「ティンカー・ベル殺し」の感想。ピーター・パンの原作読んだ人比較的少ないかも。

小林泰三のおとぎ話ミステリシリーズもいつのまにか第4弾。今回はピーター・パンがテーマです。

例によって、ディズニーとか映画とかのアレンジされたピーター・パンではなくオリジナルの小説が元ネタになっているのでちょっと知らないこともあるかと思います。もちろん、原作の予備知識がなくても楽しめるのは変わりません。巻末に必要十分な原作の紹介もついているし。

まあピーター・パンの原作って読んだことないのでどういうものか知らないのですが。もともとは戯曲で、好評を博した戯曲をもとに書かれた小説が「ケンジントン公園のピーター・パン」、「ピーター・パンとウェンディ」ということです。

原作には、迷子たち=生まれてすぐ死んだ子どもたち、母の愛を求めながらも得られないピーターといったちょっと暗いモチーフが隠されているようで、永遠の少年というのも結構意味深いところがありそうです。そのへんが未だに受けている理由かもしれない。

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ピーターパン=殺人鬼という設定の妙。

で、今回の第4作では、ピーター・パンが無邪気な殺人鬼という設定なんですが。これ、じつは原作とそんなに乖離してない設定なのかもしれません。ピーター・パン=ちょっと間抜けで無邪気な殺人鬼、ネヴァーランド=住民たちが日夜殺戮を繰り広げる血なまぐさい世界、という設定。一見とんでもない話に思えますが、ピーターが海賊たちと殺し合いを続けていて迷子の少年たちも大人になるというルール違反を犯す前に「間引かれる」などという記述があり、あながちでたらめな設定とも言えません。

まあ、そのへんの誇張の具合はかなりのものがあります。ほんとうに何も考えずにとりあえず相手を殺そうとするピーターは無邪気としかいえない。さらに天性の勘だか才能で極めて優れた戦闘能力を発揮する様子をみると、無邪気かつ生まれながらの殺人鬼のようです。

そこで発生するティンカー・ベルの殺害事件。誰がどう見てもピーター・パンが犯人と思われるのですが、ウェンディの提案で犯人探しをすることになり、どうにかピーター・パンを探偵役に煽てあげます。ついでに、おとぎの国から出張ってきたとかげのビルがワトソン役ということに。

むちゃくちゃな殺人×雪山の旅館。

現実世界では、主人公の井森は山奥の旅館で開かれる大学の同窓会に出席するところ。舞台は山奥の旅館、季節は冬。当然お約束のように吹雪になり、旅館は孤立し、携帯も電話も繋がらなくなる。そこで、ネヴァーランドでのピーターの虐殺に呼応するように死体の山が築かれていくことになります。

ピーターのアヴァタールを殺してもピーターが死ぬわけではないし、なんとかしてネヴァーランドでのピーターの暴走を止めなければならない。大多数の人がアヴァタールであることを隠し、自分はというと頼りにならないとかげのビルのアヴァタール。そんな不利な状況下で井森は事件の解決に向けて動き出します。

といっても今回はそれほど活躍してる感じはしないですね。あ、今までもそうかな。それほど主役っていう活躍をしてる印象はないかも。

叙述トリックと錯誤によるひっかけについては、さすがに4作目ともなるとちょっとだいぶ勝手がわかってくる気はする。むしろそれはお約束として徐々に構築されていく世界観を楽しむという、そんな楽しみ方がでてきてるかなーという感じ。そういう点では今作はちょいと物足りないかもしれない。

ネヴァーランドでのピーターのあっけらかんとした殺戮っぷりが怖い。その分、現実世界でも死人がでるっていうことだからね。ピーターが無双してる場面でも、ホラーっぽいゾっとする後味の叙述になっているところがいくつかあった。

ネヴァーランドでのむちゃくちゃな出来事につられて現実世界の旅館でもだんだん現実感がなくなってくるのが面白い。もともと、このシリーズの「現実世界」ってそんなにリアリティがないというか、よく考えたら小林泰三の小説ってどこまでリアルな世界に立脚してるのかわからないのが多いんだよなーとか、そんなことを考えさせられました。途中、くまさんが出てきたりして。そのくまさんも最後にきっちり出番が用意してありました。

まとめ

ラストの先生の境遇とか、いろいろ面白いんだけど細部のやりとりはちょいと物足りない点があるかなーと、そんな感じでした。まあ面白かったけどね。

最初は単発のアリスネタで、その後、他作の登場人物も絡んできたりしてミステリ的な楽しみ以外の魅力が増してると思います。ミステリとしても面白んだけど、そっちの世界観を広げていくのも楽しいかな―と思いました。個人的な意見ですが。

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