「It(イット)」映画版の感想。必見。原作ファンとしては傑作。ホラー映画としても優秀。青春映画としても優秀。

11月3日公開の「It(イット) それが見えたら、終わり」を見ました。

Itのパンフ。怖い。

Itのパンフ。怖い。

斎戒沐浴して身を清め十分な睡眠をとった上で見に行くはずだったのですが、前日にビール2リットル以上飲んで寝不足で1日働いた帰りに夕飯も食べずに見ることになってしまいました。

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原作好きでも楽しめる。変更点は多いものの、原作愛に満ちた幸せな映画化。

わたしはふだん原作付きの映画を見る場合でも原作と映画はまったく別物と考えて、原作のイメージに引きずられないようにしてます。よく、原作の”間違い探し”になってしまって、違うからダメという感想を持ってしまうことがあるけど、原作が好きすぎて、原作と違う点=欠点のように見てしまうとそうなる。

なので原作を知っていても無心で見るようにしています。あまりに期待しすぎるのもよくない。期待のなかには、こうあって欲しいという「予想」が必ず紛れ込むもので、過渡の期待が失望を生むことはままある。なるべく予備知識無しでみるようにしてます。

Itの原作の感想はこちら。

映画公開間近なのでややこしいですが、原作の「It(イット)」の感想。 この小説は相当好き。脈絡なく感想を記してみたいと思います。 追記:...

しかし、イットの場合は原作大好きでアメリカでは異例のヒットを記録してて評価も高いので、どうしても期待せざるを得ません。というわけで、多大な期待を持って座席につきました。

そして冒頭。インフルエンザでベッドからでられないビルが弟のジョージーに折り紙の船を作ってやる。水に浮かぶようにロウを塗って防水するため、ワックスの缶を取ってこいと弟にいいつけるビル。ワックスがあるのは地下室で、ジョージーは地下室が怖い。でも勇気を振り絞ってワックスを取ってくる。船は完成し、ジョージーは土砂降りのなか、折り紙の船をもって遊びに出かける…。

ここまでの原作にとても忠実な流れに感動しました。監督が本当に原作すきなんだなと実感しました。ジョージーが地下室に感じる恐怖。なにもないはずなのに、想像力が恐怖を掻き立てるところ。ジョージーを急かすビル。ワックス缶のラベルが「ガルフ(湾)」である点。船は女性名詞だから「彼女(she)」と呼ぶんだ、と教えるビル。ジョージーの黄色いレインコート。

船の材料が新聞紙じゃなくてスケッチ用紙だかスクラップブックだったり、違うところもありますがだいたい原作の通りの映像化。これがタイトルが出るまでの展開で、タイトル時点でもう完全に世界ができあがってる感じがします。最高です。

その後は変更点も非常にたくさんあり、端折られたエピソードもたっぷりありますが、長大な原作の半分が二時間強でしっかりまとめられていてかなり手際のいい脚本だと思いました。そもそも舞台となる時代が変わっているし、登場人物の設定にも変更があるので原作そのものではありませんが、原作に出てきた要素をなるべく入れていて(ジョージーの部屋にあるレゴの亀とか、ゲップ野郎とか、おならに火をつける…のは流石にカットされているけどその代わりにヘアスプレー?を火炎放射器代わりにしているアホとか)、ビルの乗ってる自転車もシルバーだし、製作側もきちんと原作を読んで作ってるなぁと感じました。

ホラー映画としても結構怖い。ペニーワイズは最高。その他の恐怖演出も冴えてる。

で、原作から離れている部分も含め、原作のファンムービーになっているわけではなく、ホラー映画単体としてみてもかなりいけてると思う。結構怖い。この映画の怖さは、心理的なぞわーっと来るものじゃなくてわかりやすいビビらせ系のものなんですが、その演出がなかなか冴えている。

冒頭のジョージーは、予告編でもあったと思いますがこのあと船を排水口に落としてしまい、排水口の奥に現れるペニーワイズと対面する場面になります。そしてこの後がすごい。ジョージーは本性を表したペニーワイズに右腕を食いちぎられる。そして右腕から血を吹き出し、泣きながら這って逃げようとするジョージーだが、容赦なく排水口に引きずりこまれてしまう。あとに残されたのは大きな血溜まり…。

ジョージーが右腕を食いちぎられるシーンの容赦なさが驚きです。たしか、ここまで残酷にしなくてもいいんじゃ?というレビューもあったようです。たしかに非道いですが、これから恐ろしい物語が始まるんだぞ、というホラーのオープニングシークエンスとしてはよくできている。

それからやはり、ペニーワイズ役のビル・スカルスガルド。こいつは最高。ジョージーとの対話のシーンから、実際はこいつがピエロではなくて、ピエロのふりをしている化物だというのがよく分かる。話しながらも目が逝っちゃってて、話ながらよだれがだらだら垂れる様子に虫みたいな、対話の通じない気色悪い捕食者っぽさがよく出ていて、なんというか映画の「エイリアン」的な不気味さを醸し出してる。ジョージーに噛み付くときに見せるこいつの本性の、何重にも折り重なったギザギザの歯をもつデザインも気色悪くて最高。

両目の向きが違う、というのをCGなしに実際にやったと読んで、ほんとかよと思っていたのですが、本当でした。そんなに極端に違う方向を向いてるわけではないですが、知性のないいきもの的雰囲気が出ていてよかった。片目だけ内側に寄せるのはできても、片目だけ外側に向けるっていうのは難しいな。

恐怖映画的側面としては基本的には主人公たち負け犬クラブの面々が順番にイットに遭遇し、恐ろしい目に遭う、という場面が連続するのですが、いまどきのホラー映画をわきまえている演出でかなりハッタリを効かせて攻めてくるので結構びっくりします。黒人の少年マイクが垣間見る家事で焼け死んだ家族の救いを求める手から始まって、事あるごとに主人公たちを怪異が襲います。どの場面も、ホラー映画として見ても満足行く怖さになっているのではないでしょうか。怖いシーンは割と雑に、というかそれほど脈絡なくポンポン出てくるのですが、いきなり人が死んだりとかそういうのではなく、雰囲気的にこれから怖い場面になるよ、と教えてくれる演出なので、見ている方もくるぞ、くるぞ…と楽しめます。

それに、イットに限らず出て来る化物の造形がいちいち良く出来てる。スタンが恐れている不気味な女の肖像画とか、絵の時点で怖い絵になってるんだけど、それが実体化したときの姿もさらに不気味。エディが恐れている病気、怪我を一身に集めたような病気の塊の様な男も、アップで攻めてくるとなかなかきしょくわるいものがあります。

ただ、ハッタリだけのホラーというわけではない。ビルにとっては最愛の弟ジョージーが消えたことが最悪の出来事で、恐怖はジョージーの姿を借りて現れる。それは怖さというより悲しいものだし、ベヴァリーは、直接的な描写はないけど父親から性的虐待を受けているらしいことがわかり、洗面器から噴出する夥しい量の血は、ベヴァリーが女性性を恐れていることを象徴しているように思えて、こちらもただ怖いというより、父と二人きりで暮らしている(映画では母親の姿は一度も出てこないので)ベヴァリーの逃げ場のない息詰まるようなつらさが感じられる。

で、こうした恐怖が描かれる一方、負け犬クラブの面々が過ごす夏休みの一時も描かれる。こちらの描写も満足いく出来栄えになっていたと思います。夏休みの始まりから物語が始まるのはとてもワクワクしていいですね。ツタウルシへの言及もあるし。

青春映画としてもいい。

相当端折られてはいると思いますが、映画では主に負け犬クラブへのベヴァリーの参加を軸に青春映画的側面が展開して、うまく機能していたのではないかと思います。湖に飛び込む順番を巡って口論してる面々のもとにいきなり下着姿(水着?)で登場し、「臆病者」とかいって真っ先に飛び込むベヴァリー。最高です。その後、仰向けに横たわって日光浴をするベヴに少年たちの目は釘付け。

ベヴァリー演じるのはソフィア・リリスで、実年齢では他の連中より年上で、演技もいいと思う。原作よりちょっとボーイッシュなキャラ設定にぴったり。親父に問い詰められてるときの無表情と、みんなと遊んでるときの笑顔のギャップがかわいい。

それから、ベヴに対するベンとビルの感情、とくにベンの気持ちが描かれていたのもよかった。ベンは転校生という設定になってて、そのせいもあり友達が一人もいない。デブだし、一人で図書館にこもってるようなタイプ。そんなベンに声をかけてくれたベヴにベンは一瞬で恋に落ちる。原作では同じクラスのベヴに最初から恋してたんだけど、映画の設定もいい。で、図書館にこもっている男にふさわしく、ベヴに匿名で詩を贈る。俳句、なんだけど5・7・5というより17音節の文字で作られた詩、という理解の仕方で、赤毛のベヴに

「きみの髪は冬の火、一月のおき火。ぼくの心もいっしょに燃える。」

(your hair is winter fire, January embers. My heart burns there, too.)

※翻訳は小尾芙佐

という素敵な詩を捧げる。7・5・5の音節なのかな。

原作では頭のなかで自分の苗字と女の子の名前をくっつけて勝手に赤面するほど入れ込んでるベンですが、肝心のベヴの視線の先にあるのはビルの姿。ベン…。

三角関係とか言うほど大げさなものじゃないのですが、後々のロマンスにもつながりうるこういう大事な要素はきっちり押さえて映画化されています。ベンの、でもデブだし、仕方ないや、といった雰囲気とかもいいです。

全体的に満足の行く出来栄えになっている。

あとは脇役ですが不良のヘンリーもなかなかイメージどおりでよかった。ただの不良というより、ちょっとタガの外れたところのある一線超えてそうなアブないやつ。映画では、お父さんが警察官という設定に変更されていて、ちょっと駆け足ではあるものの、警官の息子が不良というやっかいな関係をイットに付け込まれて、とんでもないことになってしまう。

展開としてはすごい王道パターンで、子供たちはそれぞれ、イットという化物の存在に気づき、親との軋轢といった自分自身の問題を乗り越えて成長し、やがて結束してイットと対峙する、という流れになっています。ペニーワイズもたくさん登場しますが、それでも原作ほどイットの存在感はありません。原作ではイットがデリーという街中に遍在しているような雰囲気を醸し出しています。

そんなこんなで最後は下水道でイットと対決することになるのですが、その前フリとしてベヴァリーがイットにさらわれ、みんなで救いに行くということになります。

物語の転がり方としてはいいんですが、ちょっと引っかかるかもしれない。原作よりも男っぽい性格になってるベヴに、さらわれて救助されるヒロイン役をあてがうのはちょっと役不足というか。しかし、映画的にはこれでいいですね。原作だと午前中はふつうにみんなで遊んでて、それからなんとなく、行ってみっか、みたいなノリでしたから。

原作は濃い目の背景描写、心理描写で行動の隙間をびっちり埋めていくんだけど、映画は行動だけで全てがつながるように分かりやすく組み立て直してます。

最終的な感想。

最終的に、出来上がった映像を通してみての感想は、最高の一言。あと2時間くらい伸ばしてもう少し浸っていたい。これは原作ファンの贔屓目ですが、それを抜きにしてもまあいい出来。ホラー映画として見に行くのもいいし、スタンド・バイ・ミー要素を期待して見に行くのもいいし。「ストレンジャー・シングス」を見た人は、元ネタがどんなものか見に行くのもいいし。(主人公の一人が共通という点もありますが、雰囲気といいよく似てます)

チュードの儀式について。すみません、勘違いしてました。

それと、最後にひとつ、チュードの儀式について、先に書いた感想文で間違って覚えていたのを訂正します。すみませんでした。チュードの儀式はなんというか、イットとの対決そのもので、原作だとイットとの戦い自体が時空を超えた精神のやり取りになっています。それがチュード、らしい。わたしはすっかり、あのシーンがチュードの儀式だと勘違いしていました。

わたしが勘違いしていたあのシーンは映画には出てきません。監督の言うとおり、負け犬クラブの結束という意味ではその後の血の儀式の場面で十分。物語の締めくくりにふさわしい団結シーンだと思います。

欠点

欠点は、とくにないんですが、強いて言えばイットと対決する際のアイテム、ブルズアイというパチンコ(スリングショット)がなくなってる。象徴的な武器っぽかったので。あと、最後の下水道のシーンはだいぶ短くなってる。でも、映画にしたら真っ暗な下水道を延々と迷い歩くだけだから、カットされても仕方ないか。それから、ビルが自転車にのるときはハイヨーシルバーと叫んでほしかった。

それと些細なことですが、字幕で「負け犬」「ルーザー」が混在してたので、負け犬に統一してもいいんじゃないかと思った。

あとは、タイトル。「”それ”が見えたら、終わり」って、ちょっと別のタイプのホラーを想像させる気がする。ホラー映画風のコピーでいいとは思うけど、あくまでもキャッチコピーにしておけばよかった。タイトルに入ってるのはすごく違和感がある。

あとはやっぱり、最初から続編も込みで作っとけばよかったのに、ということか。予告編再生回数1億回、とか言ってた辺りでヒットを見越して続編決定しとけばよかった。監督の頭にはすでに大人版キャストを誰にするかの構想はあったようだし。子役は成長早いから、早く撮らないと印象変わっちゃう。そしてエンドロールの後に、「27年後」のテロップを入れておとなになった誰かのシーンでも入れておけば、さらなるヒットが見込めたことでしょう。

当初はエンドロール後にジェシカ・チャステイン演じる大人になったベヴァリーがちらっと映る、という噂もあったようですが、ジェシカ・チャステインがほんとうにべヴァリーを演じるのか、まだ噂の段階で決定したという情報はありません。

欠点というか気になった程度の点で、たいしたことじゃない。物語上の重要な問題はとくになかったように思う。あとは続編がいかに発展してくれるか。

まあ、ないものねだりはこれくらいにしてあらためてみての感想、キャストと続編の話に続きます。長いのであとで。