「この世界は誰が創造したのか: シミュレーション仮説入門」の感想。この宇宙はシミュレーション世界である可能性がほぼ確実、というシミュレーション仮説の入門書。

この世界は誰が創造したのか。それは、人類より上位に位置する超越的存在で、私達がすむこの宇宙はかれらの手になるシミュレーションの世界なのでした。

というシミュレーション仮説を解説した本。哲学者のニック・ボストロムが代表的な提唱者で、テスラのイーロン・マスクも支持している。ニック・ボストロムによると、シミュレーション仮説が正しい可能性はほぼ100%だということです。

グレッグ・イーガンの「順列都市」を思い出すなあ。イーガンの傑作の一つだと思うけど、あれはまさにシミュレーションの中に一つの宇宙を作り出すというお話だった。そしてその宇宙に誕生した生命体からの干渉…。読んでるときはシミュレーション仮説に関連するとは思いもしなかったけど。

スポンサーリンク

人の意識はシミュレーション可能か。

シミュレーション仮説がなりたつ前提として、まず人間の意識がシミュレート可能である必要がある。

いまは人の意識は脳内の電気信号のやりとりに付随して発生しているという説がけっこう有力なので、意識がシミュレート可能であるという推測はまあなりたつのではないかと思います。

そもそも意識とはなにか、というのは計算可能かどうかとは別のまた面白く興味深い問題なのですが、そのへんは「あなたの知らない脳」という本がものすごく面白いのでおすすめです。あと「ファスト&スロー」も。そもそも意識というのが、脳の活動に伴って生まれる後付けのものでしかないのではないか。人がなにか行動を起こすとき、実際の行動の一瞬前に、すでにその動作を司る脳の部分が活性化しているのは確認された事実です。

意識の存在は別にして、脳の実態はそこでやり取りされる電気信号にあり、それを機械的にシミュレートすることは十分に可能だと思う。

人類史をシミュレーションすることは計算能力的に可能か。

では次に、人の脳が理論的にはシミュレート可能だとして、実際にシミュレーションするためには強力なマシンが必要になる。人の脳だけではなく世界全体となるとマシンに求められる演算能力は途方もないものになる。

そこで示されるのが、宇宙のシミュレーションにどれくらいの馬力のコンピューターがいるのかという計算例。

もっとも負荷が高いのが人間の脳のシミュレートだとして、シナプスの数なんかから計算して、人の脳が1秒間に行う計算をざっくり10京回とする。人の一生をこれまたざっくり50年とすると、3000万秒(1年の秒数)×50×10京。これが、人の一生の計算量になる。

それから、現時点で存在する人間と、過去にに存在した人間(つまり死者)の総数をざっくり1000億人とすると、

  • 1000億×50×3000万×10京

となる。この数字が、これまでの人類史をシミュレーションするのに必要な計算数ということになる。これは100京×100京に相当し、これを日本のスーパーコンピューター「京」を使って計算すると、フル稼働でだいたい3兆年かかるということです。余談ですがその計算にかかる電力なんかも考えるといろいろ興味深い。

ここでムーアの法則。コンピューターの性能が指数関数的に向上しているというあれです。「京」もすでに古いスパコンで、その次の世代の「富岳」はすでに「京」の100倍の性能に達している。前述の計算も300億年ですむってこと。そしてムーアの法則通りにコンピューターの性能向上が今後も続いていくとすると、22世紀の半ばには上記の人類史のシミュレーションを秒速で行えるマシンが出現することになる。

この世界がシミュレーションである証拠。

技術的に宇宙レベルのシミュレーションが可能になっている世界を想定すると、シミュレーションの数は無数にあるはずで、そのシミュレーション世界それぞれに70億人の人類が住んでいるとすると、確率的にこの世界がシミュレーションである可能性が圧倒的に高い。そんなボストロム教授の無茶苦茶な理論は大好きです。

シミュレーション世界があり得るという計算例のほかに、この本ではこの世界がシミュレーションである傍証がいくつか紹介されるけどそれはまああんまり説得力ないと思う。決定的なものではない。

並行宇宙とか泡宇宙とかの仮説も、シミュレーション仮説と競合するものではないし、シミュレーションではない、という積極的な証拠もないんだけど。

ここで紹介されている中で面白いのは、またちょっと脱線するけどホログラフィック理論。

情報をある領域に詰め込んでいくと、詰め込める限界の情報量は、その領域の体積ではなく表面積に比例するという奇妙な事実があります。これは理論的に証明されているそうです。そこからうまれるのがホログラフィック理論。ブラックホールなんかも関係するとても興味深い理論です。

宇宙のすべてを情報という尺度で考えるのはとてもおもしろい考え方で、「宇宙を復号(デコード)する」という本が大変おもしろくおすすめです。ブラックホール=超高密度の情報の集まりとか、ブラックホール=理論的に最大速度のコンピュータみたいな話が出てきたと思います。

宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号
早川書房
¥738(2021/02/26 19:46時点)
チャールズ・サイフェの本はどれもだいたい面白い。

シミュレーションの目的はなにか。

この世界がシミュレーションだとすると、だれがなんのためにシミュレーションを行っているのか。この本ではそういう考察も紹介してくれていて、面白い。

ざっくりいうと目的はポストヒューマンの利益に資するため、となる。ただその役立ち方にも何通りかある。

あるシナリオを設定して、その特定の状況下での行動パターン、文明パターンをモデル化するという目的のシミュレーションもあるでしょう。その場合、シナリオの終了と同時にシミュレーションも終了となり、コンピューターの電源を落とすと同時にその世界は消滅する。

しかし今わたしたちがいるこの宇宙は、ビッグバンから始まって知的生命体が誕生し、やがて電子機器を製造するくらいのテクノロジーを築き上げる文明が生まれるくらいに続いている。

こういうシミュレーションをする理由は、シミュレーション世界の発展そのものがポストヒューマンの文明を発展させるヒントになりうるから。

この場合、シミュレーションはいつまでも続いてその宇宙の文明が発展し続けるほど参考になるので、途中で打ち切られる可能性は低い。またヒントとなりうる宇宙は無数にあったほうがいいので同じようなシミュレーション世界がたくさんある可能性が高い。(そのため、この宇宙がシミュレーションである確率も高くなる)

とか、面白い考察が紹介されます。それが正しいか判断する方法はないので、あくまでも哲学的推論にすぎないんですが。

まとめ

ほかにもいろんな話題があって、各章が関連しながらシミュレーション仮説にまつわる話が紹介されます。読みやすく面白いので、シミュレーション仮説に興味がある人には入り口としておすすめです。ウィキペディアとかをみるとさらに突っ込んだ論文なんかが紹介されていてより詳しく知りたくなります。

 

 

タイトルとURLをコピーしました