ビル・ホッジス三部作の完結編、”End of Watch(エンド・オブ・ウォッチ)”の感想。

スティーブン・キングのビル・ホッジス三部作の完結編、”End of Watch”を読んでみました。エンド・オブ・ウォッチとは、殉職した日のことをそういうみたい。あとは単純に、探偵の職が終わる時、という意味もある。

ホッジ”ズ”だと思いこんでいたがホッジスと読むみたい。

冒頭の献辞がトマス・ハリスに捧げられている。その理由は、読んでみると分かると思う。

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物語の始まり。

第1作「ミスター・メルセデス」の発端となった、就職フェアでの惨劇の時点からお話が始まり、事件の現場に救急隊員が駆けつけるところから物語が始まる。

就職フェアの事件では8人が死亡したほかに大けがをした人も沢山いて、”Finders Keepers”の主人公の少年の父親もその一人だった。そして、マルティーヌ・ストーヴァーという女性も被害者の一人。彼女は冒頭に登場した救急隊員に助けられ、ひどい外傷を負いなんとか命は助かったものの、下半身不随になった。

それから6年過ぎて現在、ホッジスに元同僚のピートから連絡が入る。マルティーヌが殺された。手を下したのは介護をしながら一緒に生活していた彼女の母。その後、母親も自殺した。事件性はなさそうだが、ピートに誘われたホッジスは相棒のホリーを連れて現場に赴く。

というふうに始まります。前作”Finders Keepers”が番外編だとすると、これは主流に戻ってきた感じがする。

この三部作、いちおう全部つながっているので、どうせなら順番に読んでいったほうがいいとおもう。作中で過去の出来事がわりとしつこく説明されるので、過去作未読で単体でよんでも大丈夫という配慮はされているけれど、全部で3作しかないし、つまらない、ということは無いと思うので、おすすめは順に読むことです。

以下、ネタバレを含む感想です。

この先、ネタバレが嫌な人は読まないでください。

ぶっちゃけていうと面白さでは「ミスター・メルセデス」には及ばないものの、シリーズ完結編なのでつい読んでしまう。登場人物にも愛着がわいているのでこれで最後かと思うとちょっと残念。とくに、やはりホリーのキャラクターはとてもよくできていると思う。

冒頭の殺人と自殺はブレイディ君が仕組んだものだったのですが、問題は自身も病院のベッドに縛り付けられている彼がどうやってそれをやったのか。というか出来たのか。彼は脳に損傷をおって病院でほとんど寝たきりに近い状態。ようやく回復してきたものの、ようやく自力で少し歩ける程度。いったいどのように関わっているのか。

なぜ出来たかというと、ブレイディ君に超能力が芽生えたからです。このあまりに大胆な理由が原因で拒否反応を起こす人も少なからずいると思う。

ただ、その能力をいかんなく発揮するためには改造したタブレット端末が必要となるとか、わりと現在のデバイスをうまく混ぜ込んでそれほど不自然とは感じないようになっています。いや、やっぱり不自然か。ただ、その過程は詳しく書かれていて、けっこう興味深く読めます。まあ、この辺は好みの問題だと思います。「ミスター・メルセデス」が直球の犯罪小説だったので、いきなり超能力が出てくるのが受入れられるかどうか。他者に憑依するというネタはそれほど斬新なものではなく、つまり拒否感も少なく、またこのあたりの描写がキングは得意なので嘘っぽさはあまりありません。

こうした要素は面白いのですが、いかんせん展開の先が読めてしまう部分があります。勘のいい読者ならストーヴァー事件の現場でホリーがタブレット端末を発見したところから、その先がなんとなく分かってしまうのでは。

第一、ブレイディが犯人であることは自明なので、あとはそれがどのように実行に移されたのか、という点が一歩一歩解き明かされていくのですが、その大きな要素が超能力なのでそこで興ざめしないように注意が必要です。

まとめと感想。

スリルとサスペンスは結構あるのですが、最後はちょっと拍子抜けする感じがします。前作のような、せっぱ詰まった犯人とのやりとりがもっと楽しみたかった。おなじキング作品でいうと「ドクター・スリープ」みたいな感じで、とくにラスト周辺がちょっと物足りない。最近のキングは読みやすくなっているけれど、かつてあった、予定調和がちょっと崩れるくらいの物語の勢いに欠ける気がする。

この三部作通して、結構最近のテクノロジーとかガジェットを詳しく描写しているのが面白い。キングもツイッターやってるしPCとかスマホは使っているんだろうけど(作中ではiPadとMacが登場するので、キングはマック派なんだろうか)、タブレット型のゲームコンソールとか、そこのフィッシング・ホールっていうゲームアプリとか、なかなかリアリティがある。さらにプログラムの話題が出てきたり、サイトにDoS攻撃を仕掛ける、なんて話もでてきたりしてそれが物語に違和感なくなじんでいる。これがキングらしいのか、そうじゃないのか分からないけど、いまだに現役で、現代の物語を爺臭くならずに書けるってすごいのかな、と思った。

単体としてはすこし物足りない点もあるものの、三部作の完結編としてファンなら是非読んでほしい。ジェローム、ホリー、この二人がまた別の作品に登場することはあるのだろうか。とくにホリーはいいキャラしていると思うので、是非新たな活躍がみてみたいものだ、と思いました。

トマス・ハリスへの献辞について。

トマス・ハリスへの献辞ですがこれは「羊たちの沈黙」が意識されてのことだと思います。ブレイディ君は「ミスター・メルセデス」でもそうでしたが直接手を下して人を殺めるより、自殺に追い込むのに言いしれぬ快感を覚える「自殺のプリンス」、変態です。自分が病室に縛り付けられていながら相手を自殺に導く、これは「羊たちの沈黙」のハンニバル博士が獄中から外部の人を操るのに似ていますし、「羊たちの沈黙」ではもろに隣の独房の囚人を言葉で追い込んで自殺させていました。

(あるいは、「ブラック・サンデー」のことも意識されているのかも知れません。あれも、テロリストがスーパーボウル会場で大規模な爆弾テロを計画するという、「ミスター・メルセデス」の元祖みたいな話でした。)