映画「来る」の感想。よくできてると思います。

「ぼぎわんが来る」の映画化。これは、結構いい出来だったのではないでしょうか。

冒頭からこの監督らしいイントロ映像。日本的な風土の映像にバックに日本のホラー映画らしからぬ英語ロックが流れ、けっこうテンション上がります。

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原作の5割増。

大まかな流れは原作準拠。大まかに第1章、第2章、第3章に分けられるし、冒頭に自宅で化物を待ち受ける田原(妻夫木聡)の場面(1章のクライマックス)をもってきて、その後、そこに至るまでを描くなど、時間の流れも基本的に原作どおり。ただ、映画の印象と原作の印象は全然違うと思う。

内容的には、様々なエピソードがアレンジされている箇所もあるものの、だいたい原作の5割増くらいに膨らんでいる感じ。

たとえば夫である田原のウザさ。ええカッコしいでお調子者で、よく言えばクラスの中心、人気者。別の見方をすると自分勝手なうざいやつ。この夫のウザさを、夫実家の法事、結婚式といったエピソードを用意し、冷めた目で夫を観察する友人たちを配置することで原作以上に際立たてせてます。

寒い内容の育児ブログとかも見てて痛いし、自宅でのパーティや結婚式でさり気なく妻夫木をディスる友人たちもなかなかエゲツない。

このへんはくどいとも思える演出だけど、夫のうざい一面というのもこの話の大事な要素なので個人的にはすごく面白かった。

夫のテンションと正比例して沈み込んでいく妻の香菜を演じるのは黒木華。この人と、夫の友人の民俗学の准教授との関係も原作を超えて不倫に発展している。妻も母親に虐待を受けていたという設定を追加することで、第2章は原作にはなかったネグレクト、児童虐待の問題、さらにシングルマザーに厳しい都会生活を描いていて意欲的。半ばゴミ屋敷と化していく高級マンションが怖かったです。

青木崇高演じる民俗学の准教授も、原作よりも出番が増え、キャラも関西弁のイケメンに変更されてだいぶ出世した感があります。原作とはなぜか名前が違う。

で第3章。ここ、原作ではいきなりトーンが変わって、急に超霊能力者の琴子(松たか子)が登場してvs化物の格闘が始まるんだけど、ちょいと唐突な感じは否めなかった。そこを映画では、化物との対決を文字通り大掛かりな祭事に仕立て上げることでクライマックス感を出していて、なかなか良かったと思う。舞台はマンションの一室なんだけど、周辺地域をすべて封鎖してマンション前の公園に大掛かりな祭壇を作り上げ、全国から能力者を呼び寄せて大規模な祓いの儀式を行うという。絵的にも、各地から能力者が呼ばれてくるあたりも、さらにそのうちの半数は現場に辿り着く前にヤラれてしまうというあたりも、テンション上がります。あと松たか子の政界どころか世界レベルの要人に通じているであろう無敵っぷりも、なんとなく納得してしまう。

改変箇所もいろいろあります。

カットされたり、改変されたりしたところもある。例えば、第二の主人公である雑誌編集者の野崎(岡田准一)。原作では、かれは無精子症で子供が作れないという設定。映画版では、元カノとの子供を望まず流産させたことで、子供に対する何がしかの葛藤を抱えている。

子供が持てない体だからこそ、脳天気にイクメンを気取っている田原との対比が浮き彫りになってた気がするんだけど、まあそれとは別のアプローチでこの映画ではある意味子供が中心になっていると思います。

そもそもの化物の正体についても、その出自を突き止めるくだりをばっさりカットしている。まあ原作でも正確なところはよくわからないんだけど、映画版はさらにそれが曖昧になっている。さらに、虐待を受けていたと思われる妻夫木の子供時代の友人もなにか関係ありそうで、いったいなにが原因でこの出来事が発生したのか、よくわからない。

オカルト好きの

それから一番変更されていたのは最後の化物との戦闘場面。ここでは、子供ごと化物を消し去ろうとする琴子に対して、真琴と野崎が抵抗する。さらに琴子も化物の術にはまった事がわかって、一部何が敵で何が味方なのか混乱する。

それは意図的にそういう風に演出されているからいいんだけど、結局その後化物がどうなったのか、子供がなんで助かったのかとか、よくわかりませんでした。勢いでなにか大事な箇所を見落としてしまったのかもしれない。いわゆるエピローグ的な部分がほぼない映画なので、なおさら「で、どうなったの?」感が。もっとも、最後の盛り上がりから一気に結末に達するので、全体として観終わった後はかなり熱量を感じ、映画見たなぁという実感がわくのでこれはこれでいいんだけど。

それから、妻夫木の同僚、友人の民俗学者も化物の犠牲になるんだけど、どういう基準で犠牲者が選ばれているのかがよくわかりませんでした。そのへんはこまかい考察をすれば理屈付があるのかもしれないし、とくに理由はないのかもしれない。

キャスト

キャストはほぼ満点といっていいと思います。妻夫木の夫役も見事だし、妻役の黒木華もすごくよかった。実際はなにもしないくせにイクメン気取りの妻夫木に静かに愛想を尽かし、やがて育児の重圧に押しつぶされ、崩壊していく姿が印象的でした。子供を連れて家から逃げ出すときの姿が、不倫相手の准教授と出会った恰好のままなのも狙い通りですね。

田原の友人の准教授、青木崇高もよかった。関西弁の喋りが聞いてて心地良い。一見、田原の仲のいい友人なんだけど香菜と不倫。さらに、その本心。なかなかいいキャラです。

田原が最初に頼る霊能力者、真琴を演じるのは小松菜奈。原作に寄せて、短髪をピンクに染めたいたるところタトゥーのキャバ嬢というインパクトのあるキャラクター。それでいて、子供好きであっという間に子供と打ち解ける。ちょっと黒い地毛が見える雑なところがそれっぽい。ちゃんと作りこんでるなぁという気がする。

この人は画面上での存在感がすごい。将来有望。「渇き。」でも謎めいた女子高生を演じてたけど、今作は冷たそうな外見とは裏腹にストレートに感情を吐露することが多く、どんな演技になるのか気になりましたが、ちゃんとしてました。

野崎を演じるのは岡田准一。憂いのあるイケメンという感じで、なかなかいいです。何事にも辛辣な態度を見せることの多いイケメンですが、後半は狼狽える場面が多くなってきてほんのり三枚目の要素が出てくるところもいい。除菌消臭スプレーを必死でかけまくったり。

で、真琴の姉のすごい霊能力者を演じるのは松たか子。いつのまにか貫禄のある役者になったという気がします。

そのた、柴田理恵、伊集院光といった個性的な脇役もよく役にはまってました。主人公の同僚役もよかったし、幼稚園で黒木華に切れるジジイの嫌味っぽい喋り方もよかった。

まとめ

そういうわけで、面白かったです。映画化としては、原作を尊重し、それでいて囚われることなく、個人的にすごく良いタイプの映画だったと思います。

原作の、章変わりで視点人物が妻に移り、夫の実像が露見したときの驚きがなくなったのは仕方ないけど、その分妻パートが原作を超えていた。

それから、この映画はいわゆる日本のホラー映画の、ジメジメした後ろになにかいるかも、という恐怖を醸し出す映画ではないので、そういうのを期待するとちょっとがっかりするかも。積極的に攻めてくる化物と、一見理想の家庭にみえて実はそうでもないというホームドラマが混ざりあった見どころの多い映画でした。

あと、この映画では、タバコを吸って酒を飲むのが主人公側っていうのが面白い。タバコを吸ったやつの、タバコを持っていた手が食いちぎられる「ディープ・ブルー」とは正反対。