「11/22/63」の感想。スティーブン・キングのタイムトラベル物、ホラーではなく感動作。

久しぶりにスティーブン・キングにはまったきっかけ。久しぶりに読んだキングの”11/22/63”がおもしろかった。

昔、スティーブン・キング大好きだった。初期のものとリチャード・バックマン名義のものを結構読んだ。その後、あんまり読まなくなった。途中で「セル」とかいう小説をなんとなく読んだが、意味がよく分からなかった。読んでいる最中酔っぱらっていたんだろうか。

で、このあいだ本屋さんに言ったら、たまたま洋書のコーナーで久しぶりにキングの本、それも「11/22/63」という不思議なタイトルのを見つけた。表紙がケネディだったので、ひょっとしてキングがケネディ暗殺のノンフィクション書いたのか?とびっくりした。あらすじを読んだらケネディ暗殺阻止のタイムトラベルものでなおさら驚き、思わず買ってしまった。

もともとケネディ暗殺って映画化されたり特集されたり未だに様々な説があって一種の歴史の謎のような扱いになっている。一般の関心も高い題材だし、個人的にも興味のあったテーマで、そこにキング、さらにタイムトラベルと、面白そうな要素が満載なので期待して読み始めて、まずのけぞったのはタイムトラベルの設定。

知り合いのじいさんがやってる食堂の、食料とか貯蔵しておく地下に続く階段を下りていくと、いつの間にか過去に通じている。それだけ。科学的な説明とかは一切なし。そういう小難しい理屈がでてくる小説ではないのだよという潔さにじんときた。むしろ過去に到着したときの雰囲気、時代感、そんなのがしっかり描写されていて、理屈は抜きにして1950年代なんだなと思わせてくれる。SFではなくタイムトラベルは話の入り口に過ぎないので、それでいいのだった。

それから主人公が最初に赴くのがデリー。ここでぞくぞくした。デリーはキングの「IT」の舞台になった町で、キングのアメリカの中でも一際重要な街。そしてなんと主人公はデリーで、「IT」の主人公達の2人と出会う。リッチー・トージアとベヴァリーだったかな。「IT」はキングの中でも大好きな本で、この時点でなんだかこの本は傑作に間違いないとか思ってしまう。

その予感は当たって、とっても面白い本だった。

キングのユニバースとの関連はたいしてない(と思う)んだけど、タイムトラベルものとしての設定がサスペンスを増している。

ポイントその1は、主人公が戻れるのが過去の一時点と決まっていること。ある一点にしか戻れない。それはケネディ暗殺の数年前で、暗殺を阻止するためには、過去で数年間生活しなければならない。

資金はあるとはいえ数年分の生活をまかなうほどではないし、それに何年も仕事もせずふらふらしていたら怪しまれて逆に任務に支障を来すかもしれない。それで主人公は仕事をすることになるんだけど、これが大きなドラマの始まりになっている。

もともと高校の先生だった主人公は過去でも教職に就く。そこで主人公は運命の人と出会い、恋に落ちる。

ポイントその2は、過去は改変を嫌うという設定。つまり、主人公が史実と異なることをしたり、ケネディ暗殺を阻止しようとしたりすると、それを邪魔するような出来事がおきる。

最初に、主人公は本当に過去を変えられるのか確かめるためにまずちょっとした実験を行う。暴力衝動のある父に殺される少年が生き延びられるよう、過去を改変しようとする。実験は成功するものの、様々な食い違いが起き、主人公は危うく命を落としそうになる。それなりの代償を厭わなければ、過去をかえることはできる、ということがわかる。

問題は、その代償。歴史に与える変化が大きいほど、元に戻ろうとする力も強まるようで、後半、歴史を変えようとする主人公に迫り来る危機また危機がサスペンスを盛り上げる。

過去が改変を嫌うという設定は他でも見たような気がするけど、キングが書くとまるで歴史が生き物のように、邪魔をする主人公に襲いかかってきているような感覚に襲われる。

ポイント3、主人公は任意に現代に戻り、何度でも過去にタイムスリップできるんだけど、タイムスリップするたびに、その前にタイムスリップして行ったことは全てリセットされ、なかったことになる。

そして戻れる時点が決まっていることを考えると、主人公が本格的にタイムスリップ旅行をする機会は、ほぼ1回こっきり、ということになります。最後の最後で失敗したから、じゃもう一回、という訳にはいきません。そのたびに何年も経過していたら成功するまでの間におじいちゃんになってしまいます。

というわけで、物語の大部分は、主人公が暗殺を阻止するまで過去で過ごす数年間の生活にあてられます。

そして予想もしてなかったラブロマンスが始まり、ケネディ暗殺を忘れちゃいそうになるくらいの恋愛物語が続くのですが、やがて暗殺日が近づくにつれてサスペンスが戻ってきます。

オズワルドの調査なんかも興味深く読めるんだけど、後半の怒濤の進行はすごい。キングの筆力はまったく衰えてないなぁと思いながら読み進め、最後の数十ページは自分の読書スピードの遅さにもどかしくなるくらいだった。

ラストもよかった。このラストはキングの当初考えていたものとは異なり、キングの息子の意見を採用して書かれたそうだが、最初の案より遥かにいいと思う。読んでて涙が出そうになった。

すでに翻訳が出ていたのは途中で知った。でも、上下巻の翻訳に比べるとペーパーバックはずいぶん安いのでこれでいいんだと言い聞かせて読んだ。

久々によんだキングが面白くてほっとしたせいか、このあと続けてDoctor Sleep、Mr.Mercedesと読み続けることになる。

なお2016年にドラマ化され、そちらも原作の良さを残したいい出来だった。ドラマ版の感想はこちら。

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