「ネフィリム 超吸血幻想譚」の感想。人間vs吸血鬼vsもっと強い敵。

小林泰三の吸血鬼もの。

ジャンルとしては同じ作者の「人造救世主」三部作に近いアクションもの。吸血鬼ものであるのですが、耽美なタイプではなく、印象的には強いて言えば映画の「ブレイド」みたいなタイプかな。全体的に暗めな色調のなかで、わりかし派手なアクションが連発する感じです。どっちかというと伝奇小説というジャンルだと思う。

ただ、吸血鬼まわりの設定の細かさを読んで一番最初に連想したのは「ブラインドサイト」「エコープラクシア」でした。あの連作中では、吸血鬼とはかつて実際に存在しその後絶滅した生物であるという設定で、十字架恐怖とかの説明についても結構しっかりした設定がされていました。「ネフィリム」でも吸血鬼の生態的特徴について独自の設定がされていて、SFよりは完全にフィクションの範疇ながらもわりとしっかりした説明がされているように思いました。

アクション小説としてはまあ普通に面白いです。登場人物の強さの序列がかなりはっきりしているので、明らかに格の違う相手同士の戦闘がどのように解決されるのかが面白いとこです。

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登場人物の強さの序列

主人公の一人は生身の人間であるランドルフ。ただし人間としてはかなり頑強で、かつ対吸血鬼専用の特殊組織「コンソーシアム」に所属していて、それ相応の装備を身に着けているため吸血鬼と戦って勝つこともある、というレベル。

普通の吸血鬼がどれくらいの強さかというと、生身の人間が束になってかかっても数秒で皆殺しにできるくらいの強さ。ランドルフが所属する特殊部隊でも、複数で同時に攻撃してなんとか対処できる、というくらい。油断したら簡単にやられます。

その吸血鬼の中でもはっきりした力の違いがあり、ちょっと強い吸血鬼は、下っ端吸血鬼を一撃で殺せるくらい強い。この力の違いは努力とか鍛錬とかそういうものではなく、そもそも生き物としての種類が違う感じ。

で吸血鬼たちの頂点に立つのがもうひとりの主人公、ヨブです。最強の吸血鬼。特殊部隊が束になってかかってもまったく歯が立たない強さです。しかしヨブは人間の少女ミカに諭されて吸血鬼としての能力を封印し、長いこと血も吸わずに生活しているため極端に能力が落ちているという設定です。

そして、ヨブよりもさらに強力なのが、ストーカーと呼ばれる謎の存在、Jです。かれは大昔から吸血鬼と敵対してきた種族?の一人で、ヨブを倒すことを目標に接近してきます。こいつは悪役という設定。

このようにはっきりした力関係なのですが、じゃあJが勝つのかと言ったらそうじゃないですよね。ヨブ、ランドルフ、Jの三者がそれぞれの思惑で動き回り、交錯するあたりも読みどころで、結構面白いと思います。ランドルフは人間にしては強すぎると思います。

ランドルフの所属する特殊部隊の兵器の数々。マッドサイエンティストのドクターも含めてなかなかおもしろい。強化外骨格ならぬ「内骨格」というユニークな装備が面白いし、それぞれの武器に見せ場がありますね。なおランドルフは後半で装甲車に乗って敵のアジトに乗り込みますが、見張りをしていた一番雑魚の吸血鬼にあっけなく装甲車は破壊されてしまいます。そのへんの攻撃力の過剰なバランスがなかなかおもしろいと思いました。

そこから、装甲車をおしゃかにされながらも連戦を戦い抜くあたりも、人によっては物足りないと思うかもしれませんがいい具合に力が抜けていて、全体のボリュームを考えるとバランス的にちょうどいい塩梅だと思いました。

不明な点

不明というか、全体的に物語の背景がまったく説明されていません。それはそれでいいのですが、もうちょっと説明がほしいところもあります。

一番は、少女ミカ。なんでヨブがこの人間にだけ心を開いたのか。二人の邂逅の場面はあるのですが、それだけじゃなくてミカにはなにか特殊な力がありそう。さらにミカのおそらく双子の姉妹ルーシー。ルーシーは確実になにか特殊な力があるみたいなんですが、そもそも小説中に登場しない。

それからJの存在もよくわからない。ミカのことも前から知ってたみたいなんだけど。ヨブとも過去に一戦交えているんだけど。そのへんのエピソードは一切紹介されません。

ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」とか聖書とかから固有名詞を引っ張ってきてますが、特に原典との整合があるわけじゃないようです。後半でストーカー、吸血鬼の立場について説明があるんですが、Jっていうのは、エホバのことで、ヨブは聖書のヨブだとすると話が合わないし、そういうことではないみたい。冒頭の創世記第六章からとったエピグラムをもとに発想を膨らませたということなんでしょうね。

舞台も謎。ラストのセリフから、舞台は日本以外のどっかであることがわかる。まあ、登場人物もほとんどカタカナ名だし。古城があったりするのと吸血鬼ものってことから、アメリカではなくヨーロッパだろうと推測されます。イギリスかもしれない。

グロシーン

ランドルフのエピソードはこの本の中では一番エグい。妻をヴァンパイアにされ、さらに幼い娘を失うのですがその様子がいろいろと酷い。ランドルフは一時的に記憶喪失になり入院しますが、それも当然です。やがてすべてを思い出したかれは、怒りを力に変え対吸血鬼部隊の長として超人的な活躍を見せます。一番主人公らしいやつ。

あとはコンソーシアム内での惨劇。吸血鬼に噛まれた人間ミナが、なんとか吸血鬼にならないよう抵抗する。同僚のドロシーはその姿をみて、ひょっとすると吸血鬼になりながらも理性を保てるのでは、と淡い期待を寄せる。そっから、血の惨劇が繰り広げられます。

ほかに単発の戦闘もあり、内骨格の恐ろしい威力もあり、ストーカーvs吸血鬼の戦いもあり。あっさり終わるものもそれなりに長引くものもありますが、楽しめます。

悪魔のはらわた

アンディ・ウォーホルが関わった吸血鬼ものの映画は「処女の生血」なんだけど、この小説はむしろ「悪魔のはらわた」を思い出させる。ストーカーが吸血鬼を取り込み、吸収する場面。セックスを思わせる卑猥な雰囲気で合体が行われるんだけど、それが「悪魔のはらわた」のフィストファック場面を連想させる。なお、両者が似てるのはその場面だけ。

まとめ

人によって評価はかなり割れるようですが、いいんじゃないでしょうか。説明されなさすぎという人もいますが、それも別にいいのでは。ただルーシーが何者なのか、なぜミカが追われていたのかだけは知りたい。

神話が幕を開ける、みたいな宣伝文句が大げさだなぁと思っていたら、意外と神話っぽい雰囲気もあってあながちうそじゃないようでした。最後は火の鳥も羽ばたきます。あとグロい場面もあり、アクション満載ですが、読後感はさわやかでハッピーエンド(たぶん)です。

いろいろと癖がありますが、そこがいい。