キング原作ドラマ「アウトサイダー」の感想。キング映像化の中ではかなりいい出来。

スターチャンネルで放送されてるキング原作のドラマ「アウトサイダー」。

かなりできが良いって評判だったので見てみました。期待通りの傑作。キング原作のなかでも上位に位置するドラマでした。

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原作の良さを損なわずに見事に映像化。

大筋はだいたい原作と同じ。高校の教師テリーが少年殺害の容疑で白昼逮捕される。目撃者もいて、現場に指紋もあり、DNAも一致して教師の犯行に間違いないと思われたが、教師は事件当日同僚と州外に出かけていた。こちらも目撃者あり、滞在した証拠ありで鉄壁のアリバイがある。刑事のラルフは丹念に事件を調査していくものの矛盾は深まるばかり。果たして真相は…。

という出だしで始まり、徐々に事件に不可思議な要素が入り込んできます。

ドラマ自体は非常に落ち着いたトーンで描かれていて、派手派手しい場面は少なく、カメラアングルや役者の演技で雰囲気を醸し出していく感じ。いろんな面で同じキング原作の「ミスター・メルセデス」とは対照的かもしれない。

最初の2話はたしか殺害容疑で逮捕される教師役の人が監督をしてた。初回はショッキングな事件、ショッキングな逮捕、そして不可解な矛盾という出来事をしっかり描いていて引き込まれるんだけど、その他にテリー一家とラルフ一家の関係なんかの部分もしっかり描かれてる。

原作へのアレンジがうまく効いてる。

原作と同じなんだけど、主要な箇所も含めてアレンジ、変更が加えられている。このドラマではそれがうまく作用していると思う。

まず序盤のテンポがいい。原作はラルフが2つの事件の矛盾を認めるまでに、かなり行きつ戻りつ慎重に調査を積み重ねていく感じがしてたけど、ドラマ版は3話くらいでそのへんぽーんと進んでる。

その後、いくつかの事件にさかのぼっていくところは原作に比べてちょっとややこしく、中だるみを感じちゃうけど、それ以外はだいたいテンポよく進んでいく。

その他細かい変更もいろいろある。原作ではラルフには息子がいて、それが少年殺害事件に対する怒りの源泉にもなっているんだけど、ドラマ版では息子をかつて事故でなくしている。

犯人の正体について、ホリーが映画を持ち出して説明するけど、映画の代わりにネットの情報をソースにしている。(ホリーが映画マニアっていう設定は変わってない)

原作だと後半、登場人物のクロード・ボルトンの実家でいかにもキング的な人物らしいクロードのお母さんが登場するけど、ドラマ版はお母さんは登場せず、代わりにクロードの兄貴が出てくる。

弁護士のハワードは原作の気骨あるしたたかな敏腕弁護士って感じから、有能だけど如才なく世渡りして地位を築いてきた感じに。

あとアレックという元刑事がドラマオリジナルで登場する。この人はホリーと一緒に見せ場を作る。

その他、いろいろ変更あるんだけど良かったのはホリーかな。

ホリーは最近のキングではいちばん魅力的なキャラクターに思える。このアウトサイダー自体、ホリーのスピンオフといってもいい話だし、その後もホリーが主人公の短編を書いてる。キングも気に入ってるんだと思う。

ホリーが最初に登場したのは「ミスター・メルセデス」で、こっちもドラマ化されてる。ミスターメルセデスのドラマ版のホリーは年齢を中途半端に若くしたり、コミカルな面が強調されていて、原作に比べるとうーん・・・となってしまう。

その点、アウトサイダーのホリーはかなりいい。最初予告編を見たときは黒人女性になっていて、なんか占い師っぽい雰囲気に感じたので、ミスターメルセデスとの関連もめんどうだしてっきりホリーは登場しないのかと思ってたけど、設定を大幅に変えているもののホリーだった。

ミスターメルセデスに関連する人間関係のしがらみを全部カットしつつサヴァン的な能力はそのままにして、一匹狼の探偵という設定に。原作のホリーをベースに、ドラマ独自の非常に魅力的なキャラクターになっていたと思う。ドラマ独自キャラのアレックとの恋愛も、素朴で素直な感じのアレックとよく似合っていてよかった。

刑事役のジャックも良かった。

ちょっと粗暴で素行不良のジャックという刑事が重要な役割を果たすんだけど、このキャラも原作からちょっと変更が加えられていてより深みが増していたと思う。

見た目はバック・トゥ・ザ・フューチャーのビフみたいな、いかにも体育会系の脳筋野郎って感じなんだけど、ホリーとのやり取りで見えるちょっとしたためらいや意外にガツガツしてないところがよかった。

一見がさつに見えて憂いのある表情も見せる、なかなか繊細な演技をするこの俳優はマーク・メンチャカ。下のはなんかインタビューを受けている動画。他に「オザークへようこそ」とかに出てる。

エピソード8がよかった。

一番よかったのはエピソード8かな。車内での会話が2つあって、一つはユニスとアレック、もう一つはホリーとラルフ。ユニスがアレックをからかう会話では、ユニスがお茶目な面を発揮してアレックを笑わせる。飛び入りっぽい感じで参加したアレックに仲間意識が芽生える大事な場面。

ホリーとラルフの会話は更に重要だと思う。ラルフの心のわだかまりが溶けるきっかけになるし、ホリーの冷静な面も見られるし、ここで二人が笑い合うことでようやくラルフとホリーの間に信頼が生まれたのでは。

で、それぞれの車でみんながクロードの家に集結し、ここで主要人物が揃う。独特な音楽が流れてきてエンドクレジットになるんだけど、この一体感、決戦前夜って雰囲気の盛り上げ方がよかった。すこしオフビートに、雰囲気を積み重ねていく感じ。このエピソードはシーズン中の白眉だと思う。

かなりおすすめのドラマ。

原作との最大の違いは、善なる力の存在の有無かもしれない。

原作では車に挟まっていたレストランのメニュー、ガラガラヘビなんかが、なにか超越的な善というものを感じさせた。ドラマではそういう部分が捨てられている。

ドラマの最後も、よくあるオチというよりはそういう意味で作られたものって気がする。

結構賛否両論あるみたいだけど、途中で怪異が出てくるのに納得できるかどうか、って点が大きいのかな。確かに最初の数話がめちゃ面白いので、そのままミスターメルセデス、ファインダーズ・キーパーズみたいに怪異が出てこない話を期待してしまうのもわかる。怪異が出てくる来る来ないのあたりでちょっとたるむのも確か。

ん?なんか欠点多く思えるな。しかし、トータルで見ると傑作だと思う。派手なシーンは少ないし雰囲気重視なので、そういうのが苦手な人には向かないかも。

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