「虐殺器官」映画版の感想。映画としてはいい出来。ストーリーは大体原作通り。「CURE」参考にした?

制作会社が倒産だったかで、続編のはずのハーモニーが先に完成してしまった、とか前に読んだ。その後、ちゃんと完成していたんだね。ネットフリックスに伊藤計劃の映画3本あったので、最初に見てみた。

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アニメのクオリティは高い

出来は、いい。ストーリーに問題、というか不満があるものの、それは原作にある不満そのものであり、映画としては原作をうまく映像化していると思う。制作遅延ということでどんなクオリティなのか心配だったのですが、はっきりいってアニメーションとしてはかなり頑張っていると思います。リアル志向のキャラクター造形で、細かい仕草まできっちり表現してあるし、顔のアップ、眼の動きなんかも頑張っていると思う。キャラクターの統一感は、これだけ動きのあるアニメとしてはいいほうなのではないでしょうか。

もう一つ、随所で使われているCGとか、エフェクトも非常に効果的。SFで、主人公が軍人で戦闘シーンもたくさんで、いろいろなガジェットが出てくるのですが、それらの描かれ方に非常に説得力があります。武器や兵器、光学迷彩なんかの表現もそうですが、とくに頻出する主人公の主観視点での映像、直接視界に投影されるリアルタイム情報の描かれ方なんかはスマートで違和感がありません。

あと、キャラクターの造形だけじゃなくて、物語のバックグラウンドや登場する場所もリアルです。現実世界を舞台にしたちょっとだけ未来の話なので、このあたりがきちんとしていることで映像の説得力がかなり高まっていると思う。舞台としてはグルジア(現ジョージア)とかチェコとかが出てきますが、特にチェコは、カフカの墓にいったり、町中で尾行を巻くために電車やバスを乗り継いだり、あちこち移動します。で、それが嘘くさくない。舞台にする上で実際に取材に行ったか、かなり調査してアニメにしてるんじゃないかな。それからヒロイン役の女性、この人のPCの壁紙がミュシャだったり、この人自身、ミュシャが描く人物にも思えたりするところも面白い。

基本的に、そのまんまハリウッドで実写映画化されても問題ないくらいのノリで作られてます。

問題点

で、そういうアニメーションはいいんですが、やっぱり登場人物の会話は問題ですね。まあ予想できたことですが、原作を読んでいるときにはそんなに感じなかったクドさ、登場人物が自分の考えを(それもこの映画の場合なかなか込み入った考えを)滔々と述べるシーンにはやや苦笑してしまう。原作では一人称で、主人公が地の文でもずっと何かしら考え込んでいるのでとくに会話だけ浮いて見えるということはないんだけど、映画では主人公の独白はほとんどカットされているので余計会話が浮いて見える。

全体としてはついていけるレベルだと思うんですが、一番肝心の、主人公が追いかけていた黒幕が自分の考えを披露するところが一番ややこしく、かつ長いという問題があります。

この映画、近未来的なガジェットについては余計な説明を入れずに見た目だけで見せてくれるんだけど、やっぱり原作の台詞は台詞のまま表現するしかなかったんでしょう。

で、黒幕の独白をきいてもちょっとややこしくて、何いってんだこいつ?と思ってしまう人がいるかもしれませんが、この映画の残念なところは黒幕の考えをきちんと聞いても、やっぱり何いってんだこいつ?としか思えない点です。

原作がそうなので仕方ないのですが、虐殺器官、という発想はすごく面白いと思ったのですが、なぜそれを行使するのか、という理由にあまり説得力が感じられないのでした。虐殺器官を発動させるために、無理やり理由付けしているように感じます。

まとめ

全体として平和な世界で局所的な紛争がやまない矛盾、平和な国の兵士が戦争で簡単に人を殺す矛盾、さらに技術的操作で感情や感覚をコントロールして効率的な殺戮機械に仕立てられた兵士が感じる自己の矛盾。そういうテーマは映画でもかなりストレートに出てくる。

全体のストーリーも一緒。ただし原作の多弁な語りはなくなっていて、映画のほうがちょっと落ち着きが出ているように感じる。原作の青臭さが抜けているというか。

個人的な好みからすると、後半の戦闘あたりはもうちょっとケレン味を効かせてほしかった。味方の兵士が痛覚マスキングの帰結として最後まで普通に会話しながら死んでいくところとか…

冒頭の演出や、ラストは良かったと思う。ここで原作を超えた何かがあれば最高だったのに。と思ってしまうのは、多分わたしが原作に対して、とくに肝心のジョン・ポールの動機、そして主人公の動機について、納得出来ていないからだと思います。

まあそれを差し引いてみれば、原作にかなり忠実かつクオリティも高い映画で、いい出来だと思いました。

黒沢清の「CURE」

そして、スケールは違うけど骨格が同じような話として黒沢清の「CURE」があります。こちらはまさに無駄なダイアログなしで、ダイアログがないからこその恐怖を演出した傑作です。「虐殺器官」もがんばっていますが、「CURE」には及ばないと思います。伊藤計劃は当然「CURE」を観ていたが、書いてて似てるなーと思っただろうか。

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