まず結論から言うと、この本は買い。必読。
原著は2014年に出ている。2019年には英訳版がでているのだが、こちらは訳者による注釈やたくさんのスナップ写真が追加されている。そしてこの日本語版には、英訳版にある注釈やスナップ写真がそのまま収録されている素晴らしい仕様となっている。
舞台裏を知ることで映画の評価が変化するわけではないが、好きな映画をより深く知ることができるこういう本を読むのはほんとうに楽しい。映画の1カット1カットのうらにちゃんと意図があり、計画があり、スタッフがいて、映画の完成という壮大な計画のために撮影が行われているという当たり前の事実。漫然と映画を見ていると忘れがちになるそんな事実を思い出させてくれる。
また映画のことだけではなく、自伝だから当然ダリオ・アルジェント自身の思いがたくさん語られる。若い頃の話もたくさんあり、これを読むとダリオもエキセントリックながらもいろいろと悩み苦悩していたんだなあということが偲ばれる。いろんな経験を積んできたからか、80歳を過ぎて映画の主演に抜擢されるような味わいのある人になっていったのかな。容貌も若い頃はホラーっぽかったのが今はいいおじいちゃんみたいだ。
じつはまだぜんぶ読んでないんだけど、序文を終えて最初の数ページを読んだだけでこれは必読の書だと確信できましたのでおすすめします。スティーブン・キングも登場するし。
数カ所に挿入されているスナップ写真もカラーで舞台裏を知ることができるとても貴重なもので、便量もけっこうある。
監督のファン、映画のファンはもちろん、一つの映画が作られる裏にあるスタッフの思いや葛藤をしるいわゆる舞台裏のドキュメンタリーとして一般の映画好きが読んでもとても興味深く読める本だと思う。
最後に、amazonのレビューで「むらさめ」さんが訳者の翻訳方針を批判している。この批判は至極真っ当なもので、憤りもよく理解できる。しかしこれは主に邦題や人名という固有名詞の訳語についてのもので、特にそれ以外の誤訳などを指摘しているものではないので、それだけで本書をおすすめしない理由にはならない。音楽担当のゴブリンが軽んじられているように感じるというのもファンからしたら心外かもしれないが、イタリア文化研究という観点から見て影響が少ないという評価は、イタリア映画を研究していた著者たちからすると妥当なものなのだろう、残念だが。