ピーター・ストラウブ “in the night room” 感想

ピーター・ストラウブの”in the night room”を読んだ。

lost boy lost girlの1年後に出版された直接の続編で、主人公は同じく作家のティム・アンダーヒル。密接に関連しているもののテーマは違う。

lost boy lost girlでは、甥であるマークの死という、主人公の外部にある問題を扱っていた。今作では主人公そのものの作家としての資質、価値が問題になっている。

小説が書けない小説家の苦悩を描く、というのはもうクリシェになっているが、この小説のような形でそのネタを扱ったのは初めてな気がする。それから、小説が書けない、というだけでなく、小説家本人の持つ罪の意識というか、贖罪をしている感覚が強くある。主人公のティムは前作で犯した過ちを償うためにある代償を支払うことになるが、同時にそれを通じて自らのなかにある野蛮、邪悪を自覚させられる。

ストラウブ得意の過去の因縁というテーマももちろん出てくるし、さらに小説世界と現実世界のあわいに遊ぶ態度もますます顕著に、あからさまになっている。今作はティム・アンダーヒルが小説の”lost boy lost girl”を書き上げた後からスタートする。つまり、lost boy lost girlは作家ティム・アンダーヒルが書いた小説だった、ということがわかるわけだ。さらに、ティムのほかにも重要な人物がいる。それがウィリー。ウィリーもニューベリー賞(※アメリカ合衆国における最も優れた児童文学の著者に与えられる賞byウィキペディア)を受賞したヤングアダルト作家であり、彼女が書いた小説のタイトルが”in the night room”である・・・。

ストラウブはホラー作家とされているが、この2作はホラーとは言い難い。前作はそれでもホラー小説の雰囲気があった。建物の禍々しさ、邪悪なものの力といったものがよく表現されていたと思う。しかし連続殺人鬼、模倣犯、呪われた家、といったキーワードから想像されるストーリーを期待してよむときっと期待はずれに終わる。一応ミステリーの要素もあるように見せかけて、殺人鬼の正体の暴露はほとんどファンサービス的な(トム・パスモアという、以前のストラウブ作に登場した天才探偵があっさり解決するという)添え物にすぎなかった。

今作ではその傾向はさらに強まり、エンターテイメント小説として面白そうなネタを放り込みながらもそれがホラーでもなく、サスペンスでもない展開につながっていく。主人公は相変わらず主体性のない当事者でありながら傍観者的な態度でことに臨むため、なおさら話がどこに向かっているのかわからない気分になる。一応、何かよくない結末に向かって進んでいるんだろうな・・・という感覚はつきまとう。けれどもコミカルな場面もあり、ホラーっぽいけど怖くない。

終盤になって、ようやく物語の結末が見えてくる。が、結末も、漫然と読んでいるとどういうことなのかわからない可能性がある。わたしが嫌いな、どうなったのかは読者の想像にゆだねる・・・という体裁の投げっぱなしの無責任なものではない。

ストラウブはココ、ミステリー、ヘルファイア・クラブと結構作風が変わっていて、lost boy lost girl からまた新たな境地に挑戦しているようだ。ホラー小説ではないので、単なるホラーのつもりで読むとよくわからない。個人的には楽しめたけれど、万人におすすめはできない。ブラム・ストーカー賞受賞。

それから、前作も今作も、表紙のイラストが好き。

あとで時間があったら、さらにいくつかの疑問点とポイント、気になったところをメモしたい。ネタバレするので気を付けてください。

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