SFスリラーの傑作「エクス・マキナ」の感想。小難しい映画ではないので、気楽にみたほうがいいです。

AIをテーマにした映画で、めんどくさいSF映画といった印象を持っていたり、あるいは単純になんの映画なのか分からなくて素通りしていた人もいるかもしれない。

でも、この映画は基本的に万人が楽しめる娯楽サスペンス映画なので、変な先入観をもって敬遠せずにみたほうが楽しめると思う。

監督はアレックス・ガーランドで、この人は今までダニー・ボイルの映画の脚本を色々書いている。「28日後」、「サンシャイン2057」とか。「エクス・マキナ」はアレックス・ガーランドの初監督作品で、「28日後」「サンシャイン2057」が好きなら、今回の「エクス・マキナ」も同じテイストで楽しめる。

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あらすじ

あらすじ。IT企業の社長で億万長者の天才ネイサンは、人里離れた山奥に秘密の研究施設を作り、AIの研究を進めていた。最新のAI「エヴァ」がどこまで人として通用するか試すため、ネイサンは自社の社員ケイレブを1週間の期限付で施設に呼び寄せ、エヴァをテストさせる。エヴァは自律型の胴体と美しい顔をもったAIで、ケイレブはエヴァにAI以上の親しみを感じる。セッションのたび、AIらしさを感じさせない受け答えでケイレブを感心させるエヴァだが、ある日ケイレブに「ネイサンを信用するな」と告げる・・・。

という話です。

感想

登場人物は実質4人のみ。

エヴァの受け答えは完全に人間と見分けがつかないもので、それがどういう技術なのか自律して動き回れるボディに乗っているので、AIというよりは、ロボットですね。

検索エンジンの開発で成功したということなので完全にグーグルがモデルですね。立ち入り禁止の広大な敷地の中にある秘密の研究施設は一流ホテルみたいな雰囲気で、絵的にもきれい。そしてこの閉鎖的な施設はいたるところに監視カメラがあって、行動は逐一チェックできる。

この環境が、疑心暗鬼の醸成に一役買っています。

ケイレブはエヴァと面会し、エヴァの行動、おしゃべりに違和感がないか探る。そしてその面会の様子、思ったことをネイサンと共有する。しかし、ネイサンはケイレブとエヴァの様子はすべてモニターでチェックしているはず。ネイサンがケイレブを呼び寄せた理由は、本当にエヴァのテストだけなんだろうか・・・。

またエヴァの「ネイサンを信用するな」という発言も、ケイレブも悩ませます。エヴァは施設の電源に負荷をかけることで一時的に停電させることができ、その間は監視カメラが機能しなくなります。その隙に、ネイサンを信じてはいけないとケイレブに告げるのですが、その発言の理由はなんなのか。

それとも、これもネイサンによって最初から仕組まれたものなのか。

ときおりネイサンの行動に違和感を感じていたケイレブは、徐々にネイサンの考えに疑問を持つようになります。

この辺の心理的に不穏な雰囲気が全編に漂っていて、いい感じです。

ネイサンが食事の給仕の際に粗相をしたキョウコに暴言を吐いたり、酔っぱらって廊下に唾を吐いたりするところを見せることで、観客も徐々にネイサンにたいして疑問をいだくようになります。それだけなら粗暴な人間というだけですが、密閉された研究施設で雇い主が見せるそうした行動は、研究自体の倫理性にも疑問を向けさせます。

心理スリラーの趣が強いですが、ただ人が喋っているだけの退屈な映画というわけではない。全編、派手なシーンがあるわけではない、落ち着いた雰囲気の心理スリラーですが、ケイレブの背中の傷なんかのちょっとした謎もちりばめてあって、最後まで飽きさせません。

観客の不安感をしずかに増大させていく演出、物語の流れが、「28日後」「サンシャイン2057」とまったく一緒。そしてためてためて最後のほうで一気に爆発するという演出パターンも一緒。なので、この2作が面白いと思った人には本当におすすめ。

一人暮らしているネイサンがアル中気味なのがおかしい。画面に出ているときはたいていトレーニングしているか飲んでるかのどっちかです。しかし、ケイレブのセッション中はワーキングルームのコンピューターの前でしっかりモニターしていて、コードを書いたり壁一面の付箋を見直したりしてる。このギャップがそれっぽい。

あと、やっぱり付箋なんだなあと思った。スリーエムがスポンサーなのかと思うくらい付箋が張りまくってあった。

キャスト

4人しかいない登場人物は、どれも非常に役にはまっている。

ネイサン役はオスカー・アイザック。坊主頭に髭で、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のポー役とは言われなければ分からない。天才だけど、ざっくばらんで気さく。しかし何を考えているのか分からない一面がある。そして酔っぱらい。というキャラをうまく演じています。

 

ケイレブは、社内の抽選に当たって社長の自宅で過ごす1週間の休暇をもらったという建前で施設に連れてこられますが、実際には素質、条件が一致してネイサンに選び出された人材。

ケイレブ役はドーナル・グリーソン。いかにもアレックス・ガーランド作品の主人公っぽい。キリアン・マーフィーぽいというか。かれもオスカー・アイザックと同じく「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」に出てますね。敵味方に分かれて、帝国の将軍役でした。

キャストですごいのはエヴァ役のアリシア・ヴィキャンデル。かなり評価されたようですね。たしかに、エヴァという人造人間の役をうまく演じていました。バレエをやっていただけあって、人間よりちょっとなめらかな歩き方、所作でロボットっぽい感じをうまくだしていました。あとは、わざとらしくAIぽくしたりロボットぽくしたりしなかったのが、この役の成功した理由だと思います。

全身スケルトン筐体のボディに顔だけ人間のものという姿ですが、こういうのも今はまったく違和感なくCGで描けるんですね。

あと一人、キョウコという美人のお手伝いさんみたいな人がいます。食事の支度をしたり家政婦のような存在なんでしょうか。見てればすぐ気付くと思いますがこれもロボット。機能は限定されていて、エヴァより前の世代のAIなので英語は理解できないようです。しかしダンスはすごく、ネイサンがミュージックスタートするとそれにあわせて踊り狂います。ネイサンも踊り狂い、見ていたケイレブは取り残されて困惑顔。あの唐突な笑えるダンスシーンにはだれでも困惑すると思います。

キョウコ役はソノヤ・ミズノという女優で、これがデビュー作のバレエダンサー。ネイサンと息のあったダンスを見せてくれますが、あのダンスシーンはいったいなんだったのか。頭から離れません。

まとめ

2015年の映画で、評価も高い。のに日本ではあまり話題にならなかった気がする「エクス・マキナ」。やっぱり単館系だと興行的にはきついんでしょうか。こういうのこそたくさん動画サービスでみたい部類の映画ですね。わたしはamazonプライムで見ました。

劇中でネイサンはAIが人間を超えるのなら何の問題もない、といった台詞を言っていた気がしますが、最近はAIの議論も盛んになってますね。シンギュラリティとか。

おなじテーマでは「トランセンデンス」という駄作がありますが、「エクス・マキナ」はAIというテーマうんぬんに関係なく、サスペンス映画として良くできていると思います。

あと、ロケーションもきれいだし、全体的につくりが丁寧でいいですね。ラストのスタッフロールで表示されるパターンもきれい。いきなりHusbandsというパンクロックが流れてくるのもいい。

  • エクス・マキナ
  • (Ex Machina)
  • 監督: アレックス・ガーランド
  • 2015年
  • 上映時間 108分
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