テッド・チャン原作SF映画「メッセージ」の感想。原作+軍事的な緊迫感で、良くできている。

本格的なSF映画ができてるみたいだなーとぼんやり予告編を見ていたら、テッド・チャン原作の映画化だったので驚いた。

これは奇想に満ちたテッド・チャンの短編集の表題作にもなっている、「あなたの人生の物語」を映画化したもの。原作の題名は「あなたの人生の物語(Stories of your life)」で、映画は海外で2016年に”Arrival” アライバルというタイトルで公開されて、日本では「メッセージ」というタイトルで公開された。ややこしい。

さらにいうと、原作はハヤカワ文庫ででているけれど、同じハヤカワ文庫で「あなたのための物語」という似たタイトルの本がでているのもちょっとややこしい。

映画と原作は、だいたい同じ筋書きに沿っていて、伝えたい肝心のところはうまく出来ていると思う。どちらも同じ幻惑感を感じるけれど、映画のほうが視覚的でわかりやすく、そのネタを映像的トリックとしてうまく利用できていると思う。

音楽は芸術作品っぽい前衛音楽みたいなのと、ハッタリ系の音響が印象に残った。宇宙人の音がうるさい。

主人公のエイミー・アダムスの演技はよかった。主人公の相棒役がジェレミー・レナー。どっちかというと血気盛んなちんぴらとか腹に一物ある軍人とかそういう役柄ばっかりだった気がするけど、本作では物理学者を演じて、似合ってる。軍人のフォレスト・ウィテカーはいつ聞いても声がフォレスト・ウィテカーだった。

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あらすじ

ある日突然、地球上に12の宇宙船が出現した。宇宙船内部には宇宙人がいて、出現の意図は不明。主人公である言語学者は軍に招聘され、宇宙人と接触しかれらが地球に出現した目的を聞き出すという任務を与えられる。

宇宙船のある12の国それぞれで同じ試みがなされ、当初は各国が協力しあい事態の解明を目指すものの、宇宙人出現による混乱が世界で広がるなかで軍事的解決を模索する国が出てきて、各国は孤立してしまう。

また徐々に宇宙人の伝達方法を理解し、意思の疎通が図れるようになってきた主人公にも、不思議な変化があらわれる。

と言う話で、原作は読んでいましたがそれでも面白かったです。

原作で端折られていた(触れられなかった)部分を丁寧に描いていて、部分的には原作よりいい。

原作にはない世界的な混乱を背景に、国同士の対立、宇宙船に対する宣戦布告なんかでサスペンスを煽っていて、まあこういう工夫がなかったら予算の付く映画にはならなかったろうな、と思います。

映画はすべて絵で見せないといけないから、実際に接触を試みる際のプロトコルや「作戦現場」の様子なんかが描かれていますが、なかなかよくできていると思います。原作では大学の研究員が行う、未開の国の貴重なほ乳類の観察ツアーといった雰囲気になっていますが、映画では軍が指揮する戦闘作戦という感じ。

作戦の目的は、宇宙人が地球に来た目的を知ることで、そのためには宇宙人と意思疎通を図るため、かれらの言語を知る必要があります。それを解明する部分が映画の三分の一を占めています。

この言語の解明は原作に比べると大幅に端折られているけれど、ちょっとわかりづらいかもしれない。文字でやりとりすることになるんだけど、宇宙人の言語には時制がなく、単語の切れ目もない。文章のようにいくつかの単語を含む意味を伝える場合は、それぞれの単語の要素が組み合わされた一つの形として表される。伝える内容が複雑になっても、その形の複雑さが増すだけで、やはり一つの形だけで全ての意味が表される。

英語や日本語のように主語や述語というパーツに分けてそれを順番に並べて文章を作るのではなく、伝えたい一つの文章がどんなに複雑なものでも、一つの形に集約される。

さらに、一つの形に集約されると言うことは、書き始めの時点で書かれるべき内容全てを把握して文字?を形作らなければならないと言うこと。それぞれの単語を意味する形が互いに影響し合って形全体に変化を及ぼすので、後からある意味だけ取り除くとか、追加するということができない。

主人公は宇宙人にメッセージを伝える際、タブレット端末でいくつかの単語を表す文字を合成して一つの形にして、それを相手に見せていたけれど、こういう理由がある。

もう一つ、この映画のキモとなるのが、宇宙人の言語を習得する過程で主人公に生じる変化。映画では冒頭でサピア・ウォーフ仮説(使用する言語によって、使用者の認知は影響を受けるという説)を持ち出している。そして主人公は宇宙人の言語を習得することで、思考に変化が生じる。どういう変化かはネタバレになるけれど、この変化に納得できるかどうか? 納得できなくても、映画的には主人公の転機点がわかりやすくて、盛り上げ方としても上手かった。

ということは、宇宙人も当然後半の主人公のような世界の認識の仕方をしているわけだが、それがなぜ地球にきたのかというと、映画ではきわめて映画的に、簡潔に答えが出ていた。原作では何しにきたのかは分からないまま。ラストシーンを印象づけるためには、分からないままの方がよかった気がする。しかし、ラストまで映画を引っ張るサスペンス映画的展開を考えると、ああいう場面が必要だったんだろうな、とも思う。脚本上の都合かな。

映画というメディアの良さを活用出来ていると思う。

あと映画の時間軸。原作では現在進行形の宇宙人との対話と、それとはまったく関係ない、主人公のおもに娘にまつわる独白とが交互に入り乱れて進行する。映画も同じように、唐突に娘とのやりとりやその他の場面が挿入される。こういう構造は映画の内容的に不可欠だと思うけど、これも、映画ではちょっとした意外性をもたらすような配置になっていて、なかなかいいと思う。

映画版は世界の混乱と軍事の台頭でサスペンスを盛り上げながらも、きっちり主題にもどってきてくれた。「インターステラー」に似てると言われれば、似てなくもないかな。大変な事態が進行している中で、主人公だけが別のものを(おそらくは事態を解決するなにかを)みているところとか、時空を超えた愛情、とか。

それから、宇宙人が来た目的も、何で生きるのか、人の生きる目的とは何なのか、何のために生きるのかを、解明しようとするけれどできない、でも、生きていくという人間のあり方じゃないかと思う。人によって見方は変わるだろうが、そういう風にみた場合、この映画は人生を圧倒的に肯定している。

掴みづらいところもあるかもしれないが、原作をうまく映画化していると思いました。あと「メッセージ」という邦題はわりと悪くないと思う。

  • メッセージ
  • (Arrival)
  • 監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 2017年
  • 上映時間 116分