ゾンビ映画を世に広めたことで名高いジョージ・アンドリュー・ロメロ監督が、2017年7月16日に肺ガンのため77歳でお亡くなりになりました。
近年、もはやひとつのジャンルとして確立したと言っていいくらい、たくさんのゾンビ映画が作られていますが、その大元を作った偉い人がこのロメロ監督です。
アルジェント監督との協同製作の「ゾンビ」(“Dawn of the Dead”)が世界的にヒットし、ゾンビというものがもてはやされるようになりました。その後、さまざまな派生作品や勝手に「ゾンビ3」とか言うタイトルをつけたゾンビ映画がたくさんつくられ、徐々にゾンビという存在が、狼男や吸血鬼といったモンスターの定型として世間に認知されるようになりました。
そして2000年代にはいり、ダニー・ボイル監督の「28日後」、大ヒットゲームを映画化した「バイオハザード」がスマッシュヒット。そして2004年、オリジナルのロメロの「ゾンビ」のリメイク、「ドーン・オブ・ザ・デッド」が公開されるとこれがB級とは思えない大ヒット。そこから、第2のゾンビブームがおきて今に至っているという印象を受けます。
このゾンビ映画ブームの元祖を作り上げたのがロメロ監督ですから、それはそれは偉大な監督なのですが、ゾンビ意外のロメロ作品ってあまりみられていないのでは、と思います。
この人、地元カナダはトロントを拠点にしていたインディペンデンス系監督なので、有名な割にはでかいスタジオともあまり縁がなく、わりと低予算の映画ばっかりの印象なんです。
「ゾンビ」がヒットしたおかげでゾンビ監督として知られるようになったのですが、実際にはゾンビ以外にもいくつか映画を撮っています。
ここではウィキペディアのフィルモグラフィーをもとにロメロ映画をざっと紹介したいと思います。未見のものもたくさんありますが、機会があれば見てみたい。
- ナイト・オブ・ザ・リビングデッド "Night of the Living Dead" 1968年
- There's Always Vanilla (1971年)
- Season of the Witch(1972年)
- ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖 "The Crazies" (1973年)
- マーティン "Martin" (1978年)
- ゾンビ "Dawn of the Dead"(1978年)
- ナイトライダーズ ”Knightriders” (1981年)
- クリープショー ”Creepshow” (1982年)
- 死霊のえじき ”Day of the Dead” (1985年)
- モンキー・シャイン ”Monkey Shines” (1988年)
- ダーク・ハーフ "Dark Half" (1993年)
- URAMI 〜怨み〜 "Bruiser" (2000年)
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド “Night of the Living Dead” 1968年
白塗りの死体がうーうーうめきながらゆっくり動いて人肉をくらう、いまのゾンビ映画の元祖。白黒映画。お墓参りに来た主人公兄妹が生ける屍に襲われる。近くの民家に逃げ込み、何人かの人たちと事態の打開を図る、というお話。
「ゾンビ」と基本的な構図は一緒ですが、まだ国家レベルの非常事態にはなっていなくて、よくわからないうちにゾンビに取り囲まれてしまいます。
白黒で古くさいですが普通に面白い。なお、この作品は著作権を放棄したということになっていて、ネットで前編無料でみられるし、ダウンロードできます。
1999年に、冒頭と最後に新たに追加撮影したシーンを付け加えた「最終版」と銘打ったバージョンが作られています。しかし追加映像だけ違和感があって浮いてるし、内容も蛇足でしかないので、みなくてもいいと思います。ロメロも関わってないようだし。
それから1990年にトム・サヴィーニ監督による「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記」というリメイクが作られています。これは、原作を今風にブラッシュアップした出来で、テンポも良く、特撮も進化していて、もちろんカラーで、思いの外面白い。オリジナルが白黒で古くさくて耐えられないという人は、かわりにこれを見てもいいかなという気がします。
There’s Always Vanilla (1971年)
未見。ロメロ唯一のラブコメだそうです。またロメロによると自身の最低作だそうです。
Season of the Witch(1972年)
未見。夫と娘のいる主婦が、実は魔女だった、みたいな話らしい。予算を減らされてクオリティが低かったり、演技が下手だったり、つまらないらしい。紆余曲折があって、最初はソフトポルノとして公開されそうだったとか。
ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖 “The Crazies” (1973年)
とある田舎町に、接触したものを発狂させる政府の生物兵器が流出。事態を収めにくる軍と住民の抵抗を描く。
これはけっこう面白い映画で、いわば住民側がゾンビ化してしまうわけです。狩られる側の恐怖とかいきなりおかしくなる恐怖みたいなのが伝わってきます。生きたまま問答無用で焼き殺されるのは恐いです。そのあいまに組織間の人間関係の対立も描いていて、なんとなくキングの「スタンド」の序盤を思わせます。
ただしあまりヒットしなかったようで、ソフトも出ているのか不明、見かけません。カルト作的な位置づけ。
なお、2010年にリメイク「クレイジーズ」が作られました。まあまあ面白い映画だったような気がするが、忘れた。
マーティン “Martin” (1978年)
異色の吸血鬼もの。ピッツバーグの若者が実は吸血鬼だった、というお話。若者の後見人役のおじいさんはカトリックで、吸血鬼なんて毛嫌いしていて、ニンニクとか十字架で退治しようとするが、そんなものは効かない。
コメディではなく、悲しい青春の物語といった感じ。吸血鬼の悲哀、理解されない若者の鬱屈が、勘違いの悲劇をうむ、切ない物語。「処女の生血」が格調高いバカ映画なのに対し、こっちは舞台が現代なのに正統派吸血鬼映画のテイスト。低予算の顔を青白くぬって牙をつけたマーティンの特撮がしょぼいとか思わなければ、わりと良くできてる。
この作品はロメロのお気に入りだそうです。なおトム・サヴィーニが特撮を担当していて、出演もしてる。ただ、血糊とかはでてくるけどとくにスプラッターとかではなく、あまり特撮は印象に残らない。これも低予算で、撮影は全部地元、脇役はだいたい知り合いとかスタッフの家族とかだそうです。
ゾンビ “Dawn of the Dead”(1978年)
いよいよゾンビが登場です。前作ナイト・オブ・ザ・リビングデッドでは、化け物はLiving Dead と呼ばれていました。本作でついにゾンビと呼ばれるようになりました。
リメイクもヒットしたし、有名ですね。ショッピングモールに立てこもって優雅な生活を謳歌する、そこに暴走族集団が乱入して一瞬で平和は崩壊。見事ですね。
この作品は内容のよさだけでなく、いろいろなバージョンがあることでさらにカルト人気が高まっているように思えます。
主に2バージョンですね。ひとつは、協同制作のダリオ・アルジェント監修版。音楽も乗りが良く、アクションシーン中心でテンポのいい映画です。短いし、手軽にゾンビを見返したいときはこっち。
ディレクターズ・カット版は20分ほど長く、ショッピングモールに行くまでのよく分からん一行の足取りとか、いろいろ追加されていて、音楽も地味で、ほんのりドキュメンタリー風味になっています。一番印象的なのはラスト、スタッフロールのときに流れているショッピングモールの音楽でしょうか・・・。
その他のマイナーなテレビ放映版などいろいろバージョンがあるようですが、無理してみるほどのものではないと思います。昔、WOWOWで放送されたときには、内臓がびろびろでてくるシーンでは画面がほぼ真っ暗になっていました。
こういうバージョン違いを見比べたりするのもマニアには楽しいものでしょう。わたしはそこまでしなくてもいいですが、ただ、唯一みてみたいのは、ラフカット版と呼ばれている3時間あるバージョン。本当にあるのであれば、一度見てみたい。
ナイトライダーズ ”Knightriders” (1981年)
これは前から見たいんだけど、未見。中世の馬上槍試合を出し物にする、バイクで巡業を続ける見せ物一座のはなし。大筋はアーサー王の伝説をモチーフにしているようで、最終的には一座の「王」(リーダーのことね)が派閥争いに敗れ、一座を去り、トラックにひかれて死ぬらしい。あらすじだけみると「マーティン」みたいな後味なのかな、と思っています。
「ゾンビ」にも出てきた、集団でバイクにまたがって各地を放浪するバイカー集団。「ナイトライダーズ」に出てくるのはヒッピー集団に近いもので、革ジャン着たバイク野郎の集団とはちょっと違うとは思います。アメリカのモーターサイクルクラブは日本の暴走族とは全く違う文化で、興味があります。キングの「ドクター・スリープ」でも、ヴァンパイアたちが隠れ蓑にしているのがそういう集団でした。
この映画の主人公はエド・ハリスで、かれと対立するメンバーがトム・サヴィーニです。それからスティーブン・キングと妻のタビサ・キングも、夫婦役で出演しているそうです。
上映時間は145分と長めで、ヨーロッパでは102分の短縮版が公開されているようです。日本では122分という表記も見るのですが、これはなにかの間違いか?
スティングレイからDVDが出てるんだけど、どうせならブルーレイ画質でみたいので、待っています。
クリープショー ”Creepshow” (1982年)
短編5つからなるオムニバス映画。アメコミを意識したたわいないお話で、脚本はスティーブン・キング。そのうちの1つは間抜けな農夫が主人公で、キング自身が間抜けな農夫の役をノリノリで演じています。
この映画もエド・ハリス、トム・サヴィーニが出ている。
1980年代感がひしひしと感じられて、たいしたことないんだけど好きな映画です。映画の構成からして、恐いというより、怖がらせようという雰囲気、ノリみたいなものが感じられる独特な雰囲気がある。
内容はろくに覚えていませんが、最後の話はゴキブリ嫌いにとっては悪夢。あの話だけはよく覚えています。
結構評判が良かったようで、続編も作られています。
死霊のえじき ”Day of the Dead” (1985年)
ついに「ゾンビ」の続編が誕生しました。個人的にはおすすめできる秀逸なゾンビ映画だと思います。
予算不足かなにかの理由で、大幅に脚本が変更になったようで、舞台は狭い地下施設に限定されていて、密室劇的な雰囲気があります。
内容は予算不足だから悪くなっているわけではなく、人間同士の緊張感のあるやりとり、ゾンビの脅威のバランス良く、テンポよく楽しめます。当然、最終的に地下にゾンビがなだれ込んでくるのですが、そのきっかけとか、狭いだけあって絶望感なんかもよく出ていて、ゾンビものとしてはいいと思うんですけどね。
たしかに、あの話題を呼んだ「ゾンビ」の続編、ととらえると、少し物足りない感じはしますね。もっと大規模な、ゾンビvs人類、みたいなものを期待したり、あるいはゾンビという現象について解決策が提示されるとか、根本的な自体の進展を期待したりしたくなりますから。
その辺は「ボブ」という知性のあるゾンビが登場したりして、少し前進していますが、結局はゾンビ映画の枠内に収まる映画でした。熱烈なファンは期待値が高すぎたのか、賛否両論があるのも納得できます。
「ゾンビ」がただの白塗りの手抜きメイクに思えるくらいゾンビのメイクがリアルになっています。グロシーンもすごいのですが、日本で見られるのは止め絵になったり、ちょっとした規制が入ったものだけでした。今はDVDかなにかで完全版が見られるようです。
同じタイトルのリメイクが作られていますが、内容はかなり違う。
モンキー・シャイン ”Monkey Shines” (1988年)
パッケージとかポスターの、シンバルを叩く猿のおもちゃがインパクト強い。が、未見。
ロメロ初のスタジオ製作らしいです。破産寸前のオライオン社の意向でシナリオに介入があったり、そもそも長すぎたりして大幅なカットが必要になったり、これも製作時にいろいろなトラブルがあったようです。
あらすじだけ読むと単なる動物ホラーのようですが、主人公は首から下が麻痺した学生で、動物実験とかいろんな要素があって単なるホラーでもないようです。それが、散漫なプロットとして批判されてもいるようですが。
評価は、腐れトマトで丁度50%。
ダーク・ハーフ “Dark Half” (1993年)
スティーブン・キングの原作を、わりと忠実に映画化。
主人公は純文学作家で、こっそりペンネームで大衆小説を書いていてそっちではベストセラー作家になっている。でも嫌気がさしていた主人公は、ある日ペンネームと決別し、もう俗な本は書かないと決める。
もちろん、スティーブン・キング自身のリチャード・バックマンというペンネームにまつわる実体験をヒントに書かれた本です。キングはキング名義でもバックマン名義でもどっちも売れてたと思いますが。
捨てたはずのペンネーム、ジョージ・スタークが実体をもって主人公を勝手に殺すなーと脅してくる超自然ホラーですが、幽霊とかではなく実体のある存在、しかも極悪人なので、人を殺しまくって危険です。主人公はその殺人の犯人に疑われて、二重のピンチに陥ります。
主人公はティモシー・ハットン。一人二役なんですが、全然キャラが違うので最初気がつかなかった。
つまらなくはないんですが、決定的に面白いものではない。どうも、あの世の死者となるスズメ、とかの超自然的な要素と、スタークの人間らしい脅威がどっちつかずになっている感じ。「激突」「ケープ・フィアー」みたいに、あえてスタークが復活した理由とか描かずにひたすらサスペンスで押しても面白かった気がする。
ラストのスズメのCGは、CG発展の過渡期とはいえちょっと見劣りします。
URAMI 〜怨み〜 “Bruiser” (2000年)
恨み。すごいタイトルになってしまいました。
出版社の雑誌編集者をしている冴えない男が、本当の力を解放するという変な白い仮面をつけて悪さをする映画。
しかし、ホラーでもなく、サスペンスでもなく、不思議な雰囲気の映画になっています。