「アーミーオブ・ザ・デッド」の感想。期待はずれのゾンビアクション映画。

一言でいうと期待はずれの映画でした。

ザック・スナイダーが監督した「ゾンビ」のリメイク「ドーン・オブ・ザ・デッド」はいい出来で、単なる焼き直しじゃなくて走るゾンビという新機軸を打ち出し、オリジナルとはまた違った良さのある傑作に仕立てていた。その後の「300」も面白かった。そのあと、アメコミの映画をいろいろ撮っているけどそれは興味がないので見ていない。

そんなザック・スナイダーがネットフリックスで新作ゾンビ映画を撮るという。しかもタイトルは「アーミー・オブ・ザ・デッド」、ゾンビの軍だ。走るゾンビの次はどんな新しいゾンビ映画を見せてくれるのか。期待して観た。

んー、はっきりいって普通につまらなかった。クソ映画ではないし、まあ及第点かな?それなりにちゃんとしてるし、低予算ゴミクズ映画ではないし。いや、むしろ普通のアクション映画って感じ。ゾンビが出てくるアクション映画。

しかしザック・スナイダーに求めているのは新境地を開いてくれるような映画だったのだが、その期待は見事に打ち砕かれた。知性のあるゾンビという点が新しいんだけど、この設定がとくに活かされていないっていうのが痛い。これだったら徹頭徹尾過去のゾンビ映画のフォーマットを踏襲して、物量とかで攻めるような映画のほうがよかった。

あと長い。2時間28分もある。これは長すぎる。任務受諾、チーム集め、実行と時間がかかる段取りになっているのに加えて、背景説明の導入もあるからどうしても長くなってしまう。それを長いと感じさせてしまうのは驚きのある新鮮感を感じる場面が少なく、単調でひねりのない展開が続くからだろうか。

軍が運んでいた最強ゾンビが脱走して、ラスベガスがゾンビ地獄になるというのが発端。その後ラスベガスは閉鎖されて、感染していない住民は隔離されて一種の難民キャンプみたいなところで暮らしている。

主人公は元軍人で、真田広之演じる富豪から、カジノの地下の金庫に隠された2億ドルを奪取してくるよう依頼を受け、仲間を集めて作戦開始する、というお話。

ゾンビタウンになったラスベガスを描いた最初の導入はいい。しかし、映画を冗長にする原因にもなっている。最初のゾンビが発生し、いつの間にかゾンビが増え、生き残った者たちが応戦し、なんとか脱出する、というこの導入部で、既存のゾンビ映画のフォーマットをおさらいしている感じ。

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ゾンビ映画特有の雰囲気が希薄

この舞台背景を前提にゾンビがうじゃうじゃいるラスベガスで現金強奪を企むという話で、ゾンビ+ケイパー映画だからさぞかし面白くなりそう…なはずが、そうでもなかった。

個人的な物足りなさ。ゾンビ映画の魅力の一つにその終末感、この世の終わり感があると思う。ゾンビものじゃない「渚にて」とかもそうなんだけど、世界滅亡のさなかで一縷の希望を見出すか、それともすべての望みが断たれるのか。どちらの結末を迎えるにせよ、どっちに転ぶかわからない緊迫感、あるいは無力感が映画の大半を支配していることが重要。

で、この映画の場合それがないと感じた。ゾンビがいる危険地帯はラスベガスだけなんだよね。その周りの難民キャンプはしっかり隔離されてて安全ぽいし、ネバダ州以外の全世界で何かトラブルが発生している描写はない。

(映画中で2004年ミルウォーキーでのゾンビ発生、つまり「ドーン・オブ・ザ・デッド」の出来事に言及するスマホ画面がちらっと映るが、これは単なるファンサービスらしい。)

この点がかなり不満でした。この映画でのゾンビは単なる障害物、排除すべき敵であり、これはわたしの思うゾンビ映画とはちょっと違うのでした。

ケイパー映画としてはまあ普通の出来かな?登場キャラにあんまり魅力を感じない。

富豪に現金強奪を依頼された主人公は任務遂行のため仲間を集めるんだけど、こいつらが没個性的であんまり魅力的じゃない。ドーン・オブ・ザ・デッドの登場人物たちも死に役の数合わせって感じが少ししたが。今回は全員武装していて似たような行動、外観になる。仲間同士の会話とか関係性も特筆すべき点はない。

脱出に必要なヘリのパイロットはなかなかいいキャラだった。この人は当初撮影した人の不祥事を受けての代役で、撮影し直してデジタル合成したそうだ。

もうひとり、計画成功に必須の金庫破り君。普段は悲鳴あげっぱなしの弱気キャラなのに金庫の前にたつと別人のようになる…っていう点をもっと強調しても良かった。

あと主人公のもと同僚とか、人気ユーチューバーとか、だれだっけ?よくわからん。

主人公はガタイのいいおじさんで、どこかで見たと思ったら「ブレードランナー2049」の冒頭で処理されるレプリカント役だった。この人、気はいいんだけど娘と元妻と不仲っていう、「ドーン・オブ・ザ・デッド」のマイケルと同じような性格。

娘との和解もストーリーに盛り込まれているが、ただ気持ちが伝わっていなかった、話したら通じた、みたいな感じだった。

こういう会話のシーンもあんまり意味ない気がした。その心情をアクションを通して伝えてくれ、と思った。

富豪の警備担当は良かったが、なんでチームを危険にさらす?

富豪の警備担当もチームに同行する。いかにも裏がありそうで、実際に裏がある。このくらいのわかりやすさがこの映画にはあっている。

裏切りそうな雰囲気を放ち、予想通りの行動。しかし、ちょっと唐突である。

メンバーの一人である強そうな女性傭兵に疑われると、すぐにそいつをゾンビうじゃうじゃの場所に誘い込み、孤立させる。結果、そのメンバーは犠牲になるんだけど、なんでこんなひどいことするんだろう。ゾンビうじゃうじゃの危険地帯で、自分たちにもいつゾンビが襲いかかってくるかわからない場所で平気でこういうことをする神経がわからない。

この女性傭兵の奮闘っぷりはアクションシーンとしてかなりいい感じでした。目の前のゾンビの大群をバタバタと倒して血路を切り開いていく。せっかく脱出できそうってところでやられてしまい、ほんとに残念。

このお目付け役、実は2億ドルではなく知性のあるゾンビのDNAを持ち帰ることが任務。そのため、勝手にゾンビクイーンの首を切り落とし、チームを見捨てて一人だけ脱出しようとする。

真田広之の出番は数カットのみ。

普通に、2億ドル奪取してさらにDNAゲットじゃだめだったんだろうか・・・。隠さなくてもよくないか?さらにそういう裏の任務があるのなら、それを指示した真田広之がもっと出てきてもいいと思うが、真田広之の主な出番は任務を説明する主要な1シーンのほかは数カットあるだけ。後半は出てこない。「インセプション」の渡辺謙みたいな役どころだけど、話にはからんでこない。

田中にeasy peasy Japaneseyって言わせて、人種差別とかちゃんとわかってる映画ですよって思わせたかっただけな配役にも感じ。

タイムリミットの危機感はあんまり感じない。

あとは核爆弾投下というタイムリミットが設定されて、それなのに主人公の娘が暴走してどっかにいっちゃったりっていうのもお約束かな。「ドーン・オブ・ザ・デッド」では女の子が犬を追い掛けて飛び出してったけど、今作の娘は友達3人を探しに行く。タイムリミットまで間もないのに、かなり馬鹿である。

ほかの人達もそんなに危機感感じてないのか?この娘の行動とかもあるし、そもそもゾンビに追われているという状況なので、核爆弾によるタイムリミットの緊張感はちょっと薄れてる。
 
核投下を決断した大統領のコメントが「かっこいい」とかなのはトランプを揶揄しているのかもしれないけど、ちょっと遅い。あと翻訳のせいもあるのか、そんなに笑えなかった。

ゾンビに革新をもたらしてほしかったが、惜しかった。

あとはやっぱり知性あるゾンビの描き方が物足りなかった。どうせ出すなら、ゾンビ統率の仕組みとかいろいろ踏み込んでほしかったと思うのでした。

ゾンビが出産する可能性にまで触れているのに。(これも「ドーン・オブ・ザ・デッド」から続くネタだと思うけど、個人的にはグロさを感じて好きではない)

あとゾンビキングは力も素早さも並のゾンビよりすごくて、鉄の仮面をつけている。っていっても、それだけで二人がかりの銃撃に耐えられるとは思えないんだが。確かにゾンビは頭が弱点で、頭を防御されたら弱点を攻撃できないのは確かですが、それならまず胴体とか手足を撃って動きを止めるなりすればいいと思うのですが。

良かった点

ゾンビ虎がお目付け役をズタボロにするシーンは良かった。

まとめ

当初の計画はすべて狂い、結局数人しか生き残らないという骨折り損のくたびれ儲けだったわけですが、ミッションの終わりはなんとなく清々しさを感じられました。その後のオチは演出も地味、発想もごくあたりまえでまたちょっと気が抜けました。

最後に生き残った一人がメキシコ行きの飛行機に乗り込み、機上で自分が噛まれていたことに気づくというラストなんですが、まあよくあるパターンだし、自分が噛まれたことくらいもっと早く気付くだろうとか、この人だけゾンビ化にすごく時間がかかるのはなんでだろうとかいう思いが浮かびました。

そんなわけで犯罪映画+ゾンビの意欲作でしたが、長い。この監督の映画はよくディレクターズカット版とかが取り沙汰されているようですが、この映画に関しては上映時間の成約の少ないネット配信だからか、最初からディレクターズカット風になってしまったのかもしれません。いろんな場面をカットして、100分に収めたバージョンを出してほしいと思います。きっとダリオ・アルジェント版「ゾンビ」のような良さが生まれることでしょう。

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