「友成純一エッセイ叢書」の感想その2。「世界無頼旅」「極私的インドネシア映画」。80年代~90年代の界隈の雰囲気が楽しめるエッセイ集と、魅力的なインドネシア映画の紹介。

スプラッター映画評論家にして猟奇小説家の友成純一先生の軌跡をたどれるエッセイ叢書。

全4冊のうち、今回は「世界無頼旅」と「極私的インドネシア映画」の感想を書いてみます。

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「世界無頼旅」

「猟奇作家の誕生」では若かりし頃の友成純一氏の意外な交友関係などが明らかになり、単発の映画評論や小説しか知らない読者にとっては当時のアングラ文化界隈の様子も含めて興味深いものだと思います。

「世界無頼旅」ではそのちょっとあとの、氏が海外旅行にハマり始めロンドンに移住し、各地の映画祭を転々としていたころのお話が語られます。

スプラッターなどがブームになり売れ始めて海外旅行にはまり始めた頃の交友関係なんかが興味深い。ご近所さんだった永井豪との付き合いとか。でも「ローリング・ロンドン」では言及された、同じ早稲田の仙波龍英については触れられていない。

ロンドンでの2年間の生活はエッセイ集「ローリング・ロンドン」にまとめられていますが、この本ではそのエッセイにでてこない裏側の部分が紹介されています。といってもなにかやばいネタがあるわけではありませんが、新婚生活が早々に崩壊し「現行の面でも私生活でも、パニックになっていた」状況での渡英などの様子が垣間見れます。

イギリスのスティーブ・ジョーンズが書いた「恐怖の都ロンドン」などの三部作、氏が訳して結構売れてたと思うけど、本国ではペラペラのムック本だったらしい。

あちこちの映画祭のことも語られ、当然映画への言及もある。「ヘンリー ある殺人鬼の肖像」についてもけっこう詳細に語られていて、氏によれば「ヘンリー」と、同1991年に発表された「羊たちの沈黙」で「殺人鬼映画の流れが大きく変わった」ということです。同感です。

世界無頼旅というタイトルだけあって一般的な旅のエッセイでもありながら、映画評や映画祭や映画館などの思い出が語られる「世界無頼旅」。欧州だけではなくアジアの映画祭にも参加して守備範囲が広いのがすごく、映画好きの人ならだれでも楽しめると思います。

一番おもしろかったのは第五部かもしれない。

第五部は著者が中国を旅した時のことが語られます。90年代、講談社の宇山という編集者にうれなくなった変態ホラーじゃなくて本格推理ものを書かないかと勧められます。そこで氏が思いついたのが太平洋戦争、満州を背景に、筑豊の財閥で繰り広げられる密室連続殺人。財閥が筑豊に所有する別荘と大陸を舞台に、「明治維新以降の一族の歩みが、引いては日本の近代史が暴かれていく―そういう気宇壮大な話に仕上げる予定だった。」

これこそ自らのライフワークと思い定め、そのために中国への取材旅行を行った氏。実現すれば松本清張か山崎豊子かという大作なわけですが、残念ながら(いまのところ)実現には至らず。

では中国旅行は無駄足だったのかというと、まったくそんなことはない。中国では映画や映画祭のことは一切出てこず、純粋に旅のできごとがいろいろと語られる。

そして旅を続けるうちに、なんとなく氏の人生の旅路をたどっているような感じになってくる。初めて訪れるはずのハルピンに、生まれ故郷の筑豊の炭鉱を思い出して郷愁に駆られたり、旅先で父に出会ったり。もともと氏の父は満州国時代の奉天の生まれで、そういうこともあってかちょうど氏の中国旅行中、北京に語学留学していた。なかなか癖のある父親だったようだし、それほど仲がいいわけではなかったようだけど、この中国での邂逅は「人生で、唯一、父と心を通わせた時期だった。」そうです。

この中国旅行、筆致はいつもとかわらない調子なんだけど、先々代の満州での生活や父との遭遇、おそらくは日の目を見ないであろう書きかけのライフワークなど、感慨深いものがあります。

第六部 そして、インドネシアへ

第6部は現在につながる部分。インドネシアに旅し、そこでガイドの仕事を始めたりする様子が描かれます。

ここも映画は関係ないんだけど、ヨーロッパでも中国でもないインドネシアの様子が興味深い。他所から来る金持ちのダイバーたちや現地の暮らし、だんだんと観光リゾート地として開発されていく田舎の様子など、そこで暮らした人ならではの実感を伴った描写が面白いです。

「極私的インドネシア映画」

「極私的インドネシア映画」では、氏のバリでの暮らしぶりを交えつつインドネシア映画を紹介。

インドネシア映画って全然知らなかったんだけどこの本を読んでると見たくなってきます。

一般的な有名作や大作ではなくてあくまでもホラー映画、それも亜流作品から入っていくのが独特。そこで終わるわけではなく、入り口は無名映画やホラー映画ですが本流の映画や大作まできちんと紹介されています。一般的な映画史とは違う、あくまでも氏が遭遇した順に紹介されていて、それぞれの映画にキャストや監督などの点でゆるい関連があるというつなげ方になっています。

ホラー映画の紹介が比較的多いですが、インドネシアホラーではポチョンやクンチルアナックや穴ほげ売女など、日本の貞子とかお岩さんとかに相当する人気キャラがいたりして独特な世界が構築されているようです。

またかつて盛り上がったインドネシア映画界がスハルト政権で衰退し、スハルト退陣後に再び隆盛を見る、といったインドネシア映画史も織り込まれていて、単品の映画評だけではなくて読むとなんとなくインドネシア映画がどんなものなのか、わかったような気になります。ムスリム映画や国をあげての大作みたいなのもあったりして、結構興味深い。

インドネシア映画を日本でかんたんにみられるのかどうかはわかりませんが、気になるタイトルでYoutubeを検索すると予告編とかは見られます。興味のある方は見てみてください。最近の映画は今風の出来でCGなんかも洗練されてます。

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