「見晴らしのいい密室」の感想。面白いSF短編集。

小林泰三の短編集です。これも、タイトルをみるとミステリ小説のように見えますが、内容はほぼSF短編集です。「海を見る人」がハードSFだったのに対し、こちらはもうちょっと緩いのでとっつきやすいかもしれない。あとSF以外のものも入ってます。

で、感想としてはやはり面白い。ネタや発想の使い回しはありますが、それは同じ著者なので当然だと思う。それぞれにテイストの違うお話がいくつも入っていて、なかなかお得感も感じられる短編集でした。あとグロい話はないので、そういうのが苦手な人でも読めます。でも、「目を擦る女」と「予め決定されている明日」はホラーに入るかな。各話の感想を書いてみます。

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見晴らしのいい密室

庭に埋めた核シェルターに一人で籠もっていたはずの男が、シェルター内で胴体を捻り切られた死体で発見された。核シェルターに誰かが出入りした形跡はない。

自宅の庭に埋められた棺。そこからの脱出トリックを披露するはずだった男が、全身の数十箇所を刺された死体となって発見された。男は周囲が見守る中で棺に入ったわけで、刺し傷からして自殺ではなくなぜ死んだのかがわからない。

この不可解な事件を解決するのがΣ(シグマ)と呼ばれる探偵です。この謎解きに怒りを覚えるか感心するか。わたしは感動しました。Σが登場する短編はほかにもありますが、だいたい面白い。このテイストは好きです。なおこの短編は、他の短編に直接つながっているような気がします。

目を擦る女

悪夢の中にいるかのような感覚の短編です。ホラーの範疇に入る話と言っていいでしょうね。そこにはいっているSF的な要素がちょっとしたアクセントになっています。

探偵助手

名探偵とその助手が事件を解決する話。ここに仕掛けられたトリックは、読み慣れてる人ならすぐにわかるかもしれません。手慣れた感じの作品。

忘却の侵略

SFといっていいと思う。突然現れたエイリアンと対峙する高校生の話。プレデターみたいな、超越的な力を持つ敵が相手なんだけど、敵の持つ能力がユニーク。そして、それに対抗する手段が面白い。これを膨らませたのが「記憶破断者」なんじゃないかな。敵との対決がメインながら、そこにちょっとした青春小説の要素を入れていて味わいがあります。量子力学での観測問題、波動関数の収束というのはよく小説でもネタとして使われますが、この短編での使われた方は最も文学的で味わい深いものの一つではないかと思います。

未公開実験

タイムパラドックスもの。丸鋸遁吉という博士が主人公。この人は他の短編にもでてきますね。タイムパラドックス物としかいいようがないのですが、オチがいいです。同じテーマの「完全・犯罪」がバカバカしいメタ的な終わりだったのに対し、こっちはSF的に落ちてます。

囚人の両刀論法

遠い未来の宇宙の話。ゲーム理論かなにかをもとにした、異なる文明同士の接触を描くSFです。この短編は「天獄と地国」とかの世界観につながっているのかな?面白いです。

予め決定されている明日

なかなか、嫌な気分になる短編です。個人的にはホラーに含めたいですね。地球上に住む地味なOLである諒子と、まったくの別世界で算盤人として働くケムロ。ふたりが接触した結果悲劇が幕を開けるわけですが、自分では完璧に論理的にまともに行動しているはずの諒子が、いわゆる関係妄想を伴う統合失調症患者にしか見えない。現実の統合失調症患者も、たぶんこの小説の諒子くらい確信を持って、自分はおかしくないと思っているのかと思うと怖いです。

まとめ

面白いです。やっぱりバラエティに富んでる。Σがでてくる短編はどれも好みで、その他に忘却の侵略、囚人の両刀論法、予め決定されている明日もいいと思います。SFと、ちょっといやな感じのホラーと、スッキリ終わる話がバランスよく入っている短編集でした。

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