映画「運命の門」の感想。カンボジアでクメール・ルージュにとらえられたフランス人の実話。ラファエル・ペルソナーズ主演。

「運命の門」という映画を観た。カンボジア内戦時代、クメール・ルージュに捕まったフランス人の話。主人公はカンボジアで仏教の経典とかを研究していたフランス人の学者。クメール・ルージュにCIAのスパイ容疑で逮捕、監禁され、無事カンボジアを逃れるまでの話。その後のいきさつも少し描かれる。これは実話で、主人公が2000年にフランスで出版した本の映画化だそ+うです。ちなみに原作の評価はamazonの紹介を見ると

息をのむ衝撃と感動!フランスで8つの大賞受賞!

巨匠ジョン・ル・カレ絶賛!!
息をのむ衝撃の展開、魂を揺さぶる感動

クメール・ルージュの手に落ちたフランス人学者が生死を賭して問う人間存在の根源

●原著に寄せられた賛辞から
〈ル・フィガロ紙〉
読者の人生を変えるような力を有する本がある。“門”はそういう本である。
読者は息を詰め、眼に涙して読む。夜目覚めて、もう一度どこかの一節を読み返したくなるだろう。
〈ル・スペクタクル・デュ・モンド誌〉
黙示録に縁取られた深い孤独と、魂の存在に対する狂おしいまでの探究の書。

ということで、8つも賞をとっているということから、大げさすぎる宣伝を5割引くらいで考えてみても、かなり評価の高いものらしいです。果たして、この映画版は魂を揺さぶる感動を与えてくれるんでしょうか。

クメール・ルージュの話と言うことでどうしても「キリング・フィールド」と比べてしまいます。同じ場面も出てきます。しかし、印象は全く違う。この映画では銃声はほとんど聞えません。一発も聞えなかったかも知れない。死者は出てきますが、谷に捨てられて折り重なった死体を主人公が発見するという形で描写され、具体的に人を殺すようなシーンは一切ありません。一番残虐な場面は、主人公と一緒に捕まった少年が背中を鞭で打たれ、指の爪になにか痛そうな処置をされる場面。ただしそれ以外に、直接的な暴力描写はありません。主人公も、足をつながれ雨ざらしの状態で監禁されますが、食事はあたえられ、時々川で水浴びもでき、ひどい環境ですが拷問などはされていません。それから劇中で音楽が流れることがないため(エンドクレジットの時に民謡みたいな歌が流れるだけだと思う)、カンボジアの森、田園を背景に、主人公とドッチというクメール・ルージュの幹部?のやりとりを中心に、人と人とのやりとりが静かに映されていきます。「キリング・フィールド」のような地獄巡りみたいな雰囲気はありません。

それがクメール・ルージュの恐ろしさを引き立てているのか、というとそうでもなく、捕まった主人公とクメール・ルージュのやりとりも、わりとのどかに感じます。かといって、敵対する物同士の友情みたいな話になるのかというとそうでもない。

主人公は脱走を試みて失敗したりしてなんどか処刑されそうになりますが、ドッチが処刑せずに生かしておきます。なぜか。そもそも、主人公がスパイでないことは明らかであり、フランス人を殺害することで国際的な関係がこじれることを恐れたから。ドッチはそのように理性的な面もある人物として描かれている。やがて主人公は無罪となり釈放され、クメール・ルージュの重要文書をフランス大使館に届けるよう指示される。しかし、主人公と一緒に捕まった二人の若者は釈放されない。

その後は急速に勢力をますクメール・ルージュから逃れた人々はフランス大使館に避難し、そこから国外脱出を計る。このあたりは「キリング・フィールド」でも同じような場面が描かれていますね。主人公は外国人なので出国できたんですが、大使館の職員と一緒に脱出の手助けをしていました。主人公の奥さんはカンボジア人で、娘ともう一人のカンボジア人女性にもパスポートを持たせて一緒に脱出しようとします。陸路での脱出と言うことで検問などの困難が伴い、ドラマがあります。映画のクライマックスにあたる部分で、なかなか緊張があります。主人公はなんとか無事に脱出し、ここで危機的状況はおしまい。

その後、ドッチが悪名高い収容所の所長となり、1万人以上の処刑に関わったことが明かされる。さらに数十年後、タイで発見されたドッチはクメール・ルージュの戦争犯罪を裁く特別法廷で裁判を受ける。クリスチャンになって人道活動に従事していたドッチは、フランス人の友人としか会話したくないという。主人公はカンボジアに出向き、二人は数十年ぶりに対面する。

とても淡々と進む話で、相手は銃を持っているクメール・ルージュなのでいつ何が起きるか分からないという緊張感は漂っています。国外脱出行もそれなりにはらはらしますが過剰な演出は無いのでやはり淡々と進んでいく印象です。ドッチのキャラクターも、人間の残虐性や矛盾を深掘りしようとしているのかというと、そうでもない感じで、ようするに実話に基づいて構成したら地味な映画になった、ということなんでしょうか。主人公の妻は結局出国することに失敗します。主人公と共に捕まった助手と、絵の上手い少年は、処刑されていたことがわかります。その時ドッチはどう考え、なにを思っていたのか。

魂を揺さぶられるようなことはなく、カンボジアとかクメール・ルージュに興味のない人はあえてお金を払ってまで見なくてもいいかな、と思いました。しかし意図したのかどうかわかりませんが銃声もなく痛い場面もあまりないので、ほどよい刺激で家族一緒でもまあ見られると思います。それでも適度な緊張感を孕んだ雰囲気が続き、退屈せずに見られます。感じとしては、エンターテイメント的な演出を排した「アルゴ」のような感じです。映像はきれいで、ドキュメンタリータッチというわけではありません。個人的には典型的なハリウッド的演出の映画よりもこういう映画のほうが好き。

ところでタイトルの「運命の門」とは、フランス大使館の門のことだそうです。大使館に入れたかどうかが運命を分けたところが確かにありますが、映画ではそこまでフィーチャーされてませんでした。

主人公はラファエル・ペルソナーズ。「黒いスーツを着た男」で主演した、アラン・ドロンの再来とか言われていたイケメン俳優です。対するドッチはポーン・コンペーク(Phoeung Kompheak)さん。この人は何者かというと、なんと実際のクメール・ルージュの裁判の際に本物のドッチの通訳をしていた人だそうです。どこかで見たことあるような顔立ちで、どうも日本の八嶋智人さんに似ているようです。監督は「インドシナ」のレジス・ヴァルニエ。一発屋といったら失礼でしょうか。

  • 運命の門
  • (Le Temps des aveux)
  • 監督: レジス・ヴァルニエ
  • 2014年
  • 上映時間 95分

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