ストラウブの「フローティング・ドラゴン」の感想。読んでいて思い出した小説があった。
この小説を読んでいて思い浮かぶのは、ジェームズ・ハーバートの「霧」とキングの「IT」。
「霧」はイギリスの小説で、地震で政府の化学兵器が漏れ出し、それが霧状に流れてロンドンとかを覆い、それを吸った人はみな発狂しておかしくなってしまう、というホラー小説。もろに設定がかぶってる。当然、「霧」を参考にしているんだろうな。というより、ホラーを書く前に古今東西のホラー小説を読みあさったというストラウブなのだから、読んでて当たり前だし、「霧」をよんでなかったらモグリだよ。で、おかしくなる人の描写も「霧」と似たところがあります。必ずしも凶暴になって人を殺したりするだけでなく、ちょっとユーモラスな場面もあったりして。ちなみに「霧」は怪異の理由を純然たる科学に求めていて、モダン・ホラーの先駆け的な扱いをされることもあるとどっかで読んだ気がするが、フローティング・ドラゴンではそうした趣向に昔ながらの超常的な悪の存在をブレンドして、どっちがどっちなのかわからない感じにしてある。その意図は、町の災厄を多層的に描写できることと、恐怖の物量で畳みかけるためなのでは。まあ、ストラウブの饒舌な語り口とあいまって独特な雰囲気になっているのは確か。
余談ですが、ハーバートの「霧」も面白いのでもし見かけたら読んでみる価値あるかも。人だけでなく動物もおかしくなって、ロンドンの地下鉄にたくさんの鳩がいて、それがじっとこちらを見つめる、なんていう印象的な場面もあったような。ただ、文庫は絶版で手に入りにくいようです。
それから「IT」に似ている。悪がだいたい30年周期で復活すること、主人公の一人が少年時代に一度その悪と対峙していること。それからこの本の町が崩壊していく描写は、ITの最後らへんで舞台のデリーでばんばん人が死んでいく所を思わせる。ほかにも博物館に飾ってある町の古い地図が動き出すところとか、なんとなく細かいところでちょっとITを思わせる点がある・・・。しかし、ITとの類似をもっともつよく印象づけるのは、ラスト近く、パッツィについてリチャードが「She married us.」という台詞。主人公の一人パッツィが自分の特別な力を他の主人公3人全てに注ぎ込んで、全員が強い一体感を感じることになる。そのことをmarryと言っていると思うんだけど、marryは一義的には結婚したっていう意味だよね。ここを読んでいて、「IT」の少年時代の最後らへん、チュードの儀式を思い出した。あのシーンにも驚いた。
ちなみに出版されたのはフローティング・ドラゴンが1982年でITが1986年。キングは当然フローティング・ドラゴンを読んでいるはずだから、設定を借りて大きく膨らませた可能性もあるなーと思った。フローティング・ドラゴンではハムステッドという町が被害にあい、キングのITではデリーが災厄の舞台になる。
それからこの小説を読んでいると、なんとなくB級ホラーっぽい感じ・・・というか、ホラー映画を思わせる場面がちょくちょくあるように感じた。といって、その類似を指摘できるほどよく読んでいないので、気のせいかも知れないけど、なんとなく映像媒体も参考にしてるのかも、と思った。
なお登場人物は父親に見捨てられた/まともに面倒を見られていない少年、虐待される薄幸の妻(美人)、年をとってもモテモテの老人、むかつくスノッブ的人物などで、どれもストラウブでは典型的な登場人物です。
イットもついに映画化、予告編も公開されました。キングのイットとの関連についてはこちらもどうぞ。
フローティング・ドラゴンの感想については以下もご覧下さい。