原作はスティーブン・ハンターの「極大射程」という、ボブ・リー・スワガーという伝説のスナイパーを主人公にしたアクション小説。
まえにマーク・ウォルバーグ主演で「ザ・シューター/極大射程」という映画になっているけれど、それのドラマ化。監督は映画版と同じで、マーク・ウォルバーグもプロデューサーに名を連ねていたので、再映像化、あるいは映画の発展形といった位置づけなのかなと思う。
原作は相当面白い。アクション小説全体の中でもかなりレベル高いと思う。この本の特徴のひとつに、スティーブン・ハンターの小説の特徴でもあるんだけどマニアックな銃器の描写がある。主人公はベトナム戦争でスナイパーとして伝説的な活躍をした帰還兵ボブ・リー・スワガーで、彼が手練れの兵士としていろんな銃器を使って活躍するんだけど、その扱う銃とか、弾薬とか、遠距離射撃をする際の風力や重力による弾道の逸れだとかについて事細かに描写されている。ただいろんな銃器の種類を羅列するのとはレベルの違う描写で、マニア向けのデータの羅列とかではなく現実に即してそれぞれの銃器がどんな風に取り扱われ、どんな威力を発揮するのかが具体的に書かれていてそれを読んでいるだけでも面白いし、銃器そのものが小説中でも重要な役割を果たしている。まるで銃器がひとつの登場人物のようである・・・って解説かなにかで書いてあったような覚えがある。ちなみにスティーブン・ハンターの小説で最初に翻訳されたのが「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」という警官が主人公の小説だったけれど、これもすごく細かい銃器の描写で話題になっていた。そしてこれは、ボブ・リーシリーズのスピンオフ作品。
それから、主人公は大統領暗殺犯の濡れ衣をはらすために奮闘するんだけど、主人公が窮地に陥り、それを機転で切り抜けるという基本的なプロットがとてもよくできている。それだけでも十分、手に汗握って読めるんだけど、主人公の巻き込まれた陰謀が国家機密レベルの陰謀に関係することが徐々に分かってくると、自分を捨てて国に忠義を尽くしてきた主人公の姿と国を牛耳る汚れた権力の姿が対比されていやが上にも熱中度は高まっていく。
そして、この小説のその後の展開。結局、これはスワガー・サーガとか呼ばれている三部作に発展した。まあ、ヒットしたから続編を書くっていうのは当然だけれど、このシリーズはそうしたちんけな続編ものを遥かに超えた高みに到達し、シリーズを通して最初と同じレベルの面白さを保ちつつ、さらに盛り上げていき最後にはキッチリ物語に片を付けるという続編物のお手本のような出来映えになっている。まるで最初から三部作だったのかと思うくらいによくまとまってるなぁ、と思った覚えがある。実際は三部作を通して多少の年代的矛盾などが生じたと作者が書いているけど、普通に読んでいる分にはそんなの分からないし、それで阻害されるような面白さじゃない。
(なお、その後はスワガー自身が主人公のもの、スワガーのお父さんが主人公のもの、それぞれ何作も続編というかスピンオフが出ています。それも何冊か読みましたが、善し悪しはあるもののどれもレベルの高い娯楽小説で、面白かった)
で、映画になったので期待してみたのですが、一言で言うとがっかりしました。
映画自体は普通に楽しめるアクション映画でした。しかし、原作のよい部分の多くがなくなっていた。巻き込まれる陰謀、危機また危機、そしてそれをかいくぐる主人公・・・という基本的なプロットはほぼ同じで、だからアクション映画としてはとても面白いんですが、それだと他の面白いアクション映画と変わりないんだよ。主人公がマーク・ウォルバーグという時点で「若すぎる・・・」という嫌な予感だったのですが、案の定時代はベトナム戦争後から湾岸戦争後に変更され、三部作への発展の可能性はなくなり、ヒロイン役はシャツの下に乳首が透けてそうな馬鹿そうなお姉ちゃんになってしまい、悪役は、いかにもな悪役を楽しそうに演じるダニー・グローバーになってしまいました。もちろん、このどれもが普通におもしろいアクション映画として機能しているのですが、原作読者が求めるものとは少し隔たりがありました。上映時間2時間前後の映画では、それも当然なのは分かる。でも、分かっちゃいるけどせっかくの映画化なんだから・・・と原作ファンはもやもやした気持ちを抱いたことと思います。
ですので、Netflix見てて極大射程が「ザ・シューター」としてドラマシリーズ化されていたのを知ったときには驚きました。それも最近できたばかりで、毎週水曜日放送というアメリカと同じリアルタイム放映だったので毎週楽しみに見てみました。
で、この間最終回まで見たのでざっと感想を言います。
原作とは違うけれど、映画では失われた原作の要素を取り込もうとしているのかな、というのは分かった。でも、やっぱり原作とは違った。原作とは違うけれど、これはこれで面白かった。ということでした。
原作ともっとも違う点は、主人公に妻子がいることですね。原作では山奥で世捨て人みたいな暮らしをしていますが、ドラマ版は妻と幼い娘と一緒に、仲良く暮らしています。そこに、今はCIAの職員となった湾岸戦争時の元上官が、お国のための仕事をもちかけてくる。ここはまるで「コマンドー」のようでした。
それから国家の謀略という観点から見ると、ドラマ版ではロシアが深く関わってきて最終的にはロシア大使館まで出てきたりしてそれはそれで面白いかなと思いました。
結論としては、繰り返しますがやっぱり原作とは違うけれど、これはこれで面白かった。全10話でいろんなエピソードが出てくるので、なんか見ているうちに原作がどんな話だったか忘れてしまい、最初は原作との違う場所、あるいは原作に忠実な箇所をチェックしようと思っていたんだけど何が何だか分からなくなりました。まあ、面白かった。毎週毎週アクション中心のドラマをみるというのも結構面白いものだな、と思いました。
ひとつ物足りなかった点を言うと、ドラマなので毎回盛り上げて終わる構成になっていて、それはそれでいいんだけど、原作での鬼のようなスナイプ描写、映画版での雪山でのスナイプなどに匹敵する大きなアクションシーンがなく、毎回小波が来ている感じだったことかな。
それからやっぱり、三部作だった原作のようにその後の(あるいはそれ以前の)ストーリーがないのが不満だな・・・と思っていたら、シーズン2の製作が決定したようです。原作の3部作にからめた展開になるのか、あるいはその後のスワガーシリーズから題材を撮るのか、それとも完全にオリジナル展開を見せるのか。これもNetflixでやるのかな?やったら是非みようと思います。