貴志祐介原作、森田芳光監督の「黒い家」。意欲的な失敗作。

日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介のサイコホラー小説「黒い家」を、森田芳光が監督したホラー映画。

貴志祐介はこのデビュー作でいきなりホラー小説大賞を受賞しました。後に出版された「ISOLA」は、「黒い家」の前年にホラー小説大賞で佳作に入選していたものを加筆訂正して出版したようです。そして、これも映画化されています。デビュー作2作がどっちも映画化されるとはすごいラッキーですが、このころは角川ホラー文庫も始まって間もないころで力が入っていたし、なにより1998年の「リング」映画版のヒットの影響が大きいでしょうね。そのころ、ホラー映画がブームみたいになっていたと思います。

で、この「黒い家」の映画化。はっきりいって失敗作でしょうね。

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ホラー映画なんだけど、演技がコメディ。

原作は、保険金詐欺を繰り返す異常な女を描いたすごく恐い小説。

森田芳光の矢継ぎ早にカットを切り替える撮影方法、いったいどういう意味があるのかよく分からない。この映画では子供の首吊り死体を発見する場面、金魚が便器に流される場面とかで一応それが生かされているけれど、それを生かすために全体のカット割りを作っているわけではなく、なんだかちぐはぐな印象。

カット割りの他にも主人公と上司が会議室で喋っている時の映像とか、何かしたいのはよくわかる。しかし、それがこのホラー映画の演出として意味があるのかというと、無駄である。

もっともダメなのは登場人物たちの演技。

主人公は保険会社に務める社員で、まだ若手の頃の内野聖陽。「(ハル)」に続いて森田芳光映画の主役。この人が転職したての保険会社社員で、みょうにおどおど、自信なさそうな態度をとっている。ただ、それがくどい。ひどいのは、連絡の取れない彼女の家を尋ねていく場面。大げさすぎるビビり具合で、これじゃコメディだと思った。

保険金詐欺を企む夫婦の夫側、西村雅彦もひどい。あのナチュラルさの欠片もない不自然な演技、どうして日本アカデミー賞助演男優賞に選ばれたのかまったく理解できないのはわたしだけだろうか。まさに、こういうアブナイ人を演じてます、というのがあからさまの演技で、しらけてしまう。

悪役の大竹しのぶは、ぬぼーっとした怖さを感じさせる役だったと思うんだけど、これもなんとなく、大竹しのぶ自身どう演じていいのかちょっと戸惑っているような感じもした。大竹しのぶがよく似た役を演じた「後妻業の女」だと、一見善良そうな女でありながらちらっと得体の知れない部分が覗く、そのうっすらした怖さがよかったんだけど、「黒い家」だと性格の表と裏の落差もあまり感じられないし、結局異常性の表現において「乳、吸えー」という場面のような表象的な部分に逃げてるように思えた。もっとずっとぬぅっとした、樹木希林的な怖さを追求して欲しかった。

この辺、全体的に演技がミスマッチだなあと思った。なんというか、わざとらしい。演劇であればそのまま通用する演技のような気もした。俳優の演技のテンションが、映画の内容にあってないように感じる。

森田芳光の演出がいろいろな面で意欲的なのは分かるが、これは意欲的な失敗作だと思う。

ないものねだりをしてみます。

原作には保険会社の内幕物という側面もあるのだから、そういう要素を取り入れても間口が広がって面白かったと思う。というか前半はもっとオーソドックスな業界ものにするべきだった。そう考えると石橋蓮司の上司役もちょっと癖がありすぎるかな。

前半はもっと小粒の保険金詐欺師を登場させたり、小林薫演じるトラブル処理役をフィーチャーしてもよかったのでは。リチャード・バックマン(=スティーブン・キング)の「痩せゆく男」にも、裏稼業に足を突っ込んだ解決屋が登場するけど、活躍ぶりがある程度描かれるからこそ、それが失敗したときのショックも大きい。小林薫は出てきたと思ったら死んでる。交渉相手を説得する場面も、あの程度なら保険会社の上司とかで十分なのでは。

まあ無い物ねだりをしてもしかたありませんが、この映画は題材に対して演出がちょっと空回りした、不幸な組み合わせだったのではないでしょうか。

もっと素直に映画化すれば良かったんじゃないかなと思う。