「密室・殺人」の感想。優れたミステリー。ホラー要素はちょっとありますが、ホラーではありません。

密室・殺人。タイトルからしていかにも本格もののミステリーなんだけど、どうしてこれが角川ホラー文庫で出版されたんだろう。作者が「玩具修理者」の著者だったから、というのが大きな理由だと思う。作中にもホラーっぽい要素が入ってはいる。それはアクセントのようでありながら、物語の根幹(とわたしが思う部分)に密接に関わっている。だけど、だからといってこれをホラー文庫で出すのはおかしい。どう考えてもこれはまっとうなミステリーだから。

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とある探偵事務所に依頼がくるところから始まる。事務所の主は四里川陣といい、警察からも一目置かれ過去にも難事件を解決したことがあるらしい、実力のある探偵。ただしかなり癖のある人物で、密偵などの必要性から表にでることを極端に嫌がり、依頼人が来ても隣の部屋に隠れて直接対応しようとはしない。この事件でも依頼を受けはするものの、自分では現場に出向かない。

その探偵に代わって捜査するのが探偵助手の四ツ谷礼子。この人が本作の主人公。

けっこう特徴的なのが主人公の関西弁。そして、探偵になんで自分で調査にいかないの?と突っ込みながらも結局は言われるがままに(丸め込まれるがままに?)薄ら寒い雪の降る田舎町に調査に出かける。

とてもおもしろい小説だった。推理小説としてもなんというのか、あまりに無茶苦茶な前提を用意したり、あまりに些細な部分で理屈をつけたりするのではなくさっぱりとしたトリックになっていて納得感のあるものだったし、その後にあるどんでん返しというのか、それもひょっとしたらうすうす感づく人もいるかもしれないけど、なかなか鮮やかなものだった。

この小説は後に創元推理文庫で出版されていて、わたしが読んだのはそれ。で、それについている大森望の解説に必要な解説は概ね書かれていると思う。そこでわたしがさすがと思ったのは殊能将之との類似に言及していることです。

たしかに、この小説は殊能将之のとくに「ハサミ男」に似てる。

個人的には、トリックとかもそうだけど推理小説らしい部分以外で、なにか重いものを秘めていそうな雰囲気が共通している。

「ハサミ男」は主人公の自殺願望というテーマが随所に出てきて、XTCの陽気な曲シザーマンをもとにしたというタイトルとは裏腹に全体に重く暗い雰囲気が漂っている。で、「密室・探偵」では同じように主人公の四ツ谷礼子がかつて遭遇したバラバラ殺人事件が裏に存在し、それが最後に表のストーリーと結びつく。

で、どちらもその細かな背景が詳しく語られることはない。

そのへんの雰囲気が、わたしの好みに合っている。もちろんミステリとしても、あまりに凝りすぎたりメチャクチャすぎたりせずにどっちかというと一発芸的な鮮やかなものである点も好ましい。ハサミ男もこれも、あの部分はどうだったんだろうと読了後すぐに再読したくなるタイプの本。

四ツ谷礼子はその後どうなったんだろう。別の短編(「正直者の逆説」)にも登場していますが、ここでは設定が違っていてパラレルワールドでのお話みたいになっている。(この短編を読むと、小林泰三の作品のすべてがパラレルワールドかも知れないとも思える)また、「セピア色の凄惨」で幕間に登場するレイは、おそらく四ツ谷礼子なのではないかと思えるけど、これもまた「密室・殺人」とは設定が異なっている。

要するに、よくわかりません。スターシステムを採用しているか、平行世界の住民のようです。

また本作では後に「因業探偵」で主役をはったり、他の短編にもたびたび登場する新藤礼都が登場します。本作はわりとシリアスで、また新藤礼都は後半のみに登場する出番があまりない役なので、その性格の一端が垣間見られるだけです。後半の目に涙を浮かべての演説なんかは他作品を読んだあとだとまるっきり嘘だろというのがよくわかりますし、逆に同級生と張り合うためにうだつの上がらない弁護士と付き合っていたというのが意外な感じがします。

まとめ

まずミステリとして面白い。そして背景にある猟奇殺人。両者が絡み合って生まれる最後の種明かし。とてもおもしろかったです。新藤礼都、四ツ谷礼子、岡崎徳三郎、あと警察の人など、その後の小林泰三作品に登場する人たちがでてくるのでそういう意味でも面白い。