映画「私家版」の感想。ダンディなおじさんが完全犯罪を遂行する、冷酷な復讐譚。原作よりもいいです。

初老の編集者が、かつて自分の恋人を辱め自殺に追いやった小説家を破滅させるために復讐の計画をねり、淡々と実行していくサスペンス。

原作はフランス小説で、そっちも賞をとったりして評価は悪くないんだけど映画のほうが断然できが良い。原作では主人公の弱気な心理とか、対する小説家への屈折した心理とかが書き込まれてるんだけど、映画ではそういうのがない。

そして、ないから主人公がひたすらかっこいい。主人公のエドワードを演じるのはテレンス・スタンプ。常に冷静沈着、何もかも見通しているような態度で復讐計画を進めていく様子がいい。

復讐される小説家は、たまたま傑作をものして注目を集めているけれど元来品性下劣な小物って感じで、かれに無慈悲な鉄槌を下すべくあれこれ画策するテレンス・スタンプの様子を楽しむ映画です。

テレンス・スタンプといえば「コレクター」のちょっと変態な青年といい、「テオレマ」のよくわからない不気味な青年といい、イケメンというよりは渋みのあるなかに少し異常性が見え隠れするレクター博士っぽい役が似合いそうな俳優だと思うんだけど、私家版のエドワードは彼にピッタリの役だと思います。

渋いダンディなおじさんが、激昂したり暴力を振るったりすることなく、着実に罠を仕掛けて恋人の敵を破滅させていく。この、あせったりピンチに陥ったりすることがほぼないところ、それがいい。

後半で主人公が接触する古本屋だったかの店主が主人公は明らかに主人公の計略に気づいてるんだけど、気づいたからといってどうするわけでもなく、ごく当たり前に主人公に協力する。主人公もその人が自分を裏切らないと完全にわかっている。そのへんの雰囲気がいい。

そして主人公は自分の行為が単なる復讐であり、後ろ向きなものであると完全に理解していて、わかったうえでなんの躊躇いも罪悪感もなく目的を遂行する。

そんな雰囲気。

昔一度みただけなので、またみたいと常々思っている映画です。

 

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