことはハムステッドのこれまでの歴史で繰り返されてきた。

結構長いけど、面白かった。ストラウブの語り口は結構饒舌なほうだと思うけど、不安やサスペンスを高めるためのテクニックみたいなの駆使しているような気がした。しかし最初は取っつきづらい。序盤、映画のカットバックみたいに過去と現在とを交互に描写して不穏な雰囲気を高めていくところは、正直いきなり沢山の人が出てきて把握しづらい。続けてハムステッドという町の開拓以来の歴史が綴られはじめる辺りでかなりげんなりしてくるが、ここまではイントロなので我慢して読む必要がある。

あと、地の文で書き手が読者に語りかけるような部分があり、その後わかるんだけどこの小説そのものが登場人物のグレアムに手になるものであったり、そういう点もストラウブらしい。語りや小説の技法にこだわっているように思える物の、読んでいるうちはそういうのはほとんど気にならない。私が分からなかっただけかも。

ストラウブのブルーローズ三部作以外では、これもおすすめです。個人的には「ゴーストストーリー」よりB級感、ホラー映画っぽさが強くて、派手で、面白かった。

フローティング・ドラゴンについては、次の感想もどうぞ。

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