「世界城」の感想。面白いです。世界観がいい。この舞台のいろんな話が読みたくなる。

世界城。相変わらず、舞台設定が面白い。

「天獄と地国」みたいな科学的に緻密に計算された環境ではないんだけど、舞台を取り巻く政治情勢とか、この世界がどのように成り立ったのかはそれなりに考えられているみたい。

なので、なおさらこの小説の「第一部」完っぽさが惜しまれ、続きが読みたくなる。

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舞台設定がおもしろい。

物語は、一つの世界を形成しているお城が舞台。何階層も連なる巨大なお城の中にいくつもの村があって、村はお城のテラス(これも相当ひろい)に畑を作って、そこの作物を主な食料にして生計を立てている。

それぞれの村はほぼ孤立していて交流はないが、「商人」を介して物々交換による原始的経済が成り立っている。

そんな世界のとある村。そこに身ごもった少女がやってくる。かわった身なりをした少女は村人に自分は国王の娘で、城の外にでなければならない、という。そもそも村人には国という概念がほとんどないし、そこに住む人にとっては城=世界なので、城の外に出るという発想が理解できない。村のおばさんはこの哀れな娘に宿を提供しようと申し出る…。

で、その娘の子供、ジュチが主人公の物語が始まるわけです。

プロローグの時点で、この不思議な世界が紹介され、かつてはある程度の文明があったらしいことが明かされるんですが、その後もこの小説の三分の一くらいは城が一つの世界になっているという不思議な舞台についての、そこで何があってこれからどうなるのか、というような興味で読まされました。

世界城というこの舞台は、その背景にありそうなものも含めてかなり魅力的に感じます。ひょっとすると、というか結構な確率で、「海を見る人」の舞台の」ようにSF的に成り立っている世界なのではないかなと思います。ただ、そういった舞台設定については、本の中ではほとんど語られません。

物語としては、主人公の少年ジュチとその相棒の冒険譚が語られます。とある事情があって、ジュチが相棒のダグと一緒に隣の村に出かけるという話なんだけど、隣村といっても過去長いこと交流がない。さらに、隣村がこちらにくるはずの資源をせき止めているのではないか、という疑惑のもとに出かけるので、たんなる遠足とは違ってけっこう危険。そして、村について待ち受けていたのは思っていたよりもっと危険で切迫した事態だったのでした。

もちろんこの冒険譚も面白い。ジュチがちょっと頭良すぎないか?という気はするものの、やや間抜けなダグとの相性もいいし、テンポよく展開する物語は楽しく読める。

敵側もなかなか。ボス役がちょっと残酷すぎないか?という気はするものの、やや間抜けなとぼけた会話もいいし、単なる記号ではなくて敵もまた人間だということがよくわかる。

で最後までよんで思うのは、ところどころで言及される世界の過去、国、国王といった大きなスケールの話と、メインのプロットであるジュチの冒険がちょっとバランスとれてないという感じ。

どちらもとてもおもしろんだけど、ただ言及されただけ、という要素がとても多い。ジュチの母親である少女はどうなったのか、本当に王様の娘なのか、とか、父親はどうなの?とか、「商会」の存在についてとか、貨幣経済はいまでも成り立っているのかとか、別の遠くの村はどんな様子なのか、とか。

完結してるけど、大きな話のプロローグみたい。

ようするに、これは漫画でいうと第1巻くらいの内容だと思うんです。ここから、ジュチの出自の秘密とか世界の成り立ちとか世界を再編しようとする不穏な勢力とか、いろんな話が展開する、その下準備みたいな。

もちろん結末は、冒険はまだまだ続くよという文章で締めくくられているわけですが、著者が本当に続きを構想してそう書いたのか、あるいは「そういう大きな物語の一部を切り取った体のお話」として、あえて世界を想像させる要素をふんだんに取り入れたお話を書いたのかはわかりません。

個人的にはこのお話の続編があるのならぜひ読みたいと思いますが、連載されているわけでもないし、過去の作品を見てもわりと投げっぱなしに感じられるものもあるので、まあどうなるのかはわかりません。ただ、短編なんかでひょっこりこの小説の登場人物がでてきたりすることはありそう。

まとめ

というわけで非常におもしろいファンタジー小説でした。そういえば雰囲気としては、お城が舞台だったり、少年が人気のないお城を探索するという点で、「ICO」というゲームを連想しました。それに若干宮崎駿のアニメが混ざったような感じ。

続編が出たら買います。

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