映画「峠 最後のサムライ」の感想。

「ラスト サムライ」も「硫黄島からの手紙」もアメリカ人監督の映画で、どっちも武士の生き様を描いた良作だったと思う。またどちらも戦争が舞台となり、そういう極限状態でこそ人の本質が発揮されるという部分があった。

もちろん日本の映画にも、そういうのはたくさんあると思うんだけど、たまたまあたりが悪かったのかどうもだめなのが多かった。「ラストサムライ」とか「硫黄島からの手紙」に匹敵するようなのは少ない。

そこで満を持して司馬遼太郎原作の「峠 最後のサムライ」が登場。これはタイトルからして「ラスト サムライ」への日本なりの挑戦状なのでしょうか。見てみました。

河井継之助の生涯を通して、忠義を重んじるサムライの生き様を描いた作品。

司馬遼太郎はサムライの見本としては河井継之助が最適だと考えてこの「峠」を執筆したとありましたが、当時は高度経済成長の只中でエコノミックアニマルとか言われてた日本人が、お金だけじゃなくてなにか自分たちの本質、失われたアイデンティティを武士とかそういうのに見出そうとしていた時代だったのではないでしょうか。峠はベストセラーになって、大ヒットしたようです。

とりあえず史実とか事実とかは関係なく、映画としての感想。

で、映画の感想ですが、いかにも日本映画、いかにも史実に基づいた実話って感じでした。面白かったですが、ケレン味に欠ける。また映画的盛り上がりももう一つ足りない気がする。そういう点でラストサムライとは対極的な映画に思います。とはいえ、十分面白かったですけどね。あ、最後に歌が流れるのも日本映画ぽいですね。

最初と最後がナレーションていうのが物足りない。オープニングも、物語の端緒というかんじではなくて単なる状況説明に近く、エンディングも雄大な物語の締めくくりというよりは単なる状況説明に近い。ここはもう少し盛り上げてほしかった。

また冒頭も、まるっきりエンターテイメント要素を無視している。東出昌大演じる徳川慶喜が大政奉還の決意を臣下に語るシーンだが、引きの絵面で延々としゃべっているだけ。喋っている内容も映画的に脚色とかしないで文章をそのまま朗読しているような感じで、もちろん1800年代の言葉遣い、言い回しで。ここが頭の中で文章に変換できず冒頭から脱落してしまう観客もいるのではないかと心配になりました。

東出さんの演技も、このときの徳川慶喜の心持ちがこんな目を潤ませるような場面だったのかというのはとりあえず無視しても、セリフをちゃんと暗記して読み上げましたって感じでもうひとつ心に響かない。言い回しのクドさのせいもあるだろうけどね…。後の役所広司や仲代達矢の場面と比べると、まだ役柄が板についてない感じがする。

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出来はいい。

しかし全体的にセット、演技、撮影なんかは非常にいい感じで、時代に翻弄されながらも我を貫こうとする継之助の苦闘が十分描かれていたのではないでしょうか。

継之助は戦闘の最中に負った銃創がもとで破傷風になり、逃げた先の福島で死んでしまう。開戦から死まで、一度も妻には会っていない。しかし継之助が妻にプレゼントしたオルゴールを通じて二人の想いは通じ合っていることが描かれる。

このエピソードも、比較的おとなしめな描写でそんなにドラマチックにはなっていない。妻との関係も結構描かれているものの、まあ継之助の武士としての判断、戦を選んだ態度みたいなのが中心の映画なのでどうしてもサブ的な扱いになるんでしょうか。オルゴールは横浜の商人から無理やりぶんどったということですが、撮影に使われたのは実際にオルゴール博物館みたいなところの収蔵品だそうです。当時としては相当ハイカラな品物だったんでしょう。

こういうシーンもあるけど、河井継之助と藩主牧野忠恭との会話、継之助と意見を異にする藩の若手たちとのやりとりとか、そういう場面がよかった。役所広司と仲代達矢の師弟共演は1場面だけかな。

それから北越戦争の映画なので当たり前なんだけど、戦闘シーンも結構あって意外だった。そういえば継之助の初登場も軍事訓練のシーンだったか。

キャスト

行きつけの店の娘である芳根京子はちょいちょい登場して負傷した継之助にも会って目を潤ませたりして、存在感があります。

継之助のお父さん役は田中泯で、年老いた隠居老人ではありながら、有事と思えば帯刀して白刃踏むことも辞さぬ態度を見せたり、素振りを欠かさなかったり、一世代前の根っからのサムライらしさが出ていたように思いました。

継之助に付き従う家来の松蔵は永山絢斗で、セリフほとんどないんだけど存在感あったし、よく似合ってました。「重版出来」の下手だけど天性の素質があって人間づきあい出来ない漫画家、中田画伯の印象が強いのですが、今回はすごく素直な普通の若者役を好演していたと思います。

小千谷談判と言われる、継之助と新政府軍の岩村精一郎とのやり取り。緊迫感もあり映画の中でも重要な場面ですが、岩村精一郎を演じるのは吉岡秀隆。まだ24歳の岩村精一郎を当時50近い吉岡秀隆が演じるのですが、違和感なかったです。

あとガトリング砲とか。バンバン撃ちまくってバッタバッタと相手側をなぎ倒したであろう場面もありました。ガトリング砲の場面とか、戦闘場面は結構引きで撮られているところが多くて独特な雰囲気がありました。以外と戦闘シーンもあって爆発とか着弾多くて迫力ありました。アクション映画とは比べるべくもありませんが、そもそもあんまりそういうのない映画かと思っていたので。

まとめ

「ラスト サムライ」的ハリウッド的カタルシスを求めると肩透かしを食らうが、出来はよく十分面白かった。

ハリウッド的演出をするなら、藩の財政を3年ほどで立て直した継之助の能力をアピールして有能な人物っていう演出を取り入れて主人公アピールをして、贅沢品を売っぱらってガトリング砲を導入したりすることで大河の流れには抗えずどうしても戦争になるという将来を予見する能力もアピールして、いざ戦争になったらその能力を遺憾なく発揮して小藩が大軍相手に善戦するっていう「300」みたいな要素を取り入れて、最後は死んじゃったあとで新政府軍の偉い人に惜しい人物をなくしたみたいなセリフを言わせて、さらに継之助の遺志を継ぐものとして小林虎三郎をちら見せして続編「峠 第2章」につなげたりしますね。

ウィキペディアを見たら、継之助が登場する大河ドラマとか特番ドラマみたいなのがいくつかあるんですね。ちょっと見たくなりました。

なんというとりとめのない感想でしょう。まあ、忘れ去らないうちに見た印象を記しておきます。

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小説は長いです。
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