「ルインズ 廃墟の奥へ」感想。無駄に長いという印象。

スコット・スミスの「シンプル・プラン」を評価したついでに、同じ著者の「ルインズ 廃墟の奥へ」の感想。

「シンプル・プラン」を書いた後にスランプに陥って小説が書けなくなった著者が、十年以上ぶりに発表した2作目。メキシコの人里離れた場所を訪れた旅行者たちが、森の奥で謎の人食い植物みたいなのに閉じこめられる話。スティーブン・キング絶賛。

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はっきり言って、ださく。駄作。

この日本語版上下巻を費された「ルインズ」の中に特筆すべきものがあるかというと、ない。短編でもっと短くまとめられる話を、だらだらと引き延ばして長編にしたというイメージ。もろに同じような話ならスティーブン・キングの「筏」という短編があるし、ちょっとひねった、でも同じような趣向の話だとスティーブン・キングの「生き延びるやつ」がある。さらに複数人が取り囲まれその人間関係をも視野に入れたパターンだと、やっぱりスティーブン・キングの有名な傑作、「霧」がある。「霧」はちょっと眺めの中編だけど、あとは短編だ。

文章が下手とかいうことはなく、読めば読み進められるけれど、いかんせん物語の牽引力に欠ける。

ヒーローでもなんでもない主人公たち男女がなんとか努力して危機を逃れようと奮闘する様と、にもかかわらずどんどん悪くなっていく状況が、骨が折れたとか血が出たとか生理的な嫌さを差し挟みつつ描かれるので、ホラーとしては必要条件を満たしている。夏に冷房の効いた部屋でアイスでも食べながら読むという、高尚な趣味には使えるかも知れない。

しかしキャラクターにも魅力がなく、読み終わってもだれも印象に残らないし、あまりにも淡々としていて、展開にも人物にも山がなく、これといって惹きつけられるところがない。オチも、とくにひねりもなく、当たり前の結末。

ひょっとするとそれがこの作者の特徴なのかも知れない。この、単調、平凡のうちに迫ってくる危機というのが。視点が自分の半径数メートル以内から外に向いてない感じ。それでも、「シンプル・プラン」と比べると断然つまらない。

どうも、ネタと本の長さがかみ合ってない気がする。これだったらもっとそぎ落として日本語版の上巻分くらいにまとめてほしいと思った。ほかのB級作家がこの分量でかき続けてたら、終盤は人食い植物vsメキシコ政府くらいの展開になっててもよさそうだが。

なお、けなしたがなぜか映画化されている。「パラサイト・バイティング 食人草」という身も蓋もないタイトルで、原作とは少しトーンが違うらしいが、まだ観てない。最初に主人公一行をおもいきり馬鹿な脳天気なツーリストとして設定して、窮地に立たされてからの変化を描くのなら面白いかもしれない。

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