「ボーダーライン」感想。麻薬絡みの犯罪捜査もの。ベニチオ・デル・トロ無双であり、ドゥニ・ヴィルヌーヴのいいところがよく分かる。

「ボーダーライン」というインパクトのないありがちな邦題でずいぶん損してる気がする。他の似たようなタイトルの映画に紛れてしまって、せっかくのドゥニ・ヴィルヌーヴ映画が目立たなくなってしまうのはもったいない。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による犯罪アクションスリラー。

ネタとしては、麻薬カルテルの殲滅を目論むCIAの暗躍を描いた映画。権力側の腐敗、法律を無視した不法な捜査といった要素も含めてわりとよく見る種類の映画だと思います。全体の雰囲気としては「ゼロ・ダーク・サーティ」によく似ている。

主人公はエミリー・ブラント。キレイ系の女優さんだと思いますが、凛々しい顔つきからアクション映画にも似合います。アクションとしては「オール・ユー・ニード・イズ・キル」につづいての本作となりますが、一番有名なのは「プラダを着た悪魔」かな。

主人公は誘拐犯罪対策班で活躍するFBI捜査官ケイト。冒頭の、FBIチームが誘拐犯の拠点を襲撃するシーンからしてなかなか迫力のある作りになっています。そこで建物の壁の内側に隠されたたくさんの遺体を発見し、麻薬組織の手による犯罪であることが判明します。

で、その活躍から、彼女は国防総省率いる対麻薬カルテル組織への参加を要請され、相棒のレジーと一緒に参加することを決めます。

ちなみにレジー役はダニエル・カルーヤ。彼は「ゲット・アウト」で一気にブレイクしました。日本ではあまりヒットしていないのが残念。傑作だと思うので機会があったら見てみてください。役作りか、「ゲット・アウト」のときよりもずいぶんがっしりした体つきになっています。

主人公ほったらかしで進行する対麻薬カルテル作戦。

ケイトが参加する対麻薬カルテルチームですが、これを率いるのがジョシュ・ブローリン演じるマット。かれはパッと見はだらしないフザけた感じで、でも作戦行動に秀でた優秀な工作員という感じで、これもわりとよく見るタイプのキャラ設定になっています。そして、チームの目的、行動内容などがなかなか明かされず、ケイトとリジーは徐々に苛立ちをつのらせていきます。

ケイトは主人公ではあるんですが、この映画ではほぼ傍観者役になっています。いくつかの作戦現場でもとにかく足手まといになるなよ、という感じの扱いで、本人も全容が明かされないまま引きずり回されます。銀行への捜査で目的とする麻薬組織幹部への不正送金の証拠が見つかりそうでも、マットは無意味だから捜査するなと言われ、法律を無視した捜査が行われていることを上司に訴えても、これは私よりずっと偉い人たちが決めた作戦だから、超法規的措置だから気にすんなって言われてしまいます。

そんなこんなでフラストレーションが溜まっていくケイト(&リジー)ですが、ふてくされる二人をよそにチームはどんどんと作戦を進めていきます。

ケイトの存在は、映画的には敵も味方も法を逸脱した中でまっとうなモノの立ち位置、視線を提供することにあるわけですが、じゃ作戦チーム側としてはなんでわざわざケイトを呼んだのか?その理由は後ほど明らかになります。

ケイトが傍観者だとすると、リード役は一体誰か。それは、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロ。

本作の見所はベニチオ・デル・トロ。

ベニチオ・デル・トロは相変わらずの風貌と目つきで怪しさのある役でしたが、比較的若い頃のちょっとやばすぎる目つきが穏やかになって、この映画では対麻薬組織チームに参加している謎の専門家、という肩書がしっくり来るおじさんになっていました。

実際は、麻薬王に家族を殺された恨みを晴らすためなら手段は問わない元検察官なんですけどね。元検察官ってこんなことできるの?って言いたくなるくらい、最後はベニチオ・デル・トロの独壇場だった印象です。このへんは彼が主演していた「ハンテッド」を思い出します。これはコソボ紛争で狂った兵士ベニチオ・デル・トロと彼を兵士に仕立てたトミー・リー・ジョーンズが戦うという、ランボーvsランボーみたいな映画でした。ボロクソに言われててすごく評判が悪いのですが、わたしは大好きです。

ケイトが呼ばれた意味や、チーム内でのこのベニチオさんの立場も含めて、対麻薬組織活動のあり方、ひいては合法チームが非合法組織と戦う限界みたいな部分について考えさせてくれるようにはなっているのですが、それ以上にアクションシーンや演出のテンポ、さらにはベニチオの暴れぶりががいいので難しいことは忘れて緊迫アクション映画として楽しんでしまいます。

ラスト、ベニチオとケイトが対峙するシーンも、法律的にはケイトが正しくベニチオが悪いっていうのはわかりきっているんですが、「いいからその紙にサインしなよケイト」と思ってしまう自分がいる。このへんは、家族を殺された復讐の鬼というベニチオのキャラがちょっと有利すぎるのではないか。

映像は美しく、物語のじゃまにならず、バランスがいい。

それから、映像が素晴らしい箇所がいくつもある。

冒頭の作戦シーンで、丘の上から俯瞰で建物を移している画面に、右から特殊部隊の隊員がフレームインしてくるところ。こういう構図が好きなんだろうか。「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2 」の冒頭もそういう場面だった憶えがある。なんとも言えず映画の躍動感を感じます。

その後も、飛行機の影を映しながら徐々にメキシコの込み入った町の様子を遠景で見せてくれる箇所とか、映されているものの意味だけでなく、純粋に美しさに見惚れるような場面が続きます。そこだけ明らかに風景美主体で挿入してるよね?と思わざるを得ない場面なんですが、それでいて場面に押し付けがましさがないのがドゥニ・ヴィルヌーヴの特徴のような気もします。

それからシウダー・フアレスに大物収監者を引き取りに行くところ、5台くらいの黒のシボレーが連なって市内を疾走するシーンが結構長く続きますね。あそこも、「アウトレイジ」みたいに車に存在感があって、車道の段差ではねたりする何台もの車が有機的に動いているのを見ているだけで快感な場面だと思います。

麻薬王の住む邸宅も夜の庭園という感じできれいに映されていました。

結果として、ドゥニ・ヴィルヌーヴらしさあふれる佳作にしあがってます。

物語自体は特別ユニークであったり斬新なものではないんだけど、手堅くまとまった緊密な演出で見せてくれ、そこに美しい映像と緊迫感を高める音楽が重なる。どれをとってもずば抜けてインパクトがあるわけじゃないけど、どれも水準の高い要素が積み重なった結果全体として優れた出来の映画になっている。

演出自体もけっこう地味なんだよね。普通、ハリウッドで麻薬犯罪アクションとなったらもっとド派手でドギツい演出をしそうなものだけど、この人の場合題材に対して大人しめな感じがする。それが「ゼロ・ダーク・サーティ」っぽさにつながっている気がする。

地味だからいいってわけじゃないけど、この映画は全体に演出の配慮が行き届いて、統一感がある。そのへんも見ていて「作りが良い」っていう印象につながっていると思う。

「ボーダーライン」はそんな印象の映画でした。同じ監督の「ブレードランナー2049」も、演出作法という点ではよく似た雰囲気を感じられる映画だと思います。

  • ボーダーライン
  • (Sicario)
  • 監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 2016年
  • 上映時間 121分