クメール・ルージュによる恐怖支配下の生活を描いた「最初に父が殺された」の感想。

クメール・ルージュによるカンボジア内戦を少女の目線で描いた、ネットフリックスオリジナル映画。

クメール・ルージュ関係の映画はこれまでも「キリング・フィールド」「地雷を踏んだらサヨウナラ」「運命の門」とかがあったけど、どれもカンボジアに駐留する記者や学者など、外国人が主人公だった。

それに対しこの映画はカンボジア人の内部からの目線で描かれている。それだけでなく、主人公が幼い少女で、ほぼその少女の視点で物事が描かれている点がとても特徴的。

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歴史ドキュメンタリー的なわかりやすさではなく、当事者の実感を感じさせる映画。

カンボジア内戦、クメール・ルージュの台頭と崩壊を、俯瞰的にみて分かりやすく描く、というアプローチとは間逆。もっとも「キリング・フィールド」「運命の門」もそうだったと思うけど。なお、この映画も実話にもとづいています。内戦を生き延びた女性の自伝が元になっていて、その女性も脚本に参加しています。

大局的な観点はない代わりに、当時プノンペンに住んでいた人々が、その後どういう生活を余儀なくされたかというのが綿密に描かれている。オンカー(組織)のためという大義名分のもとに住居も財産も持ち物も奪われ、クメール・ルージュ以前の社会で政府や軍と関わりのあったものは処刑され、残りはどっかの田舎に徒歩で移動させられ、自分で作らされた粗末な家に住まわされ、農耕や戦闘訓練を強いられ、作った米は組織に召し上げられ、家族は引き離され、ひたすら飢え、空爆を受け、逃げるものは地雷でボンボン爆発する、という日々が、わりと淡々と描かれている。

主人公一家の父はバレたら処刑される身分だが、工場労働者だと身分を偽って検問を突破する。最初は田舎の親戚の家にやっかいになるが、ばれたら親戚にも累が及ぶということで追い出され、結局は集団疎開先で強制労働に従事することになる。

最初は3ヶ月たったら家に帰れると言われ、主人公はそれを素直に信じていたが、徐々に家に帰るどころではないことがわかってくる。食料も尽き、父が捕まえてきたバッタをよるこっそり焼いてみんなで食べる。父がくすねてきた貴重な米を、主人公は空腹のあまりこっそり食べてしまう。

悲惨な話だけど、ことさらに強調してはいない。

この映画の描き方としては、カンボジア、とかクメール・ルージュを描きながらも、幸せな生活が一瞬で崩壊し、あとに地獄が続くという戦争の怖さをカンボジア内戦に限定せず普遍化して描こうとしているように思える。内戦に対しても映画製作者の判断は一切なく、全て、主人公の少女の目に映った出来事を少女の視点で捉えていて、ある意味中立的な態度で描いている。それはうまく行っていると思います。

あくまでも景色は美しく、強制労働させられてはいるけれど、農業は尊いもので、植えている稲は光り輝いているように見える。カンプチア万歳!とかいって少年少女たちに竹槍訓練や格闘技を教えていた女教官は、空爆であっさり死ぬ。最後にたどり着く難民キャンプで、クメール・ルージュの一人が捉えられ人々にボコボコに殴られている姿に、主人公は殺された父の姿を重ね涙する。

敵味方区別なく、暴力、戦争はよくない、ということですね。戦闘訓練に明け暮れていた女教官があっさり死に、主人公が逃げ出そうにも、かつて自分で埋めさせられた地雷で身動きがとれなくなるところは戦争の虚しさを端的に表していたと思います。

ちょっと疑問に感じた点。

この映画でちょっとずるいと思うのは、基本的に少女の見たものだけを描いているはずなのに、父親が処刑される場面が客観的な描写として現れる点。あるいは少女の想像として描いたのかもしれないけど、ハンマーで殴り殺される姿をまるで少女が見ていたかのように思える。

インパクトのある場面で、緊張感のあるわりに直接的な描写の少ないこの映画で一つのキービジュアルになっているとは思うが、個人的にはこのシーンはあえて入れなくてもよかったのでは、と思う。同じことは主人公が母の遺体にすがってなく場面にも言える。あれも、実際にあったことなのかただの想像なのかわからない。

あとは、主人公の顔のアップを多用する撮影スタイルが気になる人は気になるかも。個人的には意図はわかるけどちょっと使いすぎだろうと思った。

それから、基本的に牧歌的な風景の中で進行するストーリーで、音楽も派手派手しいものは一切ない。なので、映像スタイルと語られる惨状がずれているように感じる時がある。それはギャップを意図したというより、単純に風景はなるべく美しく描こうとしているだけに思える。普段、怖い場面では怖い音楽、みたいなわかりやすいジャンル映画ばかり見ているので尚更そう思うのかも。

主人公の父を演じた俳優?は、「運命の門」では悪名高い強制収容所の所長になったドッチを演じた人。カンボジアの裁判では本当のドッチの通訳だったという異色の経歴の持ち主。最初は八嶋智人に似ていると思ったが、時々トニー・レオンにも見えることに気づいた。「運命の門」のレビューも以下で御覧ください。

映画「運命の門」の感想。カンボジアでクメール・ルージュにとらえられたフランス人の実話。ラファエル・ペルソナーズ主演。
「運命の門」という映画を観た。カンボジア内戦時代、クメール・ルージュに捕まったフランス人の話。主人公はカンボジアで仏教の経典とかを研究していたフランス人の学者。クメール・ルージュにCIAのスパイ容疑で逮捕、監禁され、無事カンボジアを逃れるまでの話。その後のいきさつも少し描かれる。これは実話で、主人公...

余談だけど、この映画の主人公を決めるオーディションの際に虐待があったのでは、とヴァニティ・フェアが報道していた。少女の目の前にお金をおいて、これがあったら何に使う?と聞いたあとで、お金を引っ込めるという行為。監督は、あくまでも映画の場面の一部を使った即興芝居で、少女も周りもこれがお芝居だとわかっていた、と主張して訂正記事を出すように求めているけど、ヴァニティ・フェア側は記事は間違っていないとして応じていないらしい。

カンボジアからも養子をもらっているジョリーだし、虐待というのは言いがかりくさいんだけど、どうなんだろう。続報を待ちます。

  • 最初に父が殺された
  • (First They Killed My Father)
  • 監督: アンジェリーナ・ジョリー
  • 2017年
  • 上映時間 136分
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