「カメラを止めるな!」の感想。ネタバレありとネタバレなし。

あまりにおもしろいと評判だったので観に行ってきました。また、ネタバレ厳禁ということだったので、事前情報はほぼゼロで見た。「相当面白い」という評判しかしらなかったので、ちょっと期待しすぎてハードルがあがることも考えられ、その点がちょっと心配だったんだけど、見てみたら本当に面白かった。

ネタバレ厳禁というタイプの映画ではないと思いますが、初見で構成に驚かされる楽しみは確かにあると思います。「エンドロールが終わっても席を立たないで!」とかそういう煽り文句が気になる方は、ぜひ予備知識なしで見に行くのをおすすめします。

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ネタバレ無しの感想。

そういうことなのでとりあえずネタバレなしの感想を。でも予告編なんかでは、そのネタも含めてどういう映画か説明しているようなので、あまりネタバレにこだわる必要はないのかも知れませんがまずはネタバレ無しの感想を。

まあ、これがある意味ゾンビ映画であるということは見てすぐわかるので、それは言ってもいいでしょう。わたしはそれも知らずに観に行ったので、突然自主制作の低予算ゾンビものが始まったのでびっくりしました。出てくるキャストは全員無名、知らない人たちでした。

しかしゾンビだからホラーかというとそうではなく、実際にはコメディであり、ファミリードラマでもあります。これも言ってもいいとこでしょう。ゾンビ映画かと思いきや、実は老若男女が楽しめる。それがこの映画のいいところで、なんにも知らない人に是非オススメ!と観に行かせたのが「食人族」みたいな映画だったら非難轟々だろうけど、この映画はゾンビものでありながら万人におすすめできる楽しい映画になっています。

ゾンビものではあるものの、基本的にはコメディで、ファミリーものでもある。であるからして誰が見ても楽しく見られるんですが、もちろんゾンビファンはゾンビファンの視点で楽しむことができるし、さらに映画好きの人はより一層楽しめる作りになってるので、その点でも映画ファン必見といっていい面白さがあると思います。

パッと見は自主制作のしょっぱい映画にも見えるのですが、構成もすごくしっかりしています。序盤で疑問に思ったところ、ちょっと気になったところがほぼ伏線となっていてきちんと説明され、さらにそれ以上のネタを仕込んでくる。技術的にも構成的にもよく練って作られてるなぁと感心させられました。

で、なんどもいいますが小難しいところのない、老若男女が楽しめる映画になってるんです。ゾンビものでコメディで、しかも低予算自主制作風とかいうと一部のマニアとか好事家向けというイメージが湧くかも知れませんが違います。

「ゾンビ映画」に見えますが、「ゾンビ映画」ではない

例えばピーター・ジャクソンの「ブレイン・デッド」はまさにホラー/ゾンビものでコメディなんですが、笑えるけどあくまでもゾンビものに収まっていて、監督の情熱がニッチな方面に注がれています。

「ゾンビ・ランド」何かとも違う。あれもゾンビものでコメディだったけど、あくまでもゾンビ映画。

それに対して「カメラを止めるな!」の場合はピーター・ジャクソンよりもっとずっと一般向けに作られている映画で、たまたまゾンビ風味が入ったという感じ。ようするに、ゾンビ映画でありながらゾンビ映画ではなく、ファミリー向けコメディなんです。

ピーター・ジャクソンがすごいのはグログロの映画の中にも普通の人が見ても楽しめるような基本的な笑いの構成がしっかりできているところです。実際、「ブレイン・デッド」はおすすめだし、そのあたりが後のロード・オブ・ザ・リングの成功なんかにもつながってるんだと思いますが。

「カメラを止めるな!」は「ブレイン・デッド」と違い、ゾンビ映画というジャンルを踏み越えている映画であり、しっかり作られている点は一緒ですがより王道のエンターテイメントになっています。グロへの偏愛の代わりに、ハンディカメラの長回しという技術的な部分で映画へのこだわりも見せてくれるし。

「ブレイン・デッド」面白いよね、というと頭大丈夫ですか?というリアクションをされる可能性がありますが、「カメラを止めるな!」面白いよね、というとみんなに共感される。ゾンビがらみでここまで楽しさを共有できる映画はほかにないでしょう。

というわけで、ゾンビ好き嫌いに関係なく映画好きの人には間違いなくおすすめできます。さらに特に映画好きじゃなくても、家族とでも友達とでもとりあえず映画でも見ようか、というときにおすすめできるいい映画だと思いました。

あとはネタバレ有りの感想をちょっと書いて終わりにします。以下、ネタバレ注意。

ネタバレ有りの感想。

ネタバレすれば回りくどい言い方をしなくて済む。

ようするに、低予算ゾンビムービー撮影をネタにしたドタバタコメディなんです。主人公はテレビの再現ドラマ撮影なんかを主な仕事にしてる監督。モットーはたしか安い、早い、そこそこのクオリティ。で彼がケーブルテレビ開局記念としてゾンビ映画の撮影を依頼される。その映画作りにまつわるドタバタを描いたのが、この「カメラを止めるな!」という映画。

そしてネタバレ注意と言われてる最大のポイントは、映画内で撮影した劇中作「One Cut of the Dead」が本編冒頭で丸々放送されること。そしてこの映画が終わってから、それが完成するに至るまでのドタバタをコミカルに描いていくという構成になってます。

そういうわけでゾンビ映画も入っているコメディ映画になっています。

すごい長回し。

さらにもう一つネタバレ注意っぽいのが、この30分くらいの劇中劇が「ワン・カット・オブ・ザ・デッド」というタイトル通り完全ワンカットの一発撮りであるという点です。さらに劇中ではそれを生放送するという設定。劇中劇の見た目のクオリティは、主にカメラの性能や音響のせいでかなりチープに感じられるものの、この一発撮りという点だけで見る価値がある。何しろ30分の本編すべてがワンカット。それも低予算だし、そもそも生放送なので「デイ・アフター・トゥモロー」みたいな高度なCG編集はされてない、本当の一発勝負。

確かにチープだしところどころおかしいものの、この長回し、いったいいつまで続くんだろうという興味は最後まで持続した。監督がひょっとすると狙っていたのは、この長回しがすごい劇中劇「だけ」が本編と勘違いされたらうれしいな、という点かも知れない。そしてネタバレ注意とかエンドロール最後まで見てという感想があるということは、実際に初見でこれをみて、安っぽいけど長回しはすごかったな、とこの映画を自主制作のゾンビ映画と勘違いしかけた人がいた証拠かもしれません。

冒頭にいきなり劇中劇をもってくるという構造、下手をすると勘違いした人が途中退場しちゃったりする可能性もある。それを防ぐためには劇中劇になにか強いアピールが必要。それが、全編長回しという撮影手法だった。

ま、そこまで計算されていたかはわかりませんが、この生放送でワンカットという設定自体が映画を成り立たせている大事な要素になっています。

この劇中劇の撮影にまつわるドタバタコメディなわけですが、撮影前のキャスティングやらロケハンやらいろんな話も含めつつ、最終的なブツが生放送ワンカットということは、それにまつわるドタバタも生放送の同時進行で展開されていくわけです。つまり、冒頭で通しでみせた劇中劇が、後半にもう一度、今度は裏方の視点も含めていわば再上映される。

この作りがとてもうまい。そして撮影までのエピソードによって、最初にみた劇中劇の舞台裏で何が進行していたのか、いろんな場面で感じた違和感の正体は何だったのかが明かされます。これがとてもおもしろい。

そして、そこに詰め込まれているのが笑えるネタばかり。主演は交通事故で急遽出られなくなり、あるスタッフは水にあたって下痢、もうひとりのアル中は酒を飲んでしまいへべれけとむちゃくちゃな状態だけど、生放送である以上放送はストップできない。むちゃくちゃな状態で放送開始時間を迎え、当然引き起こされるドタバタ劇。

笑える要素もありつつ、なんとか撮影事故を防いで映画を成立させようとするスタッフの緊張感、想定外の出来事に引き起こされるトラブルの数々。

劇中劇をもう一度、別の視点で繰り返す点はどことなく映画のメイキングやNGシーンを見たりコメンタリーを聞くのに似ている。さらにこの映画ではほぼすべてのシーンにネタを仕込んでいて、笑える場面もあるしその構成がほんとに楽しい。映画館でも結構笑い声が聞こえていました。

ドラマ部分もいい感じ。

最後の生放送ワンカットのドタバタぶりが目立ちますが、その前のドラマ部分もしっかりしていて、くどくなく簡潔にそれぞれの人物が描かれている。とくに主人公である監督とかれの妻子は映画でも重要なキャラクターなんだけど、三人の関係、とくに活躍する娘は過不足なく描写されている。これがしっかりした背景になっているので、映画の最後でより感動できる。他のスタッフは基本、お笑い担当のサブっぽい立場だけど、みんなキャラが立ってるのではないでしょうか。

この映画、enbuゼミナールという映画学校と組んで制作しているみたいだけど、映画製作のお手本のように作り込まれた脚本だなぁと感じました。俳優の情念とか雰囲気とかオーラとか、セリフの間とか、そういう摩訶不思議なものに頼らずに登場人物の心情、やりとりもきちんと設定して面白い脚本を誠実に映像化する。そういう雰囲気が感じられました。わかりやすい話だから、というのもあるかもしれないけど、俳優の演技もよかったです。

出演者について。

出演者はほとんどみんな知らない人でした。アル中のおじさんは何かでみたことあったと思うけど、あとは本当に知らない。そして思ったのは、ジャニーズも有名アイドルも別にいらないね、ということでした。

この映画の役はステレオタイプ的なものが多く、やりやすいというのもあったかもしれないけど、みながそれぞれしっくりくる演技で非常に良かったと思う。とくに主人公の濱津隆之、娘役の真魚、ヒロイン役の秋山ゆずき、極度に神経質な山﨑俊太郎。あと、ケーブルテレビ会社の社長(だっけ)役の竹原芳子。間寛平的な顔してて関西弁で、この人のシーンだけよしもと感がすごい。

秋山ゆずきはアイドルっぽいけど、娘役の真魚とカメラマン助手役の浅森咲希奈は普通の人っぽさがあってキャスティングもいいと思いました。極端に痩せ過ぎてないのもいい。映画とかドラマに出ている人がみんな痩せてたり、ジャニーズとかAKBみたいなのばっかりだと、やっぱりおかしいですよね。

まとめ。

とてもおもしろい映画だったのでぜひ見て下さい。それにしても長回し。数分くらいのはちょくちょくあるけど、30分超、しかもこれだけ動くワンカットはほとんどないのでは。これどれくらい準備して撮ったんでしょうか。当然NGもあっただろうし…。ただ長いだけじゃなくて、最後、クレーンが壊れた状態で俯瞰映像を撮ろうとするシーン。あれもたまらなくいい。

というわけでいい映画でした。