スティーブン・キングの小説 「死者は嘘をつかない」(原題:”Later”)の感想。

追記:2024/6/5に日本で発売されました。邦題は「死者は嘘をつかない」。まあ、正しい。正確には死者は嘘をつけない、だと思うが。

変わらず精力的に執筆を続けるキング。最近の小説では、ホラーとかファンタジーとは別ジャンルのクライムノベルで、殺し屋が主人公のやつが評判いいらしい。じゃあ読んで見るかとkindleで購入したのが”Later”。

でも読み始めてどうもおかしい。殺し屋とか出てこないし、主人公は少年で一人称だし。変だな、と思ってよく見てみたら、殺し屋が主人公の小説とは別の小説だった。同じ年に2冊出版してたらしい。まったく多作で困ってしまう。

で、Laterの感想。

死者の霊が見える若者ジェイミーが主人公で、お話は彼のひとり語りで語られる。

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大体のイントロは次のような感じ。

物語はジェイミーが少年の頃の出来事から始まる。かれは出版エージェントをしている母との二人暮らし。父親はいない。母はどうもレズビアンっぽい。母は警官のリズと親友で、二人はどうもそういう関係らしい。

冒頭でジェイミーが隣に住む男性のなくなったはずの奥さんを見かける。自分でも気づかなかったが、ジェイミーには霊が見えるという特殊能力があった。

この力を中心にお話が展開されていくわけだが、この小説の霊は嘘をつけないという特徴がある。

ジェイミーの能力を知っているのは母だけだったが、ある出来事をきっかけにリズもジェイミーの能力を知ることとなり、ジェイミーは事件に巻き込まれていく。

どっちかって言うと犯罪もの。

で、霊が見えるって言うとシックス・センスなんですが、作中でも言及されていますがそういう感じのとはちょっと違う。霊は出てくるしそれが重要ではあるんだけど、ジェイミーが巻き込まれるのはリアルな犯罪の世界。

具体的にはジェイミーの力を知ったリズが自分の手柄のためにその力を悪用しようとし、ジェイミーを半ば拉致して協力を強要する。その辺はなかなか緊迫感もあり楽しめました。

その過程で悪霊とのやり取りあり、犯罪組織とのやり取りありで、短くテンポよく進んでいく小説でした。

チュードの儀式

あとファンとして楽しいのは、チュードの儀式が出てくるところでしょうか。

ジェイミーはとある事件で連続爆弾犯の霊と無理やり対峙させられるんだけど、その霊がいつまでもジェイミーにつきまとう。そしてその霊に取り付いている「より恐ろしいもの(Dead Light)」がジェイミーを苛み始める。

このDead Lightは死者の霊を媒介にあっちの世界からやって来ようとするやばい存在で、「IT」にも出てきた死の光と同じものですね。

ジェイミーは昔のお隣りさんで仲のよかった大学教授に相談に行く。そこで教授が悪霊退散の儀式として例に出すのが、チュードの儀式。ジェイミーはそれを見事にやり抜き、悪霊に二度と現れないこと、ジェイミーが呼んだら必ず現れることを約束させる。

て感じで、ITのときに比べるとちょっとお手軽な、全力で一生懸命念じたらうまくいったみたいな感じの簡略版チュードの儀式ではありますが、教授によるともともと世界各地に似たような儀式があって、チュードの儀式はチベットに古くから伝わる儀式なんだそうです。

まとめ

いくつかの恐ろしい体験を経て、それを少年が回想するって形のお話になっています。

小説としては短く、キングの長編群の中では中編扱いになるかも。kindleで読んでてあとどれくらい続くのかわからないまま読んでたら最後あっさり結末を迎えました。

登場人物は少なめで、それがちょうどいい絡み具合で進んでいくので本の長さと展開のバランスがいいと思います。そして相変わらず読みやすい。

最後にとある秘密の暴露はあるものの、どんでん返しってものではなく、物語はストレートな展開です。

霊とかでてくるけどホラー要素は薄め、犯罪小説っぽい要素もあり。でも最終的には、死霊とか犯罪とかいった恐ろしさが病気とか老いとかの不安に置き換えられて、おとなになりつつある主人公がそれについていろいろ思うっていう感じで、少年の成長物語っていう枠組みになるような気がします。

プロの暗殺者の話は”Billy Summers”ってタイトルでした。次はこれを読みます。しかし”If It Breeds”も読んでないし、ウォーキング・デッドの最終シーズンも途中だし、最近時間がなくてなかなか大変。

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