皆川博子「少年十字軍」の感想。

11世紀から始まる十字軍。歴史の授業とかで聞いてたときにはふーんって感じでなんの興味もなかったが、今になって多少当時の世界がどんなだったのか興味がでてくると、十字軍という活動がにわかに興味深いものに思えてくる。

神のための崇高な活動だったはずが結局は権力と欲に突き動かされた人間らしい略奪行為に堕してしまうあたりにも、俗っぽい興味をそそられます。

そして少年十字軍。エティエンヌという神がかりの少年に率いられた民衆たちの十字軍遠征に至って、私の十字軍に対する興味は最高潮に達するのでした。

そういうわけで皆川博子の「少年十字軍」を読みました。

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エルサレムを目指す少年たちの悲劇。

史実を元にしながらもエンターテイメントとしての要素を取り込んだ面白い小説。最初から細かく謎とその答えを配置して、読者の興味をそそる書き方になっています。それから十字軍を率いるエティエンヌは本当に霊的な力があったのか。このへんの書き方も面白い。奇跡的な力と思われるものはほとんどトリックや理屈があるんだけど、エティエンヌはひょっとしたら本当に特殊な力があったのかも、と思わせる。

エティエンヌ自身は祭り上げられた傀儡という雰囲気もあって、積極的な行動はあまりない。むしろ目立つのは野生児のルーであったり、かれを利用しようとするまわりの大人たちであったりする。

エティエンヌに対抗心を燃やす貴族の息子レイモン、その従僕である謎の記憶喪失者ガブリエル、何かを企む修道会の面々。それぞれの思惑や企みがいったいなんなのか、どうなるのかという面白さがありつつ、なんだかんだで港町まで旅をしてきた一行の徐々に変わっていく様子なんかも描かれていて、十字軍ってこんな漢字だったのかなという長旅の雰囲気もしっかり味わえると思います。

まとめ

大昔の歴史的な出来事ですが、とくに前提知識がなくても楽しめると思います。当時の風俗やしきたりはさり気なく、押し付けがましくない程度に描写されていて、異国の過去の話だからという理由で理解しづらい部分はほとんどありません。

ポプラ文庫ということで、対象年齢もすこし低めなのか、文章もかなり読みやすい気がする。

あとがきで古屋兎丸の「インノサン少年十字軍」という漫画に謝辞が捧げられています。執筆中に読んであまりに似ていたので、パクリじゃないよってことを本人に断ったとか。

同じ出来事を描いた話で、少年たちの悲劇という題材なのである程度似てくるのは当然だと思う、逆に同じ出来事をどんなふうに違う捉え方をしたのか、「インノサン少年十字軍」も読みたくなった。

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