ピーター・ストラウブ “lost boy lost girl”のあらすじと感想

母親の自殺、息子の失踪、過去の連続殺人鬼、現在の連続殺人鬼、呪われた家、幽霊。といったキーワードをみるとホラー小説っぽいけれど、読んだ感じはホラーっぽくない。

ネタバレしています。

主人公は作家のティム・アンダーヒル。義理の妹であるナンシー・アンダーヒルがはっきりした理由もなく自殺して、その一週間くらい後、ナンシーの息子のマークが失踪する。ティムはマークの行方をさがすため故郷のミルヘブンに戻り、そこでマークがある空家に執着していたこと、そして少年をねらった連続誘拐犯が野放しになっていることを知る・・・というところから始まります。時間は前後に飛んで、失踪前のマークの行動とマークを探す主人公の行動が交互に描かれます。なお主人公はマークの行動を後から追いかけるだけで、特に何もしません。出来事をだいたい時系列にまとめると以下のようになります。

少年の失踪事件が多発するミルヘブン。友人のジンボとスケボーで遊んでいたマークは、偶然目にした空家に強く魅了される。

その空家には、かつて連続殺人鬼ジョセフ・カレンダーが住んでいた。ジョセフ・カレンダーはかつて女性を何人も殺害し、挙げ句の果てに息子と妻も殺したという狂人。カレンダーには実はリリーという娘がいたが、カレンダーは流産したことにして娘を自宅に隠し、拷問していた。

ナンシーの元にリリーの幽霊が現われる。カレンダーとナンシーは実は従兄弟同士だった。ナンシーはかつて、救いを求めるカレンダーの妻を拒絶していた。

ナンシーが自殺する。

母の死後、マークはますます空家に取り憑かれたようになり、そこに少女が住んでいると確信する。少女の幽霊が。やがてマークはルーシーというその少女のために、ある決断をしなければならないと友人のジンボに打ち明ける。ルーシーと一緒に空家に入り浸り、めくるめくセックスをしたというマークを、ジンボは責める気になれない。マークはかつてないほど幸福に見えたから。そして、マークは失踪する。

ティムはトム・パスモアと空家を調査し、ちょっとしたきっかけで連続誘拐犯の居場所を突き止め、逮捕に導く。誘拐犯はカレンダーの信奉者で、空家を買い取っていた。空家で誘拐した少年を拷問し、殺害していたのだった。フィリップも警察も、マークは連続誘拐犯に殺されていると考えている。しかしティムは、そうではないと確信している。なぜなら失踪後のマークからメールが届いているし、また現実に、ティムはスターバックスにいるマークとルーシーを目撃したのだから。

警察が空家の庭から、少年たちの遺体を掘り起こす。

自殺、幽霊、連続殺人鬼、呪われた家、といったキーワードがいかにもホラーですが、読んだ感じはホラー臭はしません。主人公が聞き込みをして回る箇所は微かに探偵物っぽさを感じさせますが、犯人捜しは稀代の天才探偵トム・パスモアのおかげで・・・というよりすごいコンピューターのおかげで一瞬で片が付き、犯人とのからみもあっけなく終わります。じゃあ、なんなのかというと、そこはかとないもの悲しさと、すがすがしさが感じられる。

感想文を探していて見つけたこれが、この本を一言で要約していると思います。

“Lost Boy Lost Girl” is a ghost story but its also a story about surviving unspeakable loss.

Nancy Underhill commits suicide for no apparent reason. A week later, her son -- fifteen-year-old Mark -- vanishes. The boy's uncle, nove...

ここのSaraという人の感想にある一文です。そう、こう考えると、この本が物悲しい雰囲気をもっていること、ラストシーンの雰囲気もなんとなく分かるような気がします。マークは母を失い、マークの親友ジンボは、友達との間に距離ができるのを感じ、ティムは愛する甥を失い、マークの父フィリップは家庭を失う。そしてマークがどこかにいると信じるティムのもとに、失踪後のマークからメールが届く・・・。

ホラー小説としては、ストラウブによくある、場そのもの、あるいは邪悪な人物そのものから発散される悪というものが描写されます。具体的には空家の中をマークが探るシーンでは、空家の穢れた雰囲気がよく出ていたと思いました。隠し扉とか隠し通路とか、地下室とか、なんとなく初代のバイオハザードを想像していたのですが、雰囲気はむしろ初代のサイレントヒルのような、辺りに血痕とか汚れがこびりついていそうな薄汚れた雰囲気のほうが近いかもしれない。あと殺人鬼のおっさんも、けっこうな禍々しさが描写されていたと思います。具体的な残酷描写とかスプラッタな表現はありません。

ティム・アンダーヒルは「ココ」にも登場し、「スロート」で主人公になった人。さらに、「ミステリー」「スロート」の主人公トム・パスモアも登場する。これだけでファンなら読んでみようと思うだろう。ちなみにストラウブの小説では同じ登場人物でも作品によって設定が変わったりするので、いわゆるシリーズ物とは違い、各作品間にはもやっとした捉え所のない関連性しかない。また小説自体が登場人物の創作したものである、といった趣向にもなっていて、さらに現実とフィクション、というか小説内世界を構成する境界線がぼやけていくのもストラウブの特徴。

文章はストラウブらしく地の文とティムの日誌とで構成されていて、ティムの日誌も割と頻繁にでてきて、それも日記というより小説のような書かれ方をしているので、油断しているとつい境目を見落としてしまいます。さらに、日誌ではないのに語り手がティムになる箇所もあり、これはどういうことなのか・・・というと、つまり、この本自体がティムの手になる(事実に基づいた)小説である、という可能性を示唆しているようです。ちなみにこの本の続編といってよいin the dark roomでは、lost boy lost girlはティムの書いた小説だと明言されています。もっとも、それはin the dark room ではそういう設定になっている、ということで、lost boy lost girlの時点では分からないことです。

読み終わったあと、疑問点がたくさんあります。そして気に入らない点もいくつかあります。しかし疲れたので、それはまたあとで考えてみたい。

ストラウブの文章は独特なスタイルがある、というのは何となく分かるのですが、それがどういうものでどう違うのか、わたしの読解力ではわかりません。唐突に挿入される昔の歌の歌詞、これはフローティング・ドラゴンでもありましたが、それにどういう効果があり、どんな感覚で読めばいいのか。私には一生分からない気がします。プロットをなんとか理解するのが精一杯。そういう読書に意味があるのか・・・意味があるのかは分かりませんが、この本が読みたかったのは事実で、読んで満足したのも事実。それ以外に理由付けは必要ありません。

ストラウブの翻訳は創元推理文庫の「ヘルファイア・クラブ」で途絶えてしまったようなので、あとは英語で読むしかない・・・

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