ニール・ゲイマン原作の、死と性にみちた神話的な不思議なドラマ、アメリカン・ゴッズ。原作既読で読んでも楽しめるし、知らなくてもどうなるのか筋の読めない展開と悪くない台詞で楽しめる。いまのところ、良くできたドラマ。
第6話も、やはり冒頭で神についての物語が語られますが、第5話の紀元前から今度は大きく下って時代は現代。場所はメキシコ、画面に映るのはどうやらアメリカに不法入国しようとしているメキシコ人たちのようです。
夜の闇に乗じて国境の川を渡る移民たち。ここを渡りきれば大丈夫、というところでお父さんがおぼれてしまう。もうだめかと思ったとき、「ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間」の最後の場面よろしく沈み行く手がしっかり掴まれ、お父さんは無事引き上げられる。
助けてくれたのは、ジーンズに白いシャツの男なんだけど、お父さんは川の中ほどでおぼれていて、船で渡っていたわけでもないので、いったいどうやって引き上げたのか。
そして何とか岸にたどり着いたお父さんの後から、白シャツの男は水面を歩いて岸に向かってくる。
これ、イエス・キリストなんですね。
メキシコでもスペイン人侵略以来キリスト教は盛んで、結構弾圧されながらも根付いている。弾圧されている、という点がポイントで、だからこそ信者の信仰は篤いものになっているのかもしれない。
無事アメリカ側?にわたったメキシコ人一行は、残念ながら即座に国境警備隊にみつかって問答無用で銃で撃たれます。そしてキリストも銃弾に倒れるのですが、丁度手のひらを銃弾が貫き、まるで貼り付けにされたキリストみたいな格好で血に倒れます。たおれたキリストの頭上をタンブルウィードが転がり、そのときキリストの頭に茨の冠が出現する。
以前の回でもウェンズデイが言及していましたが、キリストはそうとう成功している神だと。そして国が違えば、それぞれの国に応じたキリストがいるということで。
第6話ではレプラコーンもキリストをダチ呼ばわりしてるので、日本の八百万の神みたいに人間の信仰ベースの神々を前提にしているアメリカン・ゴッズにおいては、キリスト教の神イエスも容赦なく分裂するようです。スペインにはもともとのキリストがいて、メキシコに渡ってしばらくして、メキシコのキリストが生まれたんでしょうかね。そうすると、当然キリシタンの神であるキリストもいたに違いなく、青森にあるイエス・キリストの墓というのもあながちホラではない・・・?
それはともかく、シャドウとウェンズデイは協力してくれる仲間を求めてヴァージニア州を訪れる。
ヴァージニア州でかれらがあったのは、武器弾薬を製造しているヴァルカン社の社長をつとめるヴァルカン。ウェンズデイはヴァルカンをウィスコンシン州にくるようにさそい、また同時に自分用の剣を作ってくれるように頼む。
ヴァルカンは今までの冴えない古い神と違い、会社を経営し、豪邸に住み、ずいぶん羽振りがいい。年に数回、工場の溶鉱炉に従業員が「事故で」落っこちてしまい、それを生け贄としているらしい。さらに製造する弾薬にはすべてヴァルカン社の刻印がされていて、銃を使う度、ヴァルカンに祈りを捧げることになる。「銃弾は祈りだ・・・人は引き金を引く度に、魂が満たされていく。腰に携えれば、おれのぬくもりを感じる・・・」「映画館に響く乱射音が、俺に対する祈りなんだ。そしてその祈りが、さらなる祈りを呼ぶ」映画館の乱射音て、もちろんアクション映画の音響効果のことではありませんね。
この、銃を祈りにするというのは、第5話でウェンズデイが新しい神々に勧誘されたのとまさに同じ。つまりヴァルカンはすでに新しい神々の側に与していたのでした。
火山と剣の神であり、人々にすっかり忘れ去られていたヴァルカンに、新しい神々は銃を与え、ふたたび信仰される対象としてくれた。
自分の訪問をすでに新しい神々密告されたことを知ったウェンズデイは、それが信仰のフランチャイズ化か?と問う。おれの宗教はモラルは問わん、と嘯くヴァルカンに、モラルがあろうとなかろうと、信仰には生け贄が必要だ、と答えるウェンズデイ。そして・・・
この辺のやりとりもみていて面白い部分でした。
それから第6話では同時進行でレプラコーンとローラの場面も語られます。シャドウたちとおなじ警察署に連れてこられた二人はなんとか逃げ出してモーテルに戻りますが、乗っていた車は警察に押収されている。そこでレプラコーンが目を付けたのが、そこにとまっていたぼろいタクシー。そして、そのタクシーの持ち主は、第3話に登場したサリムなのでした。
結局タクシーで同行することになったこの3人、サリムはメッカに向かったジンを追い、ローラはシャドウを追い、レプラコーンはローラの胃の中のコインを狙う。原作だとサリムのその後って1行くらいであっさり死んだとかかかれていただけだったような気がするのですが、ドラマではレプラコーンたちとからんでどんな行動を見せるのか、楽しみです。レプラコーンの活躍?ぶりも含めてこの辺もドラマと原作で大きく変わっている部分。
第5話の感想はこちら。
第7話の感想はこちら。