天才・楳図かずおの最新作「Mother マザー」の感想。

日本が世界に誇る天才楳図かずお。長いこと休筆中の天才がついに新作を発表。それがなんと、映画。自身初となる映画監督で、自伝的要素を含む映画を発表したのでした。

原作者自ら監督というと、スティーブン・キングの「地獄のデビルトラック」が思い浮かびます。これはとてつもない映画で、ウィキペディアのこの項目を読むといかにすごいかがよくわかります。キングはラズベリー賞にノミネートされ、主演したエミリオ・エステベスもラズベリー賞にノミネートされました。

しかし、楳図かずおの天才性はキングとは一線を画しており、映画監督でいったらむしろルチオ・フルチとかダリオ・アルジェントに近いのではないか、と思えます。

ルチオ・フルチの映画はどう考えても意味不明で、下手すると駄作と思われかねない、紙一重のところで芸術作品足らしめているのが彼の天然の才能なのではと思います。それに比べるとダリオ・アルジェントの傑作「インフェルノ」なんかはお話の脈絡の無さを意図的に狙ったという話もあり、「サスペリア パート2」のディレクターズカット版の冒頭なんかをみても感じられるようにアルジェントは観客を驚かせるためにがんばって演出している、というフシがあります。その辺から考えると、イタリアでドラマを演出していたころから手堅い作りで良品を産んでいたダリオは、天然の天才ではなく努力の人なんじゃないかと思ってしまいます。

じゃあ楳図かずおはどうか。漫画だけを見れば天才だというのは誰の目にも明らかですが、それも天然の天才なのではないかという気配が濃厚ですが、キングの例もあるし映画もうまくいくとは限りません。果たして漫画の天才が監督した映画はどんな出来だったのか、とても気になったのでhuluだったかNetflixだったか忘れましたが見てみました。

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楳図かずお「マザー」のあらすじ。

まず、主演は片岡愛之助。楳図かずおによると「誰でも良かった」ということですが、「半沢直樹」で話題になった彼が主演してくれたことは映画の興行のためにはとても良かったのではないかと思います。そういうことでもなければ、一般のお客さんはまず見ないだろうから。

映画の内容は楳図かずおというより彼のお母さんの話で、亡くなった母のイチエが何故か親類縁者を次々殺して回り、楳図が編集者と一緒にそれを止めるというあらすじで、なぜ母が人を襲うのか、そもそもよくわからないし(葬式で笑っていたから?生前よくしなかったから?)、母が最後に蛇女みたいな姿になるのもとくに脈絡はないし、楳図かずおが母を鎮められたのも、なんでなのかよくわからないし、意味不明という点ではかなりのレベルです。

さらに予算も相当なかったみたいで、建物が揺れたり亀裂が入ったりするのはCGでやってるのですが結構ちゃちい作りで、人物のメイクも同様、粗が見える出来栄えになってしまっています。

予算はともかく、謎のストーリー進行はやはり漫画の天才楳図かずおも映画には太刀打ちできないことを露呈したのか…と思いきや、実はそのプロットには、楳図かずおのただものではないサービス精神が満ち溢れているのでした。

低予算かつ不思議なストーリー進行だけど、随所に監督の努力が。

たとえばお母さんがなぜか返信する蛇女にしても、編集者の名前のさくらにしても、ファンならわかる楳図作品への目配せになっていますが、それはファンサービスとしては当然。そうではなく、わけの分からないお話しながらも、とりあえずこんな場面を入れよう、次はこんなシーンを入れよう、流行りのファウンド・フッテージっぽい場面も入れよう、唐突だけど恋愛シーンもいれて「愛してる」って言わせようと、とにかく観客を楽しませようとする心意気。そこに、楳図かずお監督の一途な姿が思い浮かばれるのです。

また天才性を垣間見せてくれるシーンもあります。映画のタイトルの出方からしておかしく、赤と白のシマシマの床を、同じしましまスリッパを履いた足が歩いて行く。そこでぐちゃっと嫌な音がして、スリッパが持ち上がるとその裏に潰れた蜘蛛の姿。そこで「Mother」というタイトルが出るんですが、これが漫画風に描いた書き文字で、どくどくと脈打っている。そしてその文字から血しぶきが出て画面全体にかかり、ダラダラと血のりが垂れる演出。さらにもう一度血しぶき。こんどは違う色の血しぶきが。このすごく趣味の悪い、洗練と程遠いタイトルバックが、なんかちょっと普通と違う雰囲気を感じさせてくれます。そのほかにも楳図かずおの自宅シーンで、なくなった両親の遺影の代わりに白と赤のお皿を飾っているというのもすでに常人の理解を逸しているのですが、母親の遺影代わりの赤いお皿が突然割れた後、明らかにCGとわかる紫色の煙がたなびく場面の何ともいいがたい雰囲気。お母さんを撃退するのに、お母さんは蜘蛛と、楳図かずおの描く少女の叫んでいる顔が嫌いだからということで大量の蜘蛛の折り紙と大量の叫んでいる少女の絵のコピーをもっていく、その発想も、実際のシーンもおかしい。

物語の根本的な部分で言うと、これは重度のマザコン物語で、母親の死をきっかけにマザコンを断ち切ろうとしたのに結局失敗しているという話のようにも見えるんだけど、映画の中では母子の関係の異常性には一切触れず、そんなことをおくびにも出していないのも面白いですね。

あとお手伝いさんがごく当たり前にいる家っていうのも不思議な感じがしたんだけど、お手伝いさんがかずお先生の部屋を勝手に漁って隠してあるものをこっそり見ようとしたり、お手伝いさんってこんな不遜な感じなの?なんか実生活で監督に嫌なことでもあったんでしょうか。

予算さえ潤沢に使えれば、ダリオ・アルジェントを軽く超える作品になっていたのは間違いありません。せめて10億くらいあれば…。文化庁か文部科学省が1億か2億出してあげればよかったのに。

主人公の舞羽美海はよく頑張っていたと思う。

演技は頑張っていたと思いますよ。とくに、編集者、若草さくらを演じた舞羽美海。セリフの発音がしっかりしていていい。ナレーション部分もたくさんあるけど、すごく聞き取りやすい。さすが元宝塚って感じ?ちょっと根暗っぽい楳図ファンという設定だけど、美人ですよね。「超高速参勤交代」では弱小藩の姫様を演じてました。

この映画のさくらはかずお作品の中でも「おろち」の大ファンで、彼女がおろちの決めポーズを真似する場面をみると勇気が湧いて来るような気がします。最後、楳図先生の新作の登場人物にこの編集者の名前をつけたというオチがついて、それって「洗礼」の主人公ですよね。時代的には合わないけど、なかなかいい結末だと思いました。

あと中川翔子も数分くらい友情出演していて、ばけものと化したお母さんに取り憑かれる役をうーうー唸って演じていました。