「人造救世主」シリーズの感想。小林泰三の中では最低に近い評価の、対象年齢低めの読みやすいアクション小説。

「人造救世主」シリーズ。小林泰三の作品としてはもっとも評価の低いものの一つです。なぜそんなに評判が悪いのだろう。

これは「人造救世主」「人造救世主 ギニー・ピッグス」「人造救世主 アドルフ・クローン」の3冊からなるシリーズだけど、実質的には全部まとめて1つの話になっている。一応半年くらい間を置いて出版されたみたいだけど、分量的にも、お話の広がり的にも、まとめて読んでもいい。

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少年漫画みたいな読み味。特殊能力を持った敵とたたかう、正義の主人公。

お話としては、少年漫画のアクションものみたいな感じで、特殊能力を持った悪の組織と、それに対抗する主人公の戦いを描いたもの。ノリは軽く、ヒロイン役で脳天気な女子大生が登場していっそう漫画っぽさを醸し出す。

特殊能力の設定がちょっとおもしろく、敵はみんな悪の秘密組織で子供の頃から特殊な訓練・教育を受けて育った「実験体」なんだが、かれらは遺伝子捜査で歴史上の偉人のDNAを組み込まれているという特徴がある。そして、そのDNAに応じた特殊能力を発揮して主人公と戦う。

敵の目的はなんだったかな、なんか最終的にはヒトラーを復活させて再び偉大な総督による世界の統治を実現することだったかな。で、主人公も実はその組織で育っていて、子供の頃に組織から逃げ出したという立場。

主人公の他にも、その組織に対抗する別の組織なんかも出てくるけどちょっと影が薄い。

で、このシリーズはとてもテンポが良くて読みやすく、ノリもけっこう軽めで、内容もバトル場面主体でなかなかおもしろい。肝心の戦闘場面も、敵の特殊能力の意外性とか、それへの対処とか、まあ退屈することなく楽しめると思う。ボケ担当的なヒロインの存在も、読みやすさを助けている。

それからこの本のもう一つの柱は主人公の青臭い正義感にあって、主人公は自分の出自のせいもあって、英雄ということにこだわりがある。人助けとかの英雄的行為を行うことで、自分に刻まれた汚名をすすぎたいというこだわりを持っている。この辺もまた、ストレートな少年漫画みたいで、想定している読者層がかなり若いんだろうなーと思わせる。

といって手を抜いているような印象はなくて、ちょっと物足りない箇所もあるけれど、だいたい理詰めで進行する戦闘シーンなんかはまあ面白いし、ヒロインの友人、ジーンに1巻の時点でちょっと違和感を抱かせるような書き方とか、ツボはおさえている。

つまらなくはない。ただ、小林泰三ファンの求めているものではない感じ。

全体として、想定されている読者層に対して誠実に書かれていると感じた。

じゃなんでこんなにも評価が低いのかというと、小林泰三の持ち味を最大に活かすには、対象年齢が低すぎたからなのではないでしょうか。

ようするに、小林泰三ファンの求めているものは、もっと濃くて、グロくて、ひねくれたものなんでしょう。この三部作のように、正義感の強い主人公が脳天気なヒロインと協力して悪の組織と戦うというお話は、むしろ多くのファンの嗜好と正反対の位置にあるものだった。

ややグロい箇所なんかもありますが、他の作品と比べるとたしかにその濃度は低い。こればっかりは、どういう層をターゲットにするか、出版社からの要請なんかもあるだろうから仕方ないですね。著者だってそんなこと重々承知でこれを書いているに違いない。

組織の能力者との対決を楽しむ連作という見方をすれば、そんなにつまらなくないと思いますけどね。

表紙に描かれているのが誰なのかわからない。

ただ、最高に面白いとはいえない。欠点もいろいろある。

第一に、戦闘の中にはあっけなさすぎるものもある。最強かと思われた葵という敵、彼女の敗因なんて単なる偶然にすぎないし。

それから、これは遺伝子組換えをされた敵の能力者、その能力と、組み込まれた偉人のDNAがいまいち噛み合ってないというか、関連がない。これは裏になにか設定があるような気もするけど、そういうことが分かる前に物語は完結してしまった。物語全体の展開も、大風呂敷が広がりきるまえに畳んでしまったような印象で、いろいろネタが残っている。

最初からそういう構想だったのか、それとも打ち切りになってしまったのかわからないけど、結末まで少年漫画のように、「俺たちの戦いはこれからだ」という打ち切りエンド。売れていれば、ずっとシリーズ化する可能性もあったのかな。

戦闘の最中のちょっと間の抜けた会話したり、つねに語尾に「!!」がつく赤鬼丸とか、最後に登場する14番とか、なかなかいいキャラもいるんだけどね。全体的に、ちょっと薄味で心に響く部分が足りないというか。小林泰三的な箇所としては、組織内部での容赦ない実験体の育成場面とかがあるけど、こういうところに重点を置いてもっとダークな物語にしたら、かえって評価は高まったかもしれない。

あと、それぞれの巻の表紙の女の子がだれなのかわからない。出て来る人たち、こんな服装してたっけ?

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